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世界の先住民環境問題事典
原書: Indigenous Peoples and Environmental Issues: An Encyclopedia
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2010年11月
- 書店発売日
- 2010年11月18日
- 登録日
- 2010年11月26日
- 最終更新日
- 2012年10月15日
紹介
現代文明を維持するために世界各地でくり広げられる資源開発は、他方、環境破壊を深刻化させてきた。その多くは途上国、とりわけ先住民居住地域で進行しているが、被害の実態は私たちの目から遠ざけられている。本書はこうした先住民と環境破壊の現状を紹介する。
目次
訳者まえがき
はしがき
謝辞
序論
北極圏──残留性有機汚染と地球温暖化
国際連合2001年世界人口報告書
西洋産業主義と先住民との紛争の主な原因
本書の事例研究に共通する要素
アルゼンチン
はじめに
コージャ──土地保有の闘い
マプーチェ──石油による汚染
ウィチの水力発電開発反対運動
オーストラリア先住民アボリジニ
はじめに
ウラン採掘
戻ってきた放射能?──ジャビルカ・ウラン鉱山
核実験
金採掘
バングラデシュ
天然ガス井戸の爆発
ベリーズ
モーパンとケクチ──産業規模の伐採への抵抗
生物多様性と先住民の環境主義
ボリビア
先住民と伐採認可、石油探査、毒物流出
ボツワナ
クウェ(カラハリ・ブッシュマン)──血統の果て
「人々は絶望の淵に置かれた」
ブラジル
はじめに
ダム建設という先住民への弔鐘
急速に進むアマゾン川流域の森林破壊
シコ・メンデスと先住民の天然ゴム採取労働者
アプリナ、パウマリ、デニ、ジュマの人々──石油ガス・パイプラインへの抵抗
グァラニとカイオワ──増える自殺者と土地への権利主張
カヤポ──グリーンピースとマホガニー伐採
パナラ──道路建設、外来疾病、大量虐殺
パタショ──土地の回復
ぺモン──水銀中毒とアマゾン金採掘
ヤノマミ──ゴールドラッシュ
ビルマ(ミャンマー)
世界最後のチーク森林地帯での強制労働
ビルマ軍事政権の歴史とチーク材伐採
拷問の証言
自らの政策を否定する軍事政権
石油会社と強制労働
カンボジア
はじめに──森林伐採と強まる先住民への圧迫
レジンの木を守る
カメルーン
伐採で故郷を失ったピグミー
カナダ
はじめに
クリー──イドロケベックの電力にかけた夢
ピミシカマク・クリーと水力発電所による危機
イヌイット──ダイオキシンと残留有機物汚染
ルビコン・クリー──土地の権利と資源開発
デネー──ウラン鉱業がもたらした多数の死
カネサタケ・モホーク──ニオブ採掘の論争
ブリティッシュ・コロンビア州のハーフウェイ・リバー・ファースト・ネーション─石油・ガスパイプライン・観光開発への抵
ブリティッシュ・コロンビア州のタク川トリンギット・ファースト・ネーション──亜鉛、銅、金、銀鉱業への抵抗
ラブラドールのインヌ──産業主義の侵入
ウジェ=ブグム・クリー──水質汚染
ドグリブ・ファースト・ネーション──ダイヤモンド鉱業
オジブウェイ──クロクマの密猟
チャド
ピグミー──石油パイプラインとの遭遇
チリ
ペウェンチェとマプーチェ──森林伐採、ダム建設、土地の権利
気候変動と先住民の環境保護
はじめに
気候変動に関する第1回先住民族国際フォーラム
気候変動と(北極圏の)イヌイット
気候変動と沈み行く小島嶼諸国
コロンビア
はじめに
ウワ──石油探索の対案としての集団自殺
米国による対麻薬除草剤散布の裏側
