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震災復興と宗教
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2013年4月
- 書店発売日
- 2013年4月5日
- 登録日
- 2013年4月4日
- 最終更新日
- 2013年5月27日
紹介
ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)は組織や集団の基盤にある信頼、規範、人と人との互酬性を意味する。東日本大震災では多くの宗教者、宗教団体が救援、支援に取り組んだ。ソーシャル・キャピタル形成の観点から宗教は復興にどう機能しているかを問う。
目次
刊行にあたって(櫻井義秀・稲場圭信)
まえがき(稲場圭信)
総説 震災復興に宗教は何ができたのか(稲場圭信)
はじめに
1 フェーズ1・2における被災地での宗教の力
2 フェーズ3・4における宗教者の関わり
3 公共性と宗教
おわりに
Ⅰ 震災救援・復興における宗教者の支援活動
第一章 仏教の活動(藤森雄介)
はじめに
1 全日本仏教会の取り組み
2 アンケート調査結果からうかがえる日本仏教界の取り組み
3 今後の課題
おわりに
第二章 神社神道の活動(黒崎浩行)
はじめに
1 被災した神社
2 救援拠点となった神社
3 地域を超えた支援活動
4 「ふるさと」再生の困難さと向き合う
結びにかえて
第三章 キリスト教の活動(高橋和義)
はじめに
1 日本のカトリック教会による活動
2 日本正教会による活動
3 日本聖公会による活動
4 日本のプロテスタント諸派による活動
おわりに
第四章 新宗教の活動(金子昭)
はじめに
1 伝統宗教に対する新宗教の活動の特徴
2 天理教
3 創価学会
4 金光教
5 立正佼成会
6 新日本宗教団体連合会(新宗連)
結びにかえて
column 宗教者として、そして一生活者としての東日本大震災支援(川浪剛)
Ⅱ 連携・ボランティアの動き
第五章 伝統的地域ネットワークと地域SNS(岡田真美子)
はじめに
1 ソーシャル・キャピタル分散と分断された社会
2 講――横ネットワーク
3 仲間ネットワーク――契約講と観音講を記録する
4 不動講と東日本大震災
5 伝統的ソーシャル・キャピタルの復活――村継ぎ・村送り
おわりに
第六章 宗教者と研究者の連携(島薗進)
1 三・一一後の早い時期の連携の動き
2 シンポジウムなどの催しとメディアの報道
3 平常時における連携との関わり
第七章 宗教者の支援活動調査(稲場圭信)
はじめに
1 アクション・リサーチ
2 調査のフィードバック
3 被災地調査
おわりに
第八章 大学と市民活動――東日本大震災における大正大学と学外コミュニティの事例より(星野壮・弓山達也)
はじめに
1 宗教系大学における被災地支援
2 大正大学のケース――東日本大震災に際して
3 「大正さろん」と「Mamma倶楽部」の利用者について
4 大正さろんにおける支援
まとめにかえて
column 仏教系大学による学生ボランティア活動の一例(吉田叡禮)
Ⅲ 宗教的ケア・復興への関わり
第九章 阪神・淡路大震災における心のケア(岡尾将秀・渡邊太・三木英)
1 心のケアへのニーズ
2 被災地の宗教――天理教の対応
3 救援と救済のジレンマ
4 宗教による心のケアの可能性
第一〇章 台湾における震災復興と宗教――仏教慈済基金会による取り組みを事例に(村島健司)
はじめに
1 慈済会の概要
2 台湾九二一大地震と宗教団体
3 慈済会による復興支援活動
4 災害復興と戦後台湾社会
結びにかえて――九二一大地震後の慈済会と台湾における災害復興
第一一章 民俗芸能・芸術・聖地文化と再生(鎌田東二)
はじめに――震災復興と民俗芸能
1 東北被災地と民俗芸能――雄勝法印神楽と虎舞の復興過程を中心として
2 自然災害と祭りと聖地文化
おわりに――アート支援活動とこころの再生に向けて
column 震災によって築かれた新たな絆――多くの境界をのり越えて(藤野陽平)
あとがき(黒崎浩行)
前書きなど
まえがき(稲場圭信)
(…前略…)
○本書の構成
