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リンカーン
うつ病を糧に偉大さを鍛え上げた大統領
原書: Lincoln's Melancholy: How Depression Challenged a President and Fueled His Greatness
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2013年7月
- 書店発売日
- 2013年7月20日
- 登録日
- 2013年7月17日
- 最終更新日
- 2013年9月20日
書評掲載情報
2013-08-25 |
東京新聞/中日新聞
評者: 横山良(甲南大学教授・アメリカ史) |
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紹介
奴隷制を廃止し、南北戦争での国家分裂の危機を回避した偉大にして稀代の大統領・リンカーン。高く評価される政治手腕、奥深い間尺の背景にはリンカーンのもつ鬱病があった。鬱病のハンディキャップを耐える精神操作によって、視野と才幹の深みに到達できたという逆説を膨大な資料に基づき開示した異色の評伝。
目次
プレリュード
序文
第1部
第1章 世間はあいつはクレイジーだと言った
第2章 ものすさまじき天与の才能
第3章 今生きている人間の中で、私ほど惨めな人間はいない
第2部
第4章 セルフ=メイド・マン
第5章 欠陥? いや不運だ
第6章 理性の統治
第7章 わが気塞ぎとうつのはけ口
第3部
第8章 その正確な形と色
第9章 われらが潜り抜ける炎の裁き
第10章 われらにも智慧は浮かぶ
エピローグ
後記
謝辞
原注
参考文献
訳者あとがき
前書きなど
訳者あとがき
「セルフ=メイド・マン」? 「セルフ=メイキング・マン」では?
○同時代人の見たリンカーン像
同時代人が自分らの世代を代表する人物に挙って夢中になる場合と、同時代では人気にむらがあったのに、後世になればなるほどその人物が輝きを増してくる場合がある。
リンカーンは明らかに後者の場合で、それだけ彼が幾世代も経ないと理解できかねる、奥深い間尺を持ち合わせていたことになる。
いや、黒人の人権がほぼ確立されたはずの後世のわれわれの目には、リンカーンが当時置かれていた微妙な立場は奴隷や黒人に対する彼の曖昧な姿勢にブレとなって表れ、性急に彼の差別性を浮かび上がらせてしまう傾向すらある。周知の通り、リンカーンは奴隷制廃止より、奴隷制ゆえに起きた合衆国連邦の瓦解防止を優先させた。つまり、連邦内で奴隷制を漸進的に廃止していくことが大前提で、連邦が消えてしまっては元も子もない。しかし、この基本姿勢は、渦中に置かれた黒人にはもどかしいかぎりで、同時代有数の黒人活動家フレデリック・ダグラスはリンカーンへの強い失望を口にした。
それはともかく、本書はリンカーンのうつ病がその間尺の奥深さに関係していた構造を克明に説き明かして、読む者を圧倒する。訳者は本書を7年ツンドク、2012年初めに読了と、ずいぶん遅れた。この間、これだけの磁力を持つ作品が、日本で翻訳されなかったことに驚きを禁じえなかった。
訳者の場合、リンカーンの間尺よりも、後世の彼の「神格化」によって彼に対する関心が麻痺しており、書評依頼など受け身で読んだリンカーン本ではその麻痺から十分に解放されず、本書によって初めて麻痺から劇的に救出された。一挙にリンカーンが身近な存在に切り替わったのである。つまり、うつ病というハンデイキャップこそ、それに耐える精神操作によって、リンカーンが余人には真似できない視野と才幹の深みに到達できたという深遠な逆説を、著者がわれわれの眼前に開示してくれた(キーツが言う、おなじみの「ネガティヴ・ケイパビリテイ」の具現でもある)。この開示によってこそ、リンカーンは訳者には一挙に身近な存在に変貌を遂げた。(……)
(…後略…)
上記内容は本書刊行時のものです。