エムベラ──ダム建設との闘い
タバコ村──石炭採掘
コンゴ盆地
森林伐採の「驚くべき速度」
コンゴ共和国
ピグミー──伐採が暮らしを脅かしている
コスタリカ
中米最大の水力発電ダム建設、ボーキサイト採掘、アルミニウム精練所への抵抗
ダム立地と先住民
エクアドル
はじめに
エクアドルアマゾンの石油採掘
開発に反対するアシュアール、シュアール、ワオラニの人々
新しいアンデス横断石油パイプライン
パシフィック・コーストでの石油パイプライン反対運動
エリトリア
先住民の故地での森林伐採
フィジー
ナモシ、セルア、ナドロガ、レワ──銅鉱山開発計画への闘い
森林管理協議会
フランス領ポリネシア
テ・アオ・マオヒ・モーレア──ラグーンの浚渫を阻止するカヌー
ガーナ
金鉱山の鉱滓流出
グアム
チャモロ──軍用PCB汚染
グアテマラ
はじめに
アチ──水力発電用ダム建設による浸水への抗議
チャンペリコ──エビ養殖による湿地の汚染
マヤ生物圏保護区での石油探査
ガイアナ
はじめに
イッセネル──金採掘による水銀中毒
アカワイオ・ネーション──伐採される前に生活拠点を求めて
ホーデノショーニー(イロコイ)の環境世界観──異なる森には異なる木
はじめに
感謝の言葉
「心を1つにすること」
等しい者の世界
環境と相互依存的責任
さまざまな森の中の異なる木々
共同倫理
霊的自己
すべての存在は彼らの歴史を知っている
ホーデノショーニーは今もエデンの園にいる
聖なる循環、聖なる消費
世界の均衡を取り戻す
毛皮の交易──政治的必要性と恐るべき環境的過ち
ハンサム・レイク
「異なる箱」の中で考える
日常生活
おわりに
ホンジュラス
はじめに
ダム建設への抗議に伴う殺人
金採掘利権の拡大
インド
はじめに
アンダマン・ニコバル諸島における外来の病気
ビハール州ジャルカンド・トライバル・ベルトでのウラン中毒
ボーキサイト採掘への抗議者の死
エンロン、ベルドゥール、天然ガスによる超高額な電力料
ナルマダ・ダム施設に「ノー」と言う
先住民による環境保護と経済発展
インドネシア
はじめに
急速な森林伐採
プナン──木材伐採の妨害
マレーグマの襲撃
観光の影響──元首狩族の朝食付きホテル
東カリマンタンの開発に対する武装抵抗
熱帯雨林における石油採掘の妨害封鎖
東カリマンタンの金採掘と上水道
ダヤク──伝統的金採掘の慣行
選鉱くずの海底投棄
ジャワの森林管理と先住民
バタク──北スマトラにおけるパルプ製紙工場の閉鎖
スマトラ・アチェにおける会社側の拷問の申し立て
トゲアン島の木材伐採、真珠養殖、観光業
イラク
クルド──毒ガス
イリアン・ジャヤ/パプアニューギニア
はじめに
フリーポート社グラスバーグ鉱山──廃棄物の大波
パプアニューギニアのダム開発
モイ──西パプアの森林伐採と鉱山
ケニア
はじめに
クワレ──チタン採掘への反対
マサイ──軍事演習のための土地開発との闘い
オギエク──地溝帯を追われた「ハチミツハンター」
マレーシア(サラワク)
木材会社に道路封鎖で対抗
マリアナ諸島
PCB汚染
マーシャル諸島
核実験
メキシコ
はじめに
マヤ──チアパスにおける石油探査と森林破壊
ウイチョール──農薬にさらされる生活
銀鉱業と子どもの鉛中毒
テポストラン──ゴルフ場との「水戦争」
エコロジカルなメタファーとしての「母なる大地」
アメリカ先住民のエコロジー観念
ニュージーランド
マオリと西欧的世界観
ニカラグア
マヤグナ(スム)──森林の不法伐採との闘い、絶滅危惧種のリスト化
ナイジェリア
オゴニ──石油、血、故地の死
高貴な野蛮人「エコロジカルなアメリカ先住民」
パキスタン
カフィール=カラシュ──観光によって汚された大地
