書店員向け情報 HELP
出版者情報
在庫ステータス
取引情報
ブロンテ姉妹
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2010年9月
- 書店発売日
- 2010年9月22日
- 登録日
- 2010年9月3日
- 最終更新日
- 2014年12月19日
書評掲載情報
2010-10-10 | 日本経済新聞 |
MORE | |
LESS |
紹介
ブロンテ姉妹が生きていたのはどんな時代だったのか?当時、そして現在、作品はどのように読まれているのか?作家の生涯と作品を、社会や文化といったコンテクストで読み解き、いきいきと蘇らせる最適の入門書。シリーズ第一弾。
目次
目次 ブロンテ姉妹
日本語版への序文 テクストとしてのコンテクスト
第一章 シャーロット・ブロンテ、エミリ・ブロンテ、
アン・ブロンテの生涯
家族
生徒と教師
より広い世界――ブリュッセル
文壇――勝利と失望
有名文人の孤独な生活
結婚と新しい家族の輪
第二章 社会構造
政治ゲーム 一八一五~一八五五年
社会階級
・階級の指標/・階級についての諸説
女性の性質と役割
・女性の教育と仕事/・売春と堕落した女たち
さまざまな宗教
狂気と精神
・体制の変化――精神病院と医者たち
・診断と治療
帝国と東洋
第三章 文学のコンテクスト
文学の供給源
・ゴシック風なプロットと場所
・バイロン風の主人公
アングリア物語とゴンダル物語
出版業、出版、書評
検閲と大衆の好み
ブロンテ姉妹の小説観
第四章 ブロンテ姉妹の小説と社会階級
階級の境界線
境界を監視する――ガヴァネス問題
ガヴァネスの苦悩
『シャーリー』における階級闘争
『嵐が丘』における社会移動
第五章 ブロンテ姉妹の小説におけるジェンダー、
国民性、人種
イギリスの女性性と家庭生活
女性のステレオタイプを逃れて
東洋の女性性と『ジェイン・エア』
男性性
第六章 ブロンテ姉妹と精神(プシケ)―精神と身体
心を読む
知られざる自我
ゴシック的な精神状態
第七章 ブロンテ姉妹の作品における宗教
宗教の政治学
道徳原理としての宗教
『嵐が丘』とキリスト教
第八章 ブロンテ姉妹を再コンテクスト化する
1850年から1900年までの翻案と批評
20世紀初期(1890年から1930年まで)の
映画と批評
1930年から1970年までの映画と批評
1970年から2000年までの映画、
テレビ、オペラ
注
ブロンテ姉妹年表
図版一覧
参考文献/ウェブサイト/
ブロンテ姉妹の小説の映画とテレビの翻案物
あとがき
版元から一言
あとがき
本書は、Patricia Ingham が編集主幹をつとめている Authors in Context (Oxford World's Classics) のなかの一巻であるPatricia Ingham 著The Brontës (Oxford: Oxford University Press, 2006) の全訳である。Authors in Contextにはthe BrontësのほかにWilkie Collins, Charles Dickens, George Eliot, Thomas Hardy, Oscar Wilde, Virginia Woolf についての巻があり、それらもこの日本語版叢書として、今後順次刊行の予定である。
本書の著者パトリシャ・インガムについては巻末の著者紹介に譲ることとし、ここでは本書の特徴について触れることにしたい。本書は叢書 Authors in Context の全体の方針にしたがって、ブロンテ姉妹を、彼女たちの誕生当時から現代にいたるまでの社会的、文化的、政治的背景にすえたうえで、彼女たちの創作活動と作品の受容のあらましを説明しようとするものである。したがって、取り扱う範囲は広く、ブロンテ姉妹の家族・交友関係、当時の社会構造(そこには階級、女性の役割、宗教、精神医療が含まれる)、文学の伝統と当時の文壇との関係、ジェンダー・国民性・人種の問題、そして彼女たちの作品が創作されてから今日にいたるまでのさまざまな翻案物(そこには演劇、映画、テレビ、オペラなどの多様なメディアによる翻案物が含まれる)などが考察されている。著者は、これまでハーディ、ディケンズ、ギャスケル、ギッシングなどのテキストを編集し、ヴィクトリア朝の小説に関して幅広く執筆しているだけあって、このような広範囲におよぶ領域でありながら、それを単に浅くなぞるのではなく、深く論じている。
第一章では幼くして母親を亡くしたブロンテ兄弟姉妹の幼年時代から寄宿学校生活、ブリュッセル留学、学校設立計画の挫折、『ジェイン・エア』の成功による文壇への登場、兄弟姉妹のあいつぐ死亡、シャ―ロットの結婚、そして死亡、それに一八六一年における父親パトリックの死亡にいたる、兄弟姉妹の生涯が記述されている。
第二章では当時の社会組織が政治、階級、女性の役割、宗教、狂気、イギリス帝国の観点から詳細に記述される。このうち階級の問題は第四章で、女性の役割の問題は第五章においてジェンダー、さらには国民性、そして人種と関連させながら、狂気は第六章で骨相学と人相学と関連させながら、さらに宗教は第七章で政治ならびに道徳原理と関連させながら、ブロンテ姉妹の小説に即して分析的に考察される。なかでも女性の役割の問題では、ガヴァネスが大きく取り上げられている。これは特にシャーロットとアンに関しては切実な問題であっただけに、当然と言えるだろう。
第三章は、ブロンテ姉妹の創作上の源泉がどこにあるのか、彼女たちの幼少の頃の創作活動、当時の出版事情、検閲の問題、大衆の好み、それにブロンテ姉妹の小説論が詳述されている。
最後の第八章は「ブロンテ姉妹を再コンテクスト化する」という題のもとで、ブロンテ姉妹の作品のさまざまな翻案物について触れた一章である。インガムはこの章を演劇が主体であった一八五〇年から一九〇〇年まで、映画が導入され始めた一八九〇年から一九三〇年まで、さらに映画がトーキーとなって、映画に音声が加わり、映画が全盛を極めた一九三〇年から一九七〇年まで、そして映画にくわえてテレビが登場し、さらにオペラとしても翻案されることとなった一九七〇年から二〇〇〇年までの四つに区分し、その時代時代のブロンテ姉妹批評の特徴を手際よく明らかにしている。なかでも女性の自立の問題、あるいはきわめて今日的な問題である家庭内暴力の問題をブロンテ姉妹の作品がすでに提示していながら、それがながらく見過ごされてきていたのであるが、それが一九七〇年以降の翻案物で再発見されることになったというのは正鵠を射た指摘と言える。
インガムはブロンテ姉妹の日記、伝記、作品を自家薬籠中のものとしたうえで論を展開し、たとえば宗教を扱った第七章では、『ジェイン・エア』のセント・リヴァーズに関し、「セント・ジョンは殉教者だ。しかしはたして彼はキリスト教徒なのか」と疑問を呈し、『嵐が丘』に関しては「姉や妹とは異なり、エミリが道徳的立場をとらずに道徳についての小説を書きながら、道徳面で沈黙を保ったことに意味がある」と断定するなど、説得力あふれる記述をしている。本書によって読者のブロンテ姉妹の理解はさらに飛躍的に深まるであろう。
二〇一〇年 三月三一日 シャーロットの命日 白井義昭
(社)日本図書館協会 選定図書
上記内容は本書刊行時のものです。