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日本とフランスの カワイイ文化論
なぜ私たちは「かわいく」なければならなかったのか
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2025年2月20日
- 書店発売日
- 2025年2月14日
- 登録日
- 2025年1月9日
- 最終更新日
- 2025年4月1日
書評掲載情報
2025-04-13 |
読売新聞
朝刊 評者: 金沢百枝(多摩美術大学教授・美術史家) |
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紹介
1970年代以降、日本文化の特質として語られてきた「かわいい」という概念の日本における位置づけの変遷を追うとともに、それが海外とくにフランスで、クールなポップカルチャーとして受容されていく様を、ジェンダーの観点も交えて社会学的に考察する。
目次
はじめに――なぜ私たちは「かわいく」なければならなかったのか
第1章 日本における「かわいい」の変遷
1.二〇世紀末の「かわいい」論――卒業すべき「かわいい」
(1)一九九〇年代までの「かわいい」論――「かわいい」文化の発見と否定的評価
(2)九〇年代の海外研究者の「かわいい」論
2.二〇一〇年前後の「kawaii」をめぐる論考――否定されるべきものから肯定されるものへ
(1)二〇〇〇年以降の日本の「かわいい」の特質を原点としてもつ「kawaii」――「かわいい」から「kawaii」に至る「系譜」構築
①枕草子を原点とする系譜
②「かわいい」の意匠としての連続性や変化に焦点をあてる系譜――抒情画、昭和四〇年代 少女マンガ、「かわいい」カルチャー
③機能としての連続性に関する系譜
(2)世界を席巻する「kawaii」文化表象の構築
①書籍における「kawaii」の構築
(3)日本の学術論文における「kawaii」をめぐる論調
(4)日本国外で出版された学術論文における「kawaii」をめぐる論調
①アジアという地域に限定された「kawaii」の海外伝播
②「世界的」な「kawaii」文化伝播に言及
(5)「成熟」に対する「未熟」な文化としての「かわいい」/「kawaii」――「かわいいの本質」宮台真司、「かわいいの系譜」キース・ヴィンセント、「クール・カワイイ」トルステン・ボッツ=ボルンシュタイン
3.「『kawaii』ファッション」とは何か――日本の批評家、研究者における諸定義
(1)日本の書籍、学術論考において様々に定義される「『kawaii』ファッション」
①「『原宿系』のガーリーなリアル・クローズであるカジュアル・ファッションとしての「『kawaii』ファッション」
②「マンガ的デザイン」、もしくは「おそらくは日本独自のテイスト〈かわいい〉、すなわち幼児志向を示唆するテイスト」としての「『kawaii』ファッション」
③東アジアの若者と共有できるSHIBUYA 109で展開される高校生向けファッションとしての「『kawaii』ファッション」
④世界中から注目を浴びる「原宿系ファッション」「ロリータファッション」「日本の女子高生の制服ファッション」としての「『kawaii』ファッション」
(2)フランス学術論考において構築された「『kawaii』ファッション」の諸定義――「私たち」とは異なる遠い日本における現象としての「『kawaii』ファッション」
4.日本の芸術運動としての「kawaii」
(1)日本の現代芸術運動を表す「kawaii」
(2)日本の伝統美術のキーワードとしての「kawaii」の形成
5.外交、経済政策の一装置としての「kawaii」――「kawaii」は日本の美意識として正当化されてきたのか?
6.その後の「かわいい」
第2章 フランスにおける「kawaii」に対する若者の言説、および、メディア言説を通して構築された「kawaii」表象の変遷
1.日本文化に精通していた若者たちの言説によって構築され始めた「kawaii」
(1)「kawaii」とは何を意味するか
(2)「kawaii」という言葉から連想されるモノ・人は何か
(3)誰が一番「kawaii」と思うか
(4)「kawaii」とはグローバル化した現象か、エキゾチスムの継承か
2.フランスの新聞によって世論として扱われる「kawaii」
(1)現代フランス新聞において表象として構築されたkawaïあるいは「kawaii」
(2)外来語、ステレオタイプ、表象
(3)フランスの新聞にみる「kawaii」(一九九九~二〇〇九年)
(4)ゼニスムとして使われる「kawaii」
(5)ペレグリニスム
(6)二〇二〇年度以降のフランスの全国紙における「kawaii」表象
①「kawaii」花柄のグッチフローラゴージャスガーデニアオードパルファム by グッチ
②Mirokiロボットは、人間の間をシームレスに移動し、職場で簡単な肉体労働をサポート
③シャオミのロボット犬「CyberDog」シャオミ
④文化的なお出かけ――三月一一日の週末、リヨンで何をする?
