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幸せを科学する 大石 繁宏(著) - 新曜社
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幸せを科学する 心理学からわかったこと

発行:新曜社
四六判
238ページ
定価 2,400円+税
ISBN
978-4-7885-1154-5
Cコード
C1011
教養 単行本 心理(学)
出版社在庫情報
在庫あり
初版年月日
2009年5月
書店発売日
登録日
2010年6月3日
最終更新日
2010年6月3日
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書評掲載情報

2013-03-10 日本経済新聞
評者: 筒井義郎(大阪大学教授)
2009-08-02 朝日新聞
評者: 広井良典(千葉大学教授・公共政策)

紹介

誰しも、幸せになりたいと願っています。幸せは人間にとって永遠の課題なので、幸せに関する本もたくさん出版されていますが、ほとんどは哲学者や宗教家、小説家によるものです。心理学の実証的な研究にもとづく幸せについての本はありませんでした。従来の心理学では、幸福感といった主観的なことがらは研究対象として認められなかったからですが、近年になって研究方法が進歩するとともに、人々にとって重要なことがらを研究することが重要視されるようになり、幸せに関する研究も一挙に進みました。この本を読めばすぐ幸せになれるほど人生は甘くありませんが、しかし、幸せへのヒントはたくさん詰まっています。

目次

はじめに

第1章 幸せと理想の人生
幸福とは?
幸福観の文化差
第2章 幸せとは何か?――西洋哲学の考え方
アリストテレスの理論
その他のギリシャ哲学
第3章 幸せとは何か?――東洋哲学の考え方
孔子
仏教
第4章 文化と幸せ――文化心理学からの視点
文化と人間の本質
理想の人間像
協調性と幸福感
文化と対人関係
幸せは、人に見せるもの?
幸福感の記憶
文化と幸福感――まとめ
第5章 幸せをどう測るのか?
人生の満足度得点
満足度尺度の信頼性
満足度尺度の妥当性
自己報告の問題点
人生の満足度の測定と文化差

第6章 幸せの自己評価過程
何が自己評価に影響を与えるのか?
昔は良かった?
自己の成長
アクセス可能性
満足度の判断のスピード
感情経験の記憶
満足度の判断はトップダウンか、
       それともボトムアップか?

第7章 経済と幸福感
お金と幸せ
社会階級と幸せ
家のある人は幸せ?
所有物と幸せ
第8章 運と幸福感
適応能力
どう悲劇から立ち直るか?
悲劇への適応の個人差――運と遺伝子
第9章 結婚と幸福感
何が結婚生活の満足度を予測するか?
愛は盲目?
夫婦の満足感
夫婦のコミュニケーション
満足度の衰退

第10章 友人関係と幸福感
幸せの進化論
「浅く広い」関係の強み
友人関係の性差、文化差、個人差

第11章 性格と幸福感
幸せは遺伝?
性格と幸福感
目標達成と幸せ
一貫性と幸福感
他人との比較は、幸福の毒
知覚と幸福感
チョイスと幸福感
感謝の気持ち

第12章 幸せになるための介入
感謝介入法
満喫すること
その他の幸せ介入法
幸せ介入――今後の課題
幸せになる薬?
第13章 幸せの効用?
幸せは役に立つのか?
幸せな人は稼ぐ?
幸せは結婚を呼ぶ?
幸せが健康へ?
幸せが長生きの秘訣?

第14章 最適な幸福度とは?
幸福感と学業成績
幸福感と対人関係
将来の年収が最も高い幸福度とは?
将来の恋愛関係に最適な幸福度とは?

第15章 幸せな社会とは?
理想の社会を求めて
幸せな国はどこ?
幸せな国の特徴
うまく機能しているコミュニティとは?

