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識字神話をよみとく 角 知行(著) - 明石書店
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識字神話をよみとく 「識字率99%」の国・日本というイデオロギー

発行:明石書店
A5判
256ページ
並製
定価 2,700円+税
ISBN
978-4-7503-3665-7
Cコード
C0036
一般 単行本 社会
出版社在庫情報
在庫あり
初版年月日
2012年9月
書店発売日
登録日
2012年9月18日
最終更新日
2012年9月18日
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紹介

日本の教育水準の根拠とされる高識字率という神話、音訓二面性など漢字かなまじり表記の効率性を評価し擁護する漢字の神話、そして識字学習が非識字者の解放につながるという識字学習の神話。識字に関する3つの神話をよみとき、その限界を明らかにする。

目次

序 識字とはなにか
 1.「識字」という用語
 2.文字/よみかき実践/社会関係
 3.漢字かなまじりの成立
 4.就学率と識字率
 5.非識字者と限界的識字者
 6.ローマ字使用者
 7.点字使用者と弱視者
 8.識字権と識字運動
 9.識字神話の分析という方法


第I部 識字率の神話

第1章 公式統計にみる日本の識字率――「識字率99%」は本当か
 1.新聞記事や本にみる識字率
 2.識字率の定義
 3.徴兵検査による識字率
 4.教育統計による識字率
 5.「日本人の読み書き能力調査」による識字率
 6.国勢調査による識字率
 7.「識字率99%」はウソだった
 資料1-1 『成人のための識字と教育』(ユネスコ・国際教育局)にある「文部省の回答」

第2章 新聞をよむ能力――「日本人の読み書き能力調査」(1948)の再検証
 1.「新聞をよめる日本人」の伝説
 2.「日本人の読み書き能力調査」の概要
 3.テスト問題とその結果
 4.調査結果をめぐるふたつの解釈
 5.「新聞をよむ」からみた「48年調査」
 6.調査の限界
 資料2-1 「日本人の読み書き能力調査」のテスト問題

第3章 限界的識字者のプロフィール――日米の識字調査から
 1.限界的識字者とはなにか
 2.識字調査と限界的識字者
 3.「国民の読み書き能力調査」(日本・1955年)
 4.「国民成人識字調査」(アメリカ・1992年)
 5.ふたつの調査結果から


第II部 漢字の神話

第4章 漢字は意味をあたえるか――学術基本用語の場合
 1.漢字と意味
 2.漢字の音訓二面性
 3.日常用語による意味づけ
 4.学術基本用語集の作成
 5.訓による意味づけの判定
 6.日常用語による意味づけの判定
 7.学力テストの結果から
 8.意味の透明性をたかめるには
 資料4-1 学術基本用語(訓と日常用語による意味づけ)

第5章 教科日本語における漢字のカベ
 1.外国人生徒・学生の学力
 2.学習言語について
 3.教科用語とその表記
 4.コーパス・ツールによる教科書の難易度の測定
 5.教育現場での対応
 6.多様な表記の認知にむけて

第6章 漢字イデオロギーの構造
 1.漢字を論じる立場
 2.「ことばの階級闘争」
 3.識字からみた漢字
 4.現代の漢字擁護論
 5.漢字擁護論――だれが、だれに?


第III部 識字学習の神話

第7章 識字研究法としてのエスノグラフィー
 1.「literacy」の二義性
 2.「よみかきイベント」と「よみかき実践」
 3.社会的ネットワーク
 4.エスノグラフィーと権力
 5.識字のエスノグラフィーの可能性

第8章 識字社会における支配と対抗――識字作文をエスノグラフィーとしてよむ
 1.「人間解放の識字」という物語
 2.識字作文とはなにか
 3.識字作文のテーマ
 4.方法としてのエスノグラフィー
 5.よみかき実践/識字イデオロギー/対抗的戦略
 6.よみかき実践の諸相
 7.識字者の識字イデオロギー
 8.非識字者の対抗的戦略
 9.対抗から抵抗へ
 10.小括
 注(=識字作文出典)

 あとがき
 参考文献
 索引(事項/人名)

