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マチズモの人類史
家父長制から「新しい男性性」へ
原書: Des hommes justes: Du patriarcat aux nouvelles masculinités
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2024年3月15日
- 書店発売日
- 2024年3月28日
- 登録日
- 2024年2月20日
- 最終更新日
- 2024年4月5日
書評掲載情報
2024-12-14 |
日本経済新聞
朝刊 評者: 武田砂鉄(ライター) |
2024-06-08 |
朝日新聞
朝刊 評者: 前田健太郎(東京大学教授・行政学) |
2024-05-18 |
日本経済新聞
朝刊 評者: 小倉孝誠(仏文学者) |
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紹介
男らしさとはつねに、歴史の産物にすぎない。革新的な歴史叙述で知られるフランスの歴史学者が旧石器時代からの歴史をたどりつつ、男性性がいかに構築されてきたかを時代ごとに検証。時代遅れの家父長制に訣別し、男性のフェミニズム参画を説く最重要書。
目次
序文
Ⅰ 男性による支配
第1章 家父長制のグローバル化
第2章 ジェンダーロール
第3章 支配する男性性
Ⅱ 権利の革命
第4章 最初の女性解放の時代
第5章 フェミニズムの獲得
第6章 女性の解放とは?
第7章 フェミニストの男たち
第8章 国家のフェミニズム
Ⅲ 男性の挫折
第9章 疎外される男性
第10章 男性の病理学
第11章 男らしさの衰退
Ⅳ ジェンダーの正義
第12章 支配しない男性性
第13章 敬意を払う男性性
第14章 平等を重んじる男性性
第15章 家父長制を変調させる
エピローグ――不公平な男性にできること
訳者あとがき
註
索引
前書きなど
序文
(…前略…)
男性に革命を起こすことは、まずジェンダーの公平さを理論化することが前提となる。これはジェンダーをめぐる再分配を目指すもので、社会的な公平さが富の再分配を求めるのと同様である。だが、こうしたプロジェクトの社会的、制度的、政治的あるいは文化的、性的な影響を議論する前に、まず私たちがどのような世界にいるかを理解しておく必要がある。そこには家父長制の長大な歴史と、男性の数々の破綻という二つの逆説的な特徴がある。
両性の平等への歩みが遅かった理由の一つに、男性による支配の歴史に対する無知がある。多くの男女は男性が権力を持っていることを日常的に認めながらも、皆、なぜそうなのか、いつからそうなのかを知らない。もちろん、なぜ男性が世界中で権力者となったのかを知るには、旧石器時代から、新石器時代、古代まで、男性が抽象的存在から優越性と普遍性を体現するものとなったすべての時代について語らなくてはなるまい。そうすることで、私たちは問題の根源にたどり着くことができるのである。現状を変えたいと思うなら、この先遂行すべき諸変化の規模を知るためにもきわめて長いスパンでの展望を持たなければならない。そこから、男性であることへの問いかけが始まる。
位高ければ徳高きを要す。男性の前提とされる高貴さは、彼らにそうあることを強いる。これは支配者であるがゆえに疎外された男性が、いつも潜在的に危機に直面していることを示す。一九世紀以降、男女の序列はフェミニズムの勝利や、女性の責任あるポストへの進出によって揺さぶりをかけられてきた。家族における役割分担の見直しがこれに拍車をかけた。二〇世紀最後の四半世紀では産業の主要拠点が失われ、雇用の第三次産業化によって男性の地位は大きく後退した。労働市場と同様、大学においても、男子学生は次第に女子学生との競合を強いられるようになったが、知識経済によりうまく適合しているのは女子学生の方である。
一方では家父長制の永続性があり、他方ではそれに対する疑念が積み上がっている。どうやったらこの逆説を説明できるだろうか? 実際、男性はもはや支配できなくなるのではと不安に襲われている。これを利用しよう。社会における新しいプロジェクト、すなわちジェンダーの正義を支持するときが来たのだ。これは公平の基準(支配しないこと、敬意、平等)、ジェンダー倫理(男性を導く行動指針)そして転覆活動(家父長制を変調させる)を含み、質の高い社会的関係(ジョン・スチュアート・ミルが言ったように「対等な人びととともに生きる」)に到達するためのプロジェクトである。こうしてジェンダーの再分配が可能となる。したがって、権限、責任、活動、遊び、私的および公的役割の平等な分配が可能な新しい札が必要になる。
本書は四つの部を通して、それらの提案を展開する。第Ⅰ部では家父長制社会の形成をたどる。第Ⅱ部ではフェミニズムの闘いと闘士たちに光を当てる。第Ⅲ部では今日の男性の失墜を招いている変化を分析する。全体として、男性の権力がどのように確立し、その後、どのように揺さぶられるに至ったかを解明する。第Ⅳ部ではこれらの問い直しの結果として、男性性の再定義が可能であることを示す。男たちは家父長制とは異なる一つの歴史を持つことになり、その結果、別の未来を持つことになる。これが新しい男性性である。それは女性の権利を認めると同時にすべての男性の権利をも認めることに通じる。
私の思索は互いに結びあう二つの関心事に立脚している。すなわち、いかに男性は振る舞うか、そして、いかに男性は振る舞うべきか。哲学の用語を用いるなら、カント的観点から行動倫理を引き出す前に、ヘーゲル哲学の伝統に則って現実の分析を成し遂げておくということだ。あるがままの現状を概念化し、あるべき姿を希求する。その目的は集団の進歩である。
社会科学的試論であり、政治的な声明でもあるが、本書は私たちの幸せについて語っている。本書は昔ながらの伝統に属している。すなわち、啓蒙主義時代の哲学者たちは幸福の思想を発見し、アメリカ独立の父たちは現世にそれを創り出そうとした。フランス共和国の創立者たちは一七九三年に「社会の目的は共通の幸福にある」と宣言した。彼らが明らかに無視したものが、この共通の幸福の構成要素の一つであるはずの男女間の平等だった。しかし、この闘いは男性の参加がなくては勝利することができない。
あらゆる呼びかけが「紳士諸君」で始まっていた時代に男性によって遂行された一八世紀の諸革命を参照することに、あるいは違和感があるかもしれない。それでも、これらの雄たちが新しい世界を産み落としたのだ。彼らが社会正義の実現に向けて大胆に取り組もうとしたことを、ジェンダー平等のために再度期待してはならないとする理由はない。いつの年の八月四日の夜[一七八九年八月四日の夜、憲法制定国民議会は封建制の完全廃止を宣言。フランス革命の中心的出来事としてこの日付が記憶されている]に、男性たちが一斉にその特権を放棄するだろうか。社会の男女の全構成員の権利を基盤にしたより幸せな世界、そこには自由な女性たちと公平な男性たちがいる。未来の世紀に向けた美しいアジェンダである。
上記内容は本書刊行時のものです。