震災復興を扱った本書は総論と三部一一章に加えて三本のコラムからなる。叢書「宗教とソーシャル・キャピタル」四巻本の他の巻に比べると本巻は各章の統一感があまりないと言える。しかし、それは、本書がまさにそれぞれの復興支援の現場を扱っているからであり、また、当事者あるいは当事者に近いところにある研究者が執筆しているからでもある。そして、その現場での取り組みは完結したものではなく、まだ復興の途上にある。
まず、総説「震災復興に宗教は何ができたのか」(稲場圭信)は、本書の全体像を描き出す。東日本大震災においては、多くの宗教者と宗教団体が様々な救援・支援活動を展開した。そこには様々な連携もあった。そして、その復興への取り組みは今も続いている。阪神・淡路大震災から継承したものもある。このような取り組みがソーシャル・キャピタルとしての宗教とどのように接続するのかについても社会の動きとあわせ問題提起する。
第Ⅰ部「宗教者の救援・支援活動」では、東日本大震災における各宗教の救援・支援活動を具体的に紹介する。第一章(藤森雄介)は、仏教者が東日本大震災でどのように被災者に寄り添ったかを、「東日本大震災における日本仏教各宗派教団の取り組みに関するアンケート調査」の集計結果も踏まえつつ紹介する。社会福祉を展開する上で重要な社会資源として仏教を捉え、その可能性と課題を示す。第二章(黒崎浩行)は、被災地の神社が果たす役割と課題を扱う。神社と祭は、土地の歴史とそこに住む人々の生活の伝承や記憶に深く結びついている。神社の復興への関わりについて被災地での事例をもとに考察する。第三章はキリスト教の被災地での活動を扱う。被災地で復興支援活動を続ける東日本大震災救援キリスト者連絡会事務局長の高橋和義が、キリスト教会によって実際に行われてきた救援・支援活動について詳述する。第四章(金子昭)は、一般メディアではあまり取り上げられない新宗教の被災地での救援・支援活動を紹介する。伝統宗教に対する新宗教の救援・支援活動の特徴を浮き彫りにする。
第Ⅱ部「連携・ボランティアの動き」は、東日本大震災における様々な連携・ボランティアの動きを扱った。第五章(岡田真美子)は、講などの伝統的地域ネットワークが宗教的ソーシャル・キャピタルとして被災地で機能したことを紹介し、伝統的知を現代に活かすことの重要性を指摘する。第六章(島薗進)は、宗教者災害支援連絡会や東北大学の実践宗教学寄附講座など、宗教者と研究者の連携の意義について考察する。第七章(稲場圭信)は、東日本大震災の被災地における宗教者の救援・支援活動を調査する方法論「アクション・リサーチ」を紹介し、研究者としての関与について検討する。第八章(星野壮/弓山達也)は、宗教系大学における被災地支援を扱う。大正大学と学外コミュニティの事例をもとに、教員と学生と地域の連携をソーシャル・キャピタルの観点から論じる。
第Ⅲ部「宗教的ケア・復興への関わり」は、有形無形の宗教的ケアと復興への関わりを考察する。第九章(岡尾将秀/渡邊太/三木英)は、一九九五年の阪神・淡路大震災において日本社会に広く知られるようになった「心のケア」について、神戸市東灘区で実施した「復興と宗教」調査の結果を提示しながら、宗教による心のケアの可能性を検討する。第一〇章(村島健司)は、台湾における震災復興と宗教の関係を扱う。事例として仏教慈済基金会を取り上げ、宗教団体が担う災害復興モデルを検討する。第一一章(鎌田東二)は、地域社会の中で息づいてきた伝統芸能や民俗芸能の役割と聖地文化について再検討する。雄勝法印神楽や虎舞などの事例をあげながら、東日本大震災の被災地では復興過程で民俗芸能が被災者の心の支えとなっていると指摘する。
第Ⅰ部、第Ⅱ部、第Ⅲ部の各部の最後にある「現場からの声」と題したコラムでは、川浪剛、吉田叡禮、藤野陽平の三氏が、支援の当事者として自身を振り返りつつ、東日本大震災の被災地で行った貴重な支援活動を紹介している。
本書の編集時点で、東日本大震災の被災地では、まだ復興への土台を築いている段階である。これから長い年月をかけて、東日本大震災の被災地は復興する。「震災復興と宗教」もその時に、あらためて問われるだろう。震災復興に宗教はどのような寄与をなし得たのか。人と人をつなげたのか。ソーシャル・キャピタルの源泉となり得たのか。本書は、そのことを問う出発点である。
上記内容は本書刊行時のものです。