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ダーク・マターズ
監視による黒人差別の歴史とテクノロジー
原書: Dark Matters: On the Surveillance of Blackness
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2024年7月11日
- 書店発売日
- 2024年6月28日
- 登録日
- 2024年5月15日
- 最終更新日
- 2024年7月23日
書評掲載情報
2024-09-07 |
日本経済新聞
朝刊 評者: 西山隆行(成蹊大学教授) |
2024-09-07 |
朝日新聞
朝刊 評者: 藤田結子(東京大学准教授・社会学) |
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紹介
奴隷制度から現在に至るまで、黒人がいかに監視され続けてきたか。奴隷船の設計、夜間の取り締まり、焼印、空港セキュリティ、生体認証(バイオメトリクス)など、人種的な境界線や国境、身体を再定義する管理と統治の手法としての差別的な監視を晒し出す。
目次
イントロダクション
監視学からみた「人種差別的監視」と「黒人監視」
各章の紹介
第1章 監視研究ノート――帰らざる扉への地図
見られることなく見る――パノプティコンの設計
「パノプティコン」「パノプティカル」「パノプティシズム」に取り消し線を引く――批判的再解釈
2フィート7インチ――奴隷船の設計
監視による人種差別
それはどのようなものか、それは何なのか――黒い外見のイメージをコントロールする
第2章 誰もが太陽の下で少し日を浴びている――『黒人の書』の成り立ち
黒人の逃亡
たいまつ、拷問、そしてトタウ――ニューヨーク市におけるランタン法
所有物とパスポート――フランシス・タバーンでの審問委員会
結び
第3章 黒人性への焼印とブランディング――生体認証技術と黒人に対する監視
黒人への焼印
バイオメトリクス(生体認証)によるブランディング
黒人性のブランディング
結び
第4章 運輸保安局はソランジュのアフロヘアに何を見たか?――空港におけるセキュリティ・シアター
旅程1――ブラックのまま飛ぶ
旅程2――空港の保安検査場での監視
結び――「忘れないでください」
エピローグ
謝辞
原注
参考文献・資料
索引
前書きなど
イントロダクション
(…前略…)
本書は、ファノンに関連する情報をCIAから手に入れようとしてしくじった私の失敗談から始まり、FBIが公開したファノンのFOIAファイル、監視に関する彼の講義が残した短いメモ、友人への手紙から抜粋した、死を目前にしてファノンが経験した「昼夜の監視」を語り、それらを手がかりとして、「The fact of blackness」、および黒人の監視と生活について考察していく。
(…中略…)
暗黒物質という概念は、不透明さ、黒い色、無限さ、黒人に課せられた制限、暗黒、反物質、光学的に利用できないもの、ブラックホール、ビッグバン理論、その他、宇宙論に関わるものを想起させるだろう。暗黒物質とは光学的には観測できない宇宙の成分である。存在すると言われているが、観測できず、実験室での再現もできない。その分布は測定不可能で、特性も不明だ。しかし、この見えない物質の引力が銀河を動かしていると言われている。目に見えず、知ることもできず、それでもなお存在する暗黒物質は、この惑星の常識で言えば、理論上の存在だ。ハワード・ワイナントはこの「暗黒物質」という言葉で人種を説明する。人種は「暗黒物質、すなわち、多くの点で近代の世界を構成する、総じて目に見えない物質であり続ける」と。しかし、「それは誰の目に見えないのか」と尋ねる必要がある。もしそれが総じて見えないのであれば、それはどのように感じられ、経験され、生きられるのだろうか? それは本当に見えないのだろうか、むしろ、多くの人に見られず、認識されていないのではないだろうか? エヴリン・ハモンズは、『ブラックホールと黒人女性のセクシュアリティの幾何学』と題したエッセイのなかで、ミシェル・ウォレスが黒人の創造的天才の否定に関する議論で言及したブラックホールの天体物理学を取り上げ、「もしブラックホールの存在を、周囲の宇宙領域への影響(周囲のものを歪曲し、破壊すること)によって検出できるのであれば」、同じ理屈を用いて、黒人全般、特に黒人女性による「歪曲効果と生産的効果を可視化するための戦略」を構築することができると述べている。つまり本書は、監視研究におけるBlacknessを、認識されないまま周囲のものを生産的に破壊するものとしてとらえることにより、監視研究において「Blacknessの監視」がしばしば見逃されていることや、人種を差別する懲戒的な社会(racialized disciplinary society)においてBlacknessが名状し難い問題であることを示していく。こう考えるがゆえに、本書ではBlacknessを、監視が実践され、語られ、実行される重要な場とみなしており、本書を黒人ディアスポラ、アーカイブ、歴史、現代の研究として位置づける。
(…中略…)
本書は、監視学という新たな分野で生まれたアイデアのいくつかを、大西洋奴隷貿易とその後の監視に関する記録と照らし合わせるとどうなるか、という疑問から生まれ、その対話を通じて人種を対象とする監視を可視化することを目指す。本研究の調査対象には以下が含まれる。奴隷船ブルックス号の設計、パノプティコン、1700年代後半にニューヨークで奴隷生活から逃れた黒人の記録『黒人の書』、大西洋奴隷貿易における奴隷の焼印、奴隷証と逃亡通告、奴隷が日没後に街を移動する際に火の灯ったろうそくを携帯することを義務づけた18世紀ニューヨーク市のランタン法、1800年代の東テキサス農園における奴隷の管理を定めた規則、18世紀のジャマイカで奴隷になった若い女性クーバーの人生など。
大西洋奴隷貿易を現代の監視の技術と慣行の前身として位置づければ、船の積荷目録や奴隷船ブルックス号の積荷図に描かれた奴隷の密集した配置、熱い鉄で奴隷の体に焼印を押す生体認証などは、まさに監視の技術や慣行に相当する。奴隷市場や競売場は、多数の者が少数の者を監視する場であり、奴隷通行証やパトロール、奴隷解放証や自由バッジ、黒人コードや逃亡奴隷通知などは、監視の慣行と技術である。加えて、アーカイブや奴隷の物語、そして多くの場合、黒人の表現活動や創作テキストなどに、監視に対する拒否や批判を見出すことができる。エイブリー・ゴードンの言葉を借りれば、奴隷の物語は「奴隷と自由に関する社会学」だ。なぜならその物語は、自伝的、民族学的、歴史的、文学的、政治的な表現を通して奴隷の社会生活を明らかにし、自由の実践を語り、奴隷生活という例外的状況を暴力によって日常的状況にする際の権力の働きを詳述しているからだ。
(…後略…)
上記内容は本書刊行時のものです。