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原発危機と「東大話法」
傍観者の論理・欺瞞の言語
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2012年1月
- 書店発売日
- 2012年1月15日
- 登録日
- 2011年12月19日
- 最終更新日
- 2012年1月31日
書評掲載情報
2016-03-06 |
毎日新聞
評者: 赤坂憲雄(学習院大学教授、民族学者) |
2013-04-21 | 東京新聞/中日新聞 |
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紹介
原子力発電所は、「東大話法」によって出現し、暴走し、爆発した――。現役の東大教授が原発事故をめぐって飛び交った言説を俎上にのせ解析。そこから浮かびあがったのは同じパターンの欺瞞的な言葉だった! もう私たちは「東大話法」に騙されない。
目次
はじめに
東大話法一覧
第1章 事実からの逃走
燃焼と核反応と
魔法のヤカン
名を正す
学者による欺瞞の蔓延――経済学の場合
名を正した学者の系譜
武谷三男の「がまん量」
高木仁三郎・市民科学者
小出裕章と「熊取六人組」
玄海原発プルサーマル計画をめぐる詭弁との闘い
第2章 香山リカ氏の「小出現象」論
香山氏の記事の出現
原発をネットで論じている人々の像
ニートや引きこもりの「神」
仮面ライダー・小出裕章
小出裕章=「ネオむぎ茶」説
「原発問題=新世紀エヴァンゲリオン」説
インターネットの意味
関所資本主義の終焉
お詫びのフリ
真理の探求へ
真理の探求からの逃避
香山氏はなぜこの文章を書いてしまったのか
第3章 「東大文化」と「東大話法」
不誠実・バランス感覚・高速事務処理能力
東大関係者の「東大話法」
東大工学部の『震災後の工学は何をめざすのか』
東大原子力の「我が国は」思想
工学研究の「計画立案」
東大原子力の中期計画
東大原子力の野望
東大原子力の長期計画
東大原子力文書の東大話法規則による解釈
傍観者
池田信夫氏の原発についての見解
池田信夫氏の「東大話法」
鈴木篤之氏の「東大話法」
「東大話法」の一般性
第4章 「役」と「立場」の日本社会
「東大話法」を見抜くことの意味
「立場」の歴史
夏目漱石の「立場」
沖縄戦死者の「立場」
日本版プラトニズムとしての「立場」
職→役→立場
原子力御用学者の「役」と「立場」
天下りのための原子力
福島の人々が逃げない理由
第5章 不条理から解き放たれるために
原発に反対する人がオカルトに惹かれる理由
槌田敦のエントロピー論
化石燃料と原子力
地球温暖化
出してはならないもの
人間活動の生態系
人間の破壊
熱力学第二法則と人類の未来
原子力のオカルト性
「日本ブランド」の回復へ
あとがき
前書きなど
はじめに
(…前略…)
私が行ってきた「魂の脱植民地化」という研究は以上のようなものです。本書では、この研究の成果に基づいて、原発問題をめぐるさまざまの言説や行為を解析していこうと思います。その中で、思いがけずも浮上してきたのが、「東大話法」という概念でした。というのも、原発事故をめぐっては、数多くの東京大学卒業生・関係者が登場し、その多くが、揃いも揃って、同じパターンの欺瞞的な言葉の使い方をしていることに気づいたからです。しかもそれは、私が東大で見聞してきた奇妙な言動と、幅広い一致を見せていました。
とはいえ、私には、私を雇用し、自由に研究させてくれているありがたい職場である東大を攻撃する意図はありません。そもそも「東大話法」は、東大のみに見られるものではなく、日本社会全般に蔓延しているのです。ただそれが、高い知的権威を担うこの場において、集中的に表現されているに過ぎません。
私たち東大関係者は、この話法を用いて人々を自分の都合のよいように巧みに操作していますが、同時に、私たちこそがこの「東大話法」によって、最も厳しく呪縛されているのです。私が本書を書くことにしたのは、私たち自らが「東大話法」の最大の被害者であり、それゆえにこそ他者を加害している、という辛い事実と向き合うべきだと信ずるからです。
東大外部の方は、東大というところはさぞかし楽しいところなのだろう、と思っているかもしれません。しかし残念ながら実際には、東大は非常に息苦しいところです。どんよりとした重苦しい空気が漂っており、多くの人が自分でもよくわからない理由で苦しんでいます。本当は苦しいのに、「東大にいる以上は幸福なはずだ」と思い込むことによって、さらに苦しんでいる、というのが正確なところかと思います。私は東大関係者を呪縛している鉄鎖の正体が「東大話法」だと考えます。
言うならば、原子力発電所という恐るべきシステムは、この話法によって出現し、この話法によって暴走し、この話法によって爆発したのです。それゆえ私は、東京大学を「東大話法」の呪縛から解放することが、東京大学で禄を食む者としての使命であり、それによって原発事故をはじめとする構造的困難に直面する日本社会に貢献する道にほかならない、と思うのです。
私の職業は学者ですが、この危機の中では、いわゆる学者ぶった議論をチマチマ展開している余裕はありません。それよりも私自身が、この危機をどのように生きるべきかを、考えざるを得ない状態です。本書は、そのために考えたことのまとめです。その意味で、私がこれまでに蓄積した経験と知識とを総動員した、私一人のための学問です。
それゆえこの考察の結論は、読者の皆様にそのままお役に立つものではありません。というのも、人それぞれ、事情も違えば感じ方も違うからです。しかし、私がこの拙い思考を開陳することで、皆さんがこの状況を生きるためにものごとを考え、判断するうえで、お役に立つのではないかと考えています。少なくとも、何をどう考えてよいやらわからず、呆然としながらも、惰性的に生きることに嫌悪感を抱かれている方には、何らかのお役に立つに違いないと考えます。
2011年11月9日 安冨歩
上記内容は本書刊行時のものです。