前書きなど

あとがき

 本書は、「識字神話」というテーマのもとに、加筆修正した既発表論文と、あらたにかきおろした論文を、一書に編集したものである。刊行にあたっては、天理大学学術図書出版助成をうけた。

 (…中略…)

 わたしが識字の問題に関心をもつようになったのは、10年以上もまえ、心身ともに不調だったころである。当時、よく研究室にやってくるネパール人の留学生がいた。ネワール語、ネパール語、ヒンディー語、英語と、多言語をよくする学生であったが、日本語については苦労していた。「悪戦苦闘」といった表現があたっているかもしれない。一緒に本をよみ、国語辞典や漢和辞典をひく苦労をともにして、留学生にとって日本語の漢字かなまじりが、いかにたかいカベになっているかを共体験した。その後、日本語教師の資格をとって大学の内外で留学生や外国人の日本語ボランティアを断続的につづけているが、いまもその印象にかわりはない。
 おなじころ、2冊の本にであった。ひとつは、菊池久一(きくち・きゅういち)氏の『〈識字〉の構造』(勁草書房)。日本にはしられていない英米の識字研究を紹介した本で、あたらしい知の地平を感じた。もうひとつは、ましこ・ひでのり氏の『イデオロギーとしての「日本」』(三元社)。漢字を社会関係との関連でとらえるという視角は、カタカナで論文をかくことをいとわない挑発的な姿勢とともに、新鮮で刺激的であった。そのようないきさつで、識字がひとつの研究テーマになった。
 あゆみだしてはみたものの、識字に関する日本語の先行研究はすくなく、仲間もみあたらなかった。単独で、目のまえにある山にのぼる登山者の心もちといったらよいだろうか。確たる展望も地図もなく、ひとつの論文をしあげて山頂にたつと、ようやくつぎの山がみえてくるといった手さぐり状態であった。途中でおもわぬ発見(セレンディピティ)があり、そちらに方向転換したこともある。
 そのようななか、一緒に研究をすすめる仲間があらわれたことは心づよいことだった。同伴登山者ができたようなものである。天理大学の岡田龍樹(おかだ・たつき)、北森絵里(きたもり・えり)、堤智子(つつみ・ともこ)、中井英民(なかい・ひでたみ)、前田均(まえだ・ひとし)の各氏には、日本語教室、外国人生徒、ローマ字教科書の共同研究プロジェクトにくわわっていただき、貴重な現場の声をともにきくことができた。現場にある「当事者のカテゴリー」は、問題の所在を具体的におしえてくれた。
 また、問題意識を共有する情報保障研究会のあべ・やすし、かどや・ひでのり、ましこ・ひでのりの各氏からは声をかけていただいて、貴重な意見を交換することができた。本文をよんでもらえばわかるように、この3人からはとくにおおきな影響をうけている。『社会言語学』誌に投稿の機会をあたえてもらったことも、自分のかんがえをまとめるうえで、ありがたいことだった。
 今回、識字をテーマとして、なんとか1冊の本にできたのは、おおくのかたの協力や刺激があってこそである。こうやって編集してみると、自分が手さぐりでやってきたことの連関が、すこしはみえてきた気がする。
 出版については、明石書店の石井昭男(いしい・あきお)氏、神野斉(じんの・ひとし)氏、森富士夫(もり・ふじお)氏にお世話になった。社長の石井氏には、はやくから声をかけていただいた。編集部の神野氏、森氏にはこまかな編集作業をわずらわせ、貴重なアドバイスもいただいた。一部の原稿については、アイナン・マッシュー、あべ・やすし、かどや・ひでのりの各氏に目をとおしていただいた。ほかにも、ひとりひとりのなまえをだすことはできないが、公私にわたってお世話になった人はおおい。あらためて、みなさんにお礼をもうしあげたい。

 2012年7月   角知行

著者プロフィール

角 知行  (スミ トモユキ)  (

天理大学人間学部教授
専攻:社会学(識字研究・メディア論)
分担執筆書:『識字の社会言語学』(かどや・ひでのり/あべ・やすし編、生活書院)、『現代の差別と人権』(山田光二/内山一雄編、明石書店)ほか。

上記内容は本書刊行時のものです。