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アメリカ人種問題のジレンマ ティム・ワイズ(著) - 明石書店
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世界人権問題叢書 78

アメリカ人種問題のジレンマ オバマのカラー・ブラインド戦略のゆくえ
原書: COLORBLIND: The Rise of Post-Racial Politics and the Retreat from Racial Equity

発行:明石書店
四六判
240ページ
上製
定価 2,900円+税
ISBN
978-4-7503-3499-8
Cコード
C0336
一般 全集・双書 社会
出版社在庫情報
在庫あり
初版年月日
2011年11月
書店発売日
登録日
2011年12月2日
最終更新日
2012年4月11日
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紹介

人種問題を巧みに避けるレトリックとユニバーサルな公共政策によって、オバマ大統領は白人の支持をとりつけた。しかしオバマ政権下で人種差別と不平等は是正されていない。人種問題の回避が引き起こすジレンマを、雇用、住宅、教育、医療の分野から分析する。

目次

 序

第1章 ポスト・レイシャル・リベラリズムの誕生と勝利
 カラー・ブラインド・ユニバーサリズムと公共政策
 バラク・オバマと人種超越レトリック

第2章 ポスト・レイシャル・リベラリズムの問題点
 人種間格差の現実
 人種に基づく不当な扱い――継承された不利な立場と現行差別
  ○過去の影響の認知
  ○現在の人種的偏見の認知、偏見の執拗さ
  ○単なる偏見ですまない――新世紀の人種差別
  ○レイシズム、差別、雇用
  ○レイシズム、差別、住宅
  ○レイシズム、差別、教育
  ○レイシズム、差別、医療
 被害者への責任転嫁――貧困の文化的思考法の不適切性 
 カラー・ブラインドによる人種差別の悪化
 ポスト・レイシャル・リベラリズムは社会階級を語るが、白人の耳には人種が聞こえる――なぜポスト・レイシャル・リベラリズムは自分で自分の首を絞めることになるのか
  ○社会政策のレイシズム化
  ○使徒――どのみちオバマは人種的再分配の使者と見られる
  ○右派の攻撃を前にしたポスト・レイシャル姿勢は一方的武装解除

第3章 啓発された個人主義――進歩的に肌の色の違いを意識するアプローチのための一つのパラダイム
 公正と平等へのキーワードとしての啓発された個人主義
 啓発された個人主義実践
  ○早期に、しかも何度も、人種的自覚を高める
  ○組織生活におけるカラー意識化
  ○カラー意識化と公共政策

 原注
 訳者あとがき
 索引

前書きなど

 訳者あとがき

 オバマは、黒人と女性による大統領候補指名争いという、一九六〇年代・七〇年代の活動家が大喜びしそうなドラマを演じて大統領になった。著者ワイズが述べているように、彼は黒人であることを意識して演説台に立ったが、それは反差別運動の成果でなく、「地球上の他の国では……起こりえない」民主主義アメリカの主流文化の勝利だと誉めそやして、白人の自尊心をくすぐった。実際には、インドではカーストの不可触民女性が州知事に、ラテンアメリカでは被差別先住民が大統領になっている。しかも運動の力で。そういう草の根運動との連帯意識もない、ショービニズム的発想である。著者は、オバマがフレデリック・ダグラスやジョン・ブラウンのような奴隷制と戦った人々でなく、リンカーンを自分の役割モデルとして選択したと書いているが、まさにオバマの位置づけが的確に示唆されている。本書は、黒人アイデンティティを使って「出世」したオバマが同胞黒人を裏切っていく過程と論理を描いたものだが、彼に裏切られたのは同胞黒人だけではない。

 (…前略…)