⑤日本のヒップホップ界のニューセンセーション、Awich(エイウィッチ)
第3章 フランスにおける「kawaii」ファッションの構築と伝達
1.フランスを軸に二〇〇六年頃から展開していく「kawaii」ファッション
(1)トランスナショナル・コミュニケーション時代における表象としてのファッションの構築と伝達をめぐる言説
2.「kawaii」ファッションの着用者、実践者の言説
(1)フランスの着用者が語る「原宿ストリートファッション」
①着用者のアイデンティティについて(問①~③に関する回答のまとめ)
②「『kawaii』ファッション」は文化無臭的なスタイルとしてとらえられているのか、もしくは、オリエンタリズム、エキゾチシズムの流れでとらえられているかについて(問④~⑦に関する回答のまとめ)
③「『kawaii』ファッション」のビジネスチャンスとしての可能性について(問⑨~⑩に関する回答のまとめ)
(2)フランスのロリータファッション着用者が語る「kawaii」
①インターネット・フォーラムの着用者が語る「kawaii」
②ジャパン・エキスポにおけるロリータファッション着用者の例
(3)日本の「『kawaii』ファッション」着用者
(4)総合考察
①日仏「『kawaii』ファッション」着用者の共通点、「本当の自分になれる」
②日仏「『kawaii』ファッション」着用者の相違点――「『kawaii』ファッション」は日本のファッションか西洋のファッションか
③「『kawaii』ファッション」は未熟か成熟か
④日仏観察者とフランス着用者のずれ――皆日本人になりたいのか
⑤日仏着用者のずれ――憧れとしての互いのファッション
3.「kawaii」ファッション――フランスのマスメディアと書籍で再定義される「kawaii」ファッション
4.アプロプリエーションとインスピレーション、あるいは戦略と戦術? フランス、日本、ロンドンのファッションデザイナーによる「カワイイ」の表象
第4章 フランスにおける「かわいい」未熟な日本女性像の変遷
1.小さくてかわいいmousmé(ムスメ)の誕生
(1)「野蛮」で「奇妙」なゲイシャ・ムスメ像
(2)西洋化したムスメ
(3)フランス人女性によるムスメの模倣
2.現代フランスにおけるkawaii、shôjoの表象
(1)フランスにおけるshôjo受容と表象
3.「kawaii」日本人女性像――フランスにおけるジャポニスムと現代日本文化受容との関係を通して
4.日仏ファッションメディアにおける規範的女性像の変遷
(1)日本の女性ファッション誌にみる「kawaii」の表象――『anan』を事例に
(2)「かわいい」日本女性像の構築における問い
(3)『anan』における「かわいい」という規範的女性性の構築と変遷
①『anan』創刊時における「カワイイ」――クールでかっこよい自立女性
②『anan』における「かわいい」特集
③一九八〇年代『anan』における「かわいい」――いい女からかわいい女へ
④二〇〇〇年代『anan』におけるかわいいの変遷――「大人かわいい」「kawaii」そして「かわいいからの卒業」へ
⑤『anan』における「かわいい」の変遷を通してみえてくるもの
(4)戦後フランスのELLEにおける規範的女性像の変遷
①ファッションとジェンダー表象をめぐるメディア言説分析
②欧米のファッションメディアにおける「グラマラス」
③一九六六~一九八二年(『anan』で「かわいい」特集が組まれる前、ELLE Franceの姉妹誌であった時代)
④一九九〇年代~二〇〇〇年代
⑤二〇一〇年代
(5)現代フランスの男性ファッション誌、女性ファッション誌における規範的女性像の形成
①男性ファッション誌GQ, LUIにおいて構築される女性像――裸体女性を事例に
②二〇一八年、二〇一九年夏におけるフランスの女性ファッション雑誌における規範的女性像の形成
③考察
第5章 なぜ私たちはかわいくなければならなかったのか
