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イスラーム世界のジェンダー秩序 辻上 奈美江(著) - 明石書店
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イスラーム世界のジェンダー秩序 「アラブの春」以降の女性たちの闘い

発行:明石書店
四六判
196ページ
並製
定価 2,500円+税
ISBN
978-4-7503-4067-8
Cコード
C0036
一般 単行本 社会
出版社在庫情報
在庫あり
初版年月日
2014年9月
書店発売日
登録日
2014年9月19日
最終更新日
2014年9月19日
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書評掲載情報

2014-11-09 毎日新聞
2014-10-26 東京新聞/中日新聞
2014-10-26 日本経済新聞

紹介

2011年、中東地域で激発した「アラブの春」は各国の権威主義的政権を崩壊させたが、長年イスラーム世界を支配してきたジェンダー秩序にはどのような変化をもたらしたのか。中東五か国への現地調査を通じて各国の現状をレポートし、今後について分析する。

目次

 はじめに
 序章

第1章 国際関係論とジェンダーの視点から見る「アラブの春」
第2章 経済、教育、労働、政治参加、そして法整備とジェンダー
第3章 「アラブの春」までのチュニジア、エジプト
第4章 「アラブの春」までのバハレーン、サウディアラビア、モロッコ
第5章 チュニジア――トップレス抗議と「セックスの聖戦」から見える権威主義政権崩壊の代償
第6章 エジプト――ムスリム同胞団と軍に翻弄されるジェンダー
第7章 バハレーン――暴力の激化と戦略としてのヴェールの着用
第8章 サウディアラビア――政治参加促進と身体の管理というアンビヴァレンス
第9章 モロッコ――レイプ強制結婚から刑法改正へ

 おわりに
 注
 参考文献

前書きなど

はじめに

 (…前略…)

 筆者は、二〇一三年一月にエジプト、二月にチュニジア、三月にサウディアラビアとバハレーン、そして二〇一三年一二月にもサウディアラビアでの現地調査を行ったが、いずれにおいても「アラブの春」の影響を肌で感じ取ることができた。エジプトでは、カイロ大学の研究者たちが言論の自由がもたらされたことを喜びつつも、人びとが「自由を履き違えている」との懸念も示された。教員たちによれば、革命後学生たちには「自由」を「何でもあり」と履き違える傾向が見られるようになった。結果的にあらゆることに抗議する学生が増えたという。
 革命の拠点となったタハリール広場は、レイプやセクハラが横行しており、女性が訪れるのは危険であると現地の人が言っていたが、訪れてみるとその理由がうかがえた。筆者がタハリール広場を訪れた際にはデモや抗議行動は行われていなかったし、昼間であったこともあり、レイプやセクハラの現場に居合わせたわけではない。だが、広場にはスローガンが落書きのように書かれた複数のテントが設置され、革命時に命を落とした若い男性たちの肖像画が痛々しく掲げられていた。広場の一角には、ビニールのひもで四角く印がつけられた場所があり、前々日にここで抗議行動を行った人が治安部隊によって殺されたと説明された。周囲にいた人びとのなかには失業中の人や、ドラッグの副作用のためか目がうつろな人もいた。ガイドともう一人の女性研究者とともにタハリール広場にいたわれわれにつばを吐くなど、ちょっとした嫌がらせもあった。
 カイロ訪問の翌月に訪れたチュニジアでは、野党幹部ベン・シュクリ暗殺の日に居合わせた。ベン・シュクリが暗殺された日の朝、テレビなどで暗殺について報道される前にチュニジア情勢に詳しい友人から連絡があり、今後夜間外出禁止令が出るだろうとの予測が伝えられた。この日はちょうど帰国予定日だったため、少しでも早めに空港に到着しようとホテルを出ると、革命の拠点となった一月一四日広場を横切る手前で大渋滞に巻き込まれた。車中からは広場の様子は見えなかったが、経由地のイスタンブールに到着すると、BBCではトップニュースでチュニジアのデモ再燃の様子を伝えていた。渋滞は、広場でのデモを予告するものであったと知った。
 サウディアラビアでは、デモは比較的平和的に行われ、身の危険を感じるようなことはなかった。だが、「アラブの春」によって、サウディアラビア政府は女性を含む若者の失業問題の解決が喫緊の課題となっていることを確信した。筆者の調査からも、若い女性たちにとって教育と労働は、結婚よりも重要なことと考えられていることが伝わってきた(辻上 2014b; 2014c)。
 バハレーンでは、入国の際に研究者という立場を疑われ、パスポートが別室送りとなり検査された。入国した三月一四日は、ちょうど二年前に「湾岸の盾」軍がバハレーンに派遣された日であった。市内を案内してもらうと、デモがあったばかりなのか、道路には焼けこげた跡がありガラスが飛び散っていた。「政府が承認した」とされるデモ行進では、複数回にわたって催涙ガスを打ち込まれる経験をした。バハレーンで筆者の運転手を買って出てくれた男性は、当初は非常に親切であったが、筆者の訪問先に疑念を抱いたのか、あるいは治安関係者から警告を受けたのか、数日後には体良く運転を断られ、ついには電話にすら応答してくれなくなった。
 このように、「アラブの春」を経験した中東地域において、治安への不安や緊張があったことはたしかである。だが、同時に本書は、各地で多くの方の支援と協力を得られたおかげで完成させることができた。

 (…後略…)

著者プロフィール

辻上 奈美江  (ツジガミ ナミエ)  (

東京大学総合文化研究科特任准教授。
大阪外国語大学外国語学部(アラビア語専攻)卒業、神戸大学大学院国際協力研究科博士前期課程修了(経済学修士)、英国エクセター大学アラブ・イスラーム研究科修士課程修了(M.A)。神戸大学大学院国際協力研究科博士後期課程修了(博士[学術])。在サウディアラビア日本大使館専門調査員、日本学術振興会特別研究員(PD)、高知県立大学専任講師を経て現在に至る。
主な著作に『現代サウディアラビアのジェンダーと権力――フーコーの権力論に基づく言説分析』(単著、福村出版、2011年)、『中東政治学』(共著、有斐閣、2012年)『サウジアラビアを知るための65章』(共著、明石書店、2007年)、Women in Saudi Arabia: Cross-Cultural Views(共著、Ghainaa Publications, 2008年)など。

上記内容は本書刊行時のものです。