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メタファー体系としての敬語 アラン・ヒョンオク・キム(著) - 明石書店
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メタファー体系としての敬語 日本語におけるその支配原理

発行:明石書店
A5判
288ページ
上製
定価 3,800円+税
ISBN
978-4-7503-4002-9
Cコード
C0036
一般 単行本 社会
出版社在庫情報
在庫あり
初版年月日
2014年6月
書店発売日
登録日
2014年6月19日
最終更新日
2014年6月19日
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紹介

日本語の敬語は「上位者はタブーのような存在」であるという比喩を基に成立している一つのメタファー体系であり、その原理が尊敬・謙譲・丁寧の表現の背後で働いている。従来の記述的・応用的な接近法を越え、敬語現象を支配する原理体系の根源に迫る試み。

目次

 まえがき
 謝辞

序章 新しい視点からの敬語理論の基礎付け
 0.1 これまでの研究
 0.2 省みられなかった問題点
 0.3 敬語理論のための新しい接近法
 0.4 現代日本語の敬語文法とその一般規則
 0.5 本書の構成


第1部 敬語の統合理論への新しい接近と作業仮説

第1章 上位者概念のメタファー
 1.1 「上位者」概念の基礎付け
 1.2 タブーの本性
 1.3 名指しのタブー
 1.4 日本語の敬語研究に見えるタブー概念
 1.5 モデルとしての「上位者」
 1.6 まとめ

第2章 メタファーの体系としての日本語の敬語
 2.1 メタファーによる敬語の見直し
 2.2 メタファーの構造と機能

第3章 敬語の原則とその文法化
 3.1 新しい敬語概念の定立
 3.2 「敬語の場」の設定
 3.3 敬語の体系を司る枢密軸の原則と5つの下位原則
 3.4 敬語原則の文法化ガイドライン
 3.5 敬語の原則における「上位者・下位者」の相補関係


第2部 展開――丁寧・尊敬・謙譲の三様式の見直し

第4章 言葉の豪華包装のメタファー
 4.1 禁忌標示としての包装様式
 4.2 敬語の接頭辞と接尾辞
 4.3 文の豪華包装メタファー――丁寧形の助動詞「です」と「ます」
 4.4 告知・陳述の動詞から丁寧形の助動詞への文法化

第5章 敬語における「する」と「なる」のメタファー
 5.1 贈り物の内容としての素材文の敬語とそのメタファー様式
 5.2 尊敬形における自発メタファー――動作主役割の極小化
 5.3 「奉仕メタファー」の他動詞「する」と謙譲形生成のメカニズム
 5.4 久野の統語論からの支え
 5.5 なぜ謙譲形に語用論的制約が多いか
 5.6 まとめ

第6章 「恵み」の言語学的ダイナミックスとその文法化
 6.1 恩恵移動の原則と文法化のためのガイドライン
 6.2 恩恵の原則Dによる敬語の授受表現のメタファー
 6.3 敬語の相互承接――恩恵授受の複合形式
 6.4 下位者による命令/要請から上位者の裁可への変換
 6.5 「やりとり」の類型
 6.6 授受動詞と謙譲形軽動詞の意味構造上の対応


第3部 敬語と礼儀の接点

第7章 文化的パラメーターとしての「わきまえ」と「恩」
 7.1 ポライトネス理論と「わきまえ」の文化
 7.2 「すみません」の分析
 7.3 メタファー理論から見直す「わきまえ」と「すみません」

第8章 敬語文法化の道程
 8.1 助動詞「ます」の文法化(Dasher 1995)
 8.2 Traugott & Dasher(2005)の「そうろう」の分析

第9章 総まとめ
 9.1 統一場の理論として
 9.2 2つの次元――文法としての原則体系と語用論
 9.3 文法化のメカニズムと制約
 9.4 「非焦点化」の解釈――複数と受身と「ぼかし」と「にごし」の機能
 9.5 尊敬形構造における「なさる」の不整合性
 9.6 複合授受様式の設定と恩恵移動のタイポロジー
 9.7 「命令と授与」から「裁可と贈呈」への変換形式
 9.8 文化的特殊性のパラメーター化
 9.9 加減調節の領域――修辞的表現の次元
 9.10 日本語文法のマイクロ・コズムとしての敬語