1.「なぜ私たちはかわいくなければならなかったのか」について考える
(1)アプロプリエーションの観点から
(2)「私たちはなぜかわいくなければならないのか」について、ルッキズム、SDGsの観点から
2.超域文化としての現代「日本」文化の形成と伝達――フランスにおけるkawaiiの受容を通して
(1)フランスにおける日本のもう一つのイメージとしての暴力性がフランス社会に百科事典的知識として根づくまで
(2)フランス社会における「かわいい/kawaii」
結論にかえて
初出一覧
主要参考文献
あとがき
前書きなど
はじめに――なぜ私たちは「かわいく」なければならなかったのか
(…前略…)
本書の章立ては以下のとおりである。
第1章『日本における「かわいい」の変遷』では、主に、日本で「かわいい」と言われてきた少女たちがあらゆるものを指し示すために自らその言葉を発し始めた一九七〇年代以降の「カワイイ」(1.)、また、フランスを中心とする海外で流行した日本のポップカルチャーやファッションを指示する言葉として二〇〇〇年代から二〇一〇年代前半に用いられた「kawaii」(2.)、そしてそのような大きなブームが落ち着いた今日、二〇二〇年代は、どのような文脈で「かわいい」は使用されているのか、もしくは否か(3.)を、論考、新聞、政治言説を通して俯瞰的に考察する。これらの通史的考察を通して、日本社会において「かわいい」という記号表象はどのように形成されていったのか、また、この三点にも通底する日本社会における「かわいい」の位置づけについて明らかにする。
第2章では、海外における日本のポップカルチャー隆盛時の二〇一一年、二〇一二年当時、日本文化を勉強していたフランス人大学生によるフランスにおける日本の「kawaii」についてのコメントを考察する(1.)。そのうえで、日本政府がパブリックディプロマシーの一環として「kawaii」を紹介する以前、そして、クールジャパン戦略における「kawaii」熱の終焉の後、二〇二〇年代にフランスで独自に「kawaii」がいかに世論として展開していったかフランスの新聞の言説を通して分析する(2.)。
第3章では、フランスにおける「kawaii」ファッションの展開について概観し(1.)、その実践者のインタビュー(2.)、ファッションメディアの言説(3.)、そして「kawaii」ファッションからインスパイアを受けたファッションデザイナーの作品に対する言説(4.)について考察する。
第4章では、「かわいい」日本人女性を形容する際に、最初にそれらが確立したフランスでジャポニスムが隆盛していた時期から今日に至るまで用いられてきた「kawaii」について、新聞以外のメディア言説を通して検討する(1.~3.)。そのうえで、フランスにおいて「kawaii」ファッションや「kawaii」女性像が受容される背景を知るために、日本のファッション雑誌のプロトタイプともいわれる『anan』におけるかわいい女性像の変遷について(4.(1)~(3))、フランスのメディアにおける女性像の変遷を俯瞰するため、日本で一九七一年の『anan』の創刊時姉妹誌であったフランスの『ELLE』における女性像の変遷について考察する(4.(4)~(5))。
第5章では、第1章から第4章の分析で得た結果をもとに、なぜ私たちは日本のみならずフランスでもかわいくなければならなかったのか、について、現代社会でファッションに触れる際に私たちが直面する課題である①アプロプリエーション(占有)、②ルッキズム(特に若さ信仰)とSDGs(特にジェンダー平等)の観点から明らかにし、最後に、日本独自の側面でもある「かわいい」を通してみる超域文化としての現代「日本」文化とは何かについて明らかにする。フランスにおける「kawaii」の受容を事例に、「かわいい」を通して今の私たちが直面する現代日仏社会の諸問題について考察していく。(……)
(…後略…)
上記内容は本書刊行時のものです。