パナマ
ノベ=ブグレ──土地所有権の獲得と鉱山採掘への抵抗
ペルー
はじめに
先住民、金採掘、水銀汚染
ラ・オロヤの鉛製錬所による大気汚染
石油採掘調査への先住民の抗議
ウラリナ(カチャ)──石油開発、外来病とヒッピー旅行者
カミセア天然ガス計画
アグアルナ──実力行使による土地の奪還
フィリピン
はじめに
マリンドケ島民──銅採掘による選鉱くずの流出
イバロイ──神聖な川へのダム建設
ルソン島コルディレラの貧困地域での金採掘
ミンダナオ島のルマド──伐採と採掘による汚染、立ち退き
ミンドロ島のマンギャン、アランガン、タジャワンの人々──ニッケルとコバルトの採掘
オリエンタル・ミンドロ州における採掘禁止
ロシア(シベリア)
はじめに
エヴェンクとハンティ──原油とトナカイは共存できない
ソヴィエト時代の政策が環境に残したもの
ヤマル半島のネネツ──望まない大量の天然ガス
シベリアの先住民とウラン汚染
サハリン島の石油ラッシュ
南太平洋
はじめに
ニューカレドニアのカナク・ニッケル鉱山
マタイヴァ、ナウル、バナバ諸島──リン鉱採掘による犠牲
ソロモン諸島──先住民が金鉱業と森林伐採で移住
スリランカ
ワンニヤレット──水力電力と伐採
スリナム
サラマカ・マルーン──金採掘と木材伐採
タイ
はじめに
発電所地帯の先住民
ラフとモン──低地地方の住人の殺到
カレン──鉛中毒の被害
アメリカ先住民の感謝祭の儀式──エコロジカルな視点
チベット
はじめに
中国のチベット鉄道
金採掘への抗議に対し僧侶が払った犠牲
トルコ
クルド人とダム建設
アメリカ合衆国
はじめに
アクウェサスネ──汚染された亀の土地
五大湖への先住民の懸念
ペノブスコット──有機塩素汚染
ヤキ──農薬汚染
ポイントホープのエスキモー──原子力の港と核廃棄物処分場
グウィッチン──北極圏野生生物保護区におけるカリブーと石油
アラスカのシュワード半島──トナカイを食べるな
アリューシャン列島に残る爆弾
ホピとナバホ──石炭スラリーに変わるブラック・メサ
ケチャン──金採掘
カリフォルニア州ワードバレーでの核処分場の阻止
フロリダのセミノール──同化の道具としての建築基準法規
コーダレーン──アイダホ州の鉱業廃棄物
ナバホ──ウランの高い代償
ナバホの呪医協会、パウエル湖、一酸化炭素中毒
グロヴァントルとアシニボイン──モンタナ州における金採掘とシアン化物中毒
北方シャイアン──メタンガス採収
ネコ用トイレ吸湿剤のための露天鉱の政治経済学
ウェスタン・ショーショーニー──地球上で最も多く被曝した民族
アルバカーキの排出物を食するイスレタ・プエブロ
ラグナ・プエブロとアナコンダ社ジャックパイル・ウラン鉱山
ピクリス・プエブロにおける銅鉱
ズニ──神聖な水と露天掘り炭鉱
オクラホマ・チェロキー──有毒灰投棄場への抵抗
シャイアン・リバー・スー──ホームステーク社の鉱山の毒物遺産
オグララ・ラコタ──ウラン鉱くずによる汚染
ユタ州のゴシュート──対価を受け取ってウラン燃料貯蔵施設を歓迎
ブラックフット──30㎝のキノコと有毒なカビ
マカー──捕鯨をする権利の審査
ワシントン州の漁業権──通常のかつ慣行的な場所
ヤカマ──ハンフォードに残された放射性遺物
ウィスコンシン州のチペワイアン──採掘と条約上の権利
先住民はイエローストーン国立公園の「バッファローの間引き」に断固反対する
ベネズエラ
はじめに
ペモン──土地の権利と送電
ワラオ──石油開発への抵抗
イエメン
ジャームの人々がパイプラインに穴を開ける
ザンビア
森林破壊は「貧困者」の責任か
ジンバブエ、ボツワナ──野生動物保護のための連携
参考文献
索引
前書きなど