おわりに

事項索引
人名索引

前書きなど

幸せを科学する はじめに
 誰かに「あなたは幸せですか? 自分の人生に満足していますか?」と聞かれたら、あなたはどう答えるだろうか。もし答えが「ノー」であれば、次の質問はどうだろう。「あなたは幸せになりたいですか?満足できる人生を送りたいですか?」ほとんどの人の答えは「もちろんイエス」なのではないだろうか。幸せになりたいという欲求は、今や現代人にとって、お金持ちになりたいとか綺麗になりたいということと同等、あるいはそれ以上と言えるかもしれない。 幸せは人間にとって永遠の課題であり、紀元前4世紀のアリストテレス以来、さまざまな哲学者や宗教家、小説家によって探求されてきた。事実、今日書店で目にする幸せに関する本のほとんどは、哲学者、宗教家、あるいは小説家やエッセイストによるものである。なぜ、心理学者によって書かれた、実証研究に基づく幸せについての本が少ないのだろうか?

 心理学は、人の心を実証的に研究する学問であり、心理学者は人間にとって重要なさまざまな問題を追い続けてきた。たとえば、言葉はどのようにして獲得されるのかといった言語発達の問題であったり、なぜあることは何年も覚えていられるのに、週末に何をしたかはすぐに忘れてしまうのかといった記憶の問題であったり、毎日のぼる駅の階段がなぜ疲れている時にはけわしく見えるのかという視覚の問題である。心理学が大学の学問として認められて1 0 0年以上たつのだから、何が幸せか、誰が幸せか、どうすれば幸せになれるのかという人間の永遠のテーマについてのさまざまな実証的データが長年蓄積していても不思議ではない。

 ところが、心理学では幸せという問題は、つい30年ほど前まで、研究に値するような現象とは見做されていなかった。たとえば、1948年にハーバード大学のヘンリー・マレーとクライド・クラックホーンは、 有名な『自然と社会と文化のなかの人格』という本の冒頭で次のようなことを言っている。「さまざまな目標のなかでも、幸せが唯一理性的な目標であるというアリストテレスの断言は論破されたためしがないが、にもかかわらず、これまでに幸せについての心理学を開拓しようとした科学者はいない。」というのも、マレーとクラックホーンによれば、幸福は規定不可能な概念だからだそうだ。つまり、幸せをどう定義し、どう測定したらよいのかは、さまざまな潜在欲求を測定することに成功した天才心理学者ヘンリー・マレーにとってすら不可能だと考えられていたのだ。1920年代から1940年代にかけてのアメリカ心理学は、行動主義の影響が強く、客観的行動に現れる変数しか研究対象としないという極端な科学思想が強かった。当時は、主観的な概念の代表とも言える幸福感は、心理学者が扱うべき概念ではないと考えられていたようである。

 時は移り、アメリカ心理学界でも1960年代に入って行動主義の勢力が弱まり、人間の世界の受け取り方を研究しようとする認知革命を経て、1980年代から感情や幸福感や愛といった主観的な概念が、徐々に研究対象として認められるようになってきた。これもひとつには、それまでの心理学があまりにも科学の一分野として認められることに精一杯で、実験主義を貫き通し、実験の精緻にこだわりすぎたことへの反動と反省があったからだろう。その頃から、研究対象の現象としての面白さや日常生活との関連性も徐々に重要視されるようになり、過去30年で幸せに関する実証研究が一挙に拡大した。また、心理学者は文化という問題に正面から取り組んでこなかったが、過去20年にこの傾向も一転し、今や文化は社会心理学で最も人気の高いトピックのひとつとなった。

 この本では、それらの成果を心理学者や心理学専攻の学生だけではなく、一般の読者にもわかりやすいようにまとめたつもりである。もちろん、最初から最後まで全部読んでいただくに越したことはないが、この本は読者の関心がある章だけを読んでいただいても理解できるように書いてあるので、関心のトピックがお金と幸せとの関係や恋愛と幸せとの関係などに限られている方は、第7章以降だけを読んでいただいても構わない。ただし、幸せに関する心理学的な専門的知識を身につけたい、またその背景にある概念的問題や方法論的な問題も理解したいと望む方には、最初の6章も是非読んでいただきたい。また、これは欲張り過ぎかもしれないが、クラシックな著名論文から最近の動向を示すような論文まで幅広い文献を引用し、大学院のセミナーの教科書としても使っていただけるように書いたつもりである。いずれにせよ、日本での幸せ研究の発展に少しでも貢献できればと願っている。

上記内容は本書刊行時のものです。