 ところで、オバマ批判はともかく、本書のもう一つのテーマである差別の「個別性重視」か「普遍化」という問題について一言。著者はポスト・レイシャル・リベラリズムの「普遍化」「一般化」が個別差別を見えなくすると批判している。それはそのとおりで、だいたい「一般化」「抽象化」が個別事実を曖昧にするために使われることが多い。抽象の梯子を上へ昇るほどごまかしが生じやすい。いわゆるPC語(政治的正義語)はすべて抽象語であるし、政治家は具体語より抽象語の使用を好む。かといって、そもそも黒人差別は普遍的な人権・生活権が黒人に否定されていることが問題なので、「普遍的人権思想」がその底流にある。「個別性重視」と「普遍化」のどちらかがよいと定式化できるものではない。もしオバマが本気で差別問題を社会階級的視点で一般化し、貧困問題などを含めた普遍的アプローチで差別に取り組もうとしたのであれば、それはそれで一理あるといえよう。一般化で個別問題を見えなくするのでなく、相違を認めたうえで普遍性を重視することで、被抑圧者の間に連帯や共感が生まれるのだ。実際、実践運動でも被差別者連帯をかかげて普遍化しない限り、足の引っ張り合いに陥るという苦い経験を、たいていの活動家はしたことがあるだろう。著者の「啓蒙された個人主義」もアメリカの建前としての普遍的人権思想を下敷きにしている。ヒロシマ・ナガサキは黄色人差別の例と捉えるより、人類に対する犯罪、「反戦」「反核」として普遍化しているから世界的運動になるのだ。
 差別の「個別性重視」の醜悪な例がオバマを含めたアメリカ政界人が贔屓にするイスラエルに見られる。ユダヤ人差別の極致ホロコーストを経験したイスラエル・ユダヤ人が、パレスチナ人に同じような残虐行為を行っているのは、この「個別性重視」の結果だろうと思われる。第二次インティファーダの頃ナブルス地区のパレスチナ住民たちに銃を突きつけたイスラエル兵が「われわれはお前たちを、かつてナチスがわれわれにしたように扱っている。将来お前たちがわれわれの支配から自由になったら、誰か他の民族を見つけて、同じことをやればよい」と言った。ヘブロンではユダヤ人入植者がパレスチナ人の家の壁に「アラブ人をガス室に送れ!」と落書きしている。ホロコーストの犠牲者はユダヤ人だけではないから、ナチの犠牲者の国の裁判官もアイヒマン裁判に参加させよという要請に対し、イスラエル初代首相ベングリオンは、「ナチがユダヤ人に行ったホロコーストは、ナチが世界の人々に行った残虐行為とは異質なもの」と言って拒否した。あの裁判では残虐行為を「ユダヤ民族に対する犯罪」、「人道に対する犯罪」、「戦争犯罪」に三分類し、「ユダヤ民族に対する犯罪」を「人道に対する犯罪」より重罪とした。本来ホロコースト自体が恐ろしい犯罪なのであって、犠牲者がユダヤ人だから犯罪なのではないのに、「個別性重視」のために、それが転倒してしまっているのだ。だから、ユダヤ人以外になら残虐行為をやってよいというメンタリティが発展、パレスチナ人をゲットーに封じ込め、ナチ親衛隊式の拷問にかけても平気なのだろう。
 その意味で、本当にオバマが黒人差別を「人間に対する犯罪」としてとらえて解決をはかろうとしたのであれば、それはそれで一理あると思ったのである。しかし、オバマは本気ではなく、それを逃げ口上にしただけのようだ。
 そもそも彼は、反差別運動体が政治的闘争の一部として担ぎ出した政治家ではない。運動を外から集票に利用しただけの政治屋にすぎない。そういう大統領に何かを期待することはできない。著者ワイズも締めくくり部分で「国家や政治家の方針が出るのを待っているだけではだめだ……われわれ自身が行動しなければならない」と書いている。それより、反差別運動の再構築こそが大切であろう。今や権力者や企業の方が差別問題を利用して教育の民営化や市場化を画策するなど、向こう側の階級的攻勢の方が目立っているときだ。アメリカでも(そして日本でも)、アラブやヨーロッパ周辺部諸国の民衆蜂起とまではいかなくても、下からの反撃が必要な状況だ。そういう下からの運動が強くあれば、オバマの変質も止まるかもしれない。

 (…後略…)

著者プロフィール

ティム・ワイズ  (ワイズ,ティム)  (

白人の立場からレイシズム反対運動に全国的な規模で取り組んでいる活動家。執筆と講演(とくに大学での人種教育活動の一環として)だけでなく、制度的なレイシズムを廃絶するために、大学・企業・役所などの組織を対象にしたコンサルタント的な活動も行っている。大学の教壇に立った経験もあるほか、テレビのコメンテーターとして登場することもある。
著書としては、White Like Me: Reflections on Race from a Privileged Son, Soft Skull Press, 2004; Affirmative Action: Racial Preference in Black and White, Routledge, 2005; Speaking Treason Fluently: Anti-Racist Reflections from an Angry White Male, Soft Skull Press, 2008; Between Black and Hard Place: Racism and White Denial in the Age of Obama, City Lights Books, 2009(邦訳『オバマを拒絶するアメリカ――レイシズム2.0にひそむ白人の差別意識』明石書店、2010年)

脇浜 義明  (ワキハマ ヨシアキ)  (

■主要著書・論文:“Marxist Views: An Interview with Paul M. Sweezy”Monthly Review, Vol. No.5, October 1990./『ボクシングに賭ける――アカンタレと夜間教師の日々』シリーズ「今ここに生きる子ども」岩波書店、1996年/『教育困難校の可能性――定時制高校の現実から』シリーズ「今ここに生きる子ども」岩波書店、1999年
■訳書:『オルタナティブな社会主義――スイージーとアミン、未来を語る』渡辺政治経済研究所編、監訳、新泉社、1990年/『GM帝国への挑戦――工場閉鎖VSアメリカ自動車労働者』エリック・マン著、第三書館、1993年/『アメリカの差別問題――PC(政治的正義)論争をふまえて』パトリシア・オーフヘイド監修、明石書店、1995年/『差別語・婉曲語を知る英語辞典』ナイジェル・リーズ著、明石書店、1996年/『非識字社会アメリカ』ジョナサン・コゾル著、明石書店、1997年/『ゆがんだ黒人イメージとアメリカ社会――ブラック・メイル・イメージの形成と展開』アール・オファリ・ハッチンソン著、明石書店、1998年/『アメリカの人種隔離の現在――ニューヨーク・ブロンクスの子どもたち』ジョナサン・コゾル著、明石書店、1999年/『エルヴィス・イン・エルサレム――ポスト・シオニズムとイスラエルのアメリカ化』トム・セゲフ著、柘植書房新社、2004年/『ポリティサイド――アリエル・シャロンの対パレスチナ人戦争』バールフ・キマーリング著、柘植書房新社、2004年

上記内容は本書刊行時のものです。