第10章 結びと展望――新しい型の解明的理論作りを目指して

 あとがき
 付録
 ABSTRACT
 参考文献
 事項索引
 人名索引

前書きなど

まえがき

 本書は、敬語を体系的に記述することを目的とするものではなく、敬語表現がなぜそのような形の表現になったのか、いうなれば、日本語の敬語表現をそのような形のものに作り上げるもとになる青写真のようなもの、基本デザイン――これを本書では原理または原則と呼んでいる――がどのようなものであるかを追究する。
 日本語の敬語は幾千年もの間日本語を話す人たちによって育まれてきた高度な組織を持つ体系であり、完結した1つの下位範疇として日本語の文法体系の中に組み入れられている。この下位体系が具現する言語的礼儀表現は1つのまとまった「喩え」の体系をなしている。本書では敬語表現の対象になる人、つまり、「上位者」という概念を理想化された1つの典型、すなわちモデルとする作業仮説を立てる。さらに、この典型としての上位者は下位者にとってはタブー、すなわち、禁忌の対象であり、上位者・下位者の相互関係は根源的にさまざまな喩え(隠喩またはメタファー)を通じて表され、これが敬語の文法に1つの体系として投射されていると見る。上位者の言動、そしてそれに対する下位者の言語表現はタブー禁制に基づいた5つの原則で規定されるとするほか、尊敬・謙譲形式は特に恩恵の授受の関わりによって一次敬語系と二次敬語系の2つの階層で成り立っているものとする。
 本書ではこのような作業仮説を日本語の広範な通時的・共時的資料を使って検証する。日本語の敬語がさまざまな隠された比喩表現(これを本書ではメタファーと呼ぶ)で体系をなしているといっても、それは、相互に関わりのない個別的なメタファーの寄せ集めでなく、1つの対象系、つまり、敬語という組織に体系的に働く統一された1つの隠喩系 systemic metaphor とも呼べるひとくるみのメタファー系である点が強調される。このような探索は形態論的な繊細な分析によるところが多く、そのような過程を通して今まで気づかれなかったさまざまな現象が明らかになり、それらに対してより合理的な説明が可能であることが示される。
 本書を書くに当たって、特に、日本語の敬語研究の歴史と現状に対する調査には東京堂出版の西田直敏『敬語』(国学叢書13、1987年)、菊地康人の『敬語』(講談社学術文庫、1997年)が手引きとして大いに役立った。本書の執筆の直接的なきっかけになったSells & Iida(1991)、池上嘉彦『「する」と「なる」の言語学――言語と文化のタイポロジーへの試論』(大修館書店、1981年)、久野暲『新日本文法研究』(大修館書店、1983年)、アメリカの『Language』誌に掲載されたShibataniの“Passives and related constructions: A prototype analysis”(1985年)は私の20数年前の粗雑な思いつきをどうにか学問的なものにしていくのにこの上ない貴重な助けになったことを記しておく。
 本書は言語学の専門書並みの学術論文であるが、一方では、敬語の本質に関心を持つ一般知識層の読者や研究者にも読んでいただけたら幸いである。

著者プロフィール

アラン・ヒョンオク・キム  (キム,アラン・ヒョンオク)  (

南イリノイ州立大学外国語外国文学部・言語学部准教授
1932年兵庫県生まれ。旧制岡山県立閑谷中学校在学中に終戦を迎え、家族とともに祖国韓国へ引き揚げる。国立慶北大学校医科大学中退、人文科学哲学科卒。国立ソウル大学校哲学修士、サンノゼ・カリフォルニア州立大学言語学MA、南カリフォルニア大学言語学Ph.D. 韓国空軍士官学校教官、梨花女高講師、ソウル女子大学講師、ロサンゼルス・カリフォルニア州立大学講師、ハーバード大学言語学科客員研究員、UCLA Asian Studies Center Post-Doctoral Fellow、ポートランド州立大学助教授を歴任。国立ソウル大学校言語学科および関西学院大学などで客員教授、日本・国立国語研究所で外来研究員を務めた。
主要著書・論文
The grammar of focus in Korean and its typological implications (1985) 博士論文,韓信文化社;Preverbal focusing and the type XXIII language (1988) Moravcsik et al. Studies in Syntactic Typology, John Benjamins;Word order at the NP-level in Japanese (1995) Noonan and Downing (eds.) Word Order in Discourse, John Benjamins;日本語の敬語体系の原則とメタ言語的文法化(2004)影山・岸本編,柴谷方良教授還暦論文集;Politeness in Korea (2011) Kadar and Mills (eds.) Politeness in East Asia, Cambridge University Press など.

上記内容は本書刊行時のものです。