はしがき
世界中の先住民の環境(文化、生活様式、経済を含めた)が、外部からの(通例は破壊的な)要因によって侵害されている。本書が述べているのは、このことである。ここでは「先住民」とは、他の集団が侵入するよりも前にある地域を占有してきた人間集団を言う。ありきたりの言い方をすれば、こうした侵害のほとんどは西洋の産業主義とそれに続く観光産業によってもたらされてきたし、今日だとその侵入者は東京やロンドン、ニューヨークを拠点にしているのだろう。ただし彼らがどこの者であろうと、やっていることはつねに、別の場所の株主や消費者の利益のために、先住民から資源を絞り取ることである。
このような侵害は、石油や石炭、天然ガスの開発、あるいは先住民の土地を水没させるダムの建設、また金やウラン鉱業の導入、さらには最初のエコツーリストの到来(私たちには免疫のある水ぼうそうや水痘などの病気を先住民にもたらす最初の遭遇者となる)となって現れる。コンドームの包みを孤絶した谷間に捨てる者もいる。成長する都市に電力を供給するために水力発電所ダムを建設する者も多い。だがそれが、電気など使わない先住民の土地を水没させるということは、皮肉としか言いようがない。
本書には、天然資源の開発への高まる圧力に直面する先住民が、自らの土地や資源、文化的統合をある程度維持しようと試みている地域からの、世界的規模での最新の報告が収められている。本書の情報収集にあたっては、発展するインターネット技術の利用に大いに助けられた。インターネット技術を通じて、遠隔地の人々が電話やケーブルに接続するだけで、インターネットという巨大な国際フォーラムにメッセージを投稿している。
本書が取りあげているのは、ヨーロッパの一部と南極を除くすべての大陸の、あらゆる気候風土環境に暮らす人々である。私の知る限り、環境問題への先住民の闘いの記録を一冊にまとめたものは本書が最初であろう。
(…中略…)
本書では、アルファベット順に、アルゼンチンからジンバブエまでの世界の国々、またダム立地やアメリカ先住民のエコロジー観念といった広く知られたテーマを取りあげている。私が最初この作業に取りかかったとき、編集上の趣向として先住民族の名を用いることを考えたが、すぐに、多くの読者は、よく知られた民族以外、その名を知らないだろうということに気がついた。たとえば、油井やパイプラインの開発によって伝統的な生活を壊されたアフリカ、ニジェール・デルタの先住民を紹介したとして、北米の図書館利用者で、オゴニ(Ogoni)の人々のことを知っている人がどれほどいるだろうか。また、外貨獲得のために日本やヨーロッパ、北米のおびただしい数の大物狙いのハンターが歓迎される一方で、今や減少する野生生物の肉を得るために許可を得なくてはならないボツワナのアカ・カラハリ・ブッシュマン(Aka Kalahari Bushmen)のクウェ(Khuwe)の人々のことを知っている人がいるだろうか。世界最後のチークの大森林から木材を切り出すために軍事政権によって入隊させられたビルマのカレン(Karen)の人々のことを知っているだろうか。地球上最後に残されたマホガニーの森で同様の伐採を監視している、ブラジル・アマゾンのカイアポ(Kaiapo)の名を、あるいは自分たちの島で大規模な銅鉱山計画に対し闘っているフィジーのナモシ(Namosi)の名を誰が知っているだろうか。
そのようなわけで、本書では国別に地理的な配列をすることにした。各国の項目では、その国の先住民と環境問題を扱っている。森林破壊、石油・天然ガス開発など特別のトピックに関心をもたれる読者は、目次や索引などを有効に利用していただきたい。
上記内容は本書刊行時のものです。