書店員向け情報 HELP
出版者情報
在庫ステータス
取引情報
近代日本の植民地統治における国籍と戸籍
満洲・朝鮮・台湾
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2010年3月
- 書店発売日
- 2010年3月26日
- 登録日
- 2010年4月13日
- 最終更新日
- 2011年9月16日
紹介
近代日本の植民地統治は同化主義に基づくものと一般には理解されている。だが、実際には植民地人を対外的には国籍によって画一的に統轄しながらも、対内的には戸籍によって血統的・民族的に峻別していたことを、満洲・朝鮮・台湾の資料解析を通じて証明する。
目次
はしがき
序章 視角と課題について――問題の出発点
第1節 「日本人」を画定するものとは
第2節 満洲国における国籍と戸籍のもつ意味
第3節 分析の枠組と課題
第 I 部 近代日本における国籍法と戸籍法――「日本人」と「外地人」というふたつの刻印
第1章 日本国籍と植民地人――政治的道具としての国籍
はじめに
第1節 日本国籍法と「日本人」の画定
1 明治政府における国籍法の模索
2 日本国籍法の原理と特色――「日本人」をいかに画定するか
3 在外日本人の二重国籍をめぐる国籍法改正問題
第2節 朝鮮人における「日本人」という刻印
1 植民地人の「日本人」への編入
2 韓国併合と国籍法施行問題
3 朝鮮人国籍政策と国際規範の矛盾
第3節 台湾人国籍政策の推移
1 台湾領有と台湾住民の国籍決定
2 台湾人旅券制度――同一国籍におけるふたつの旅券
3 台湾籍民と日本国籍――現地「日本人」の創出
おわりに
第2章 植民地統治と戸籍法――「内地人」と「外地人」の峻別
はじめに
第1節 日本戸籍法の構造と特質
1 壬申戸籍の成立と意義
2 「日本人」の公証資料としての戸籍
第2節 「日本人」における戸籍の壁――「内地人」「外地人」の境界
1 帝国日本における「外地」の発生
2 地域籍と共通法
第3節 台湾における戸籍制度の思想と構造
1 台湾戸口調査の始動
2 台湾統治における保甲制度の役割
3 台湾臨時戸口調査の実施――異民族統治における国勢調査
4 台湾戸籍の運用と台湾人
第4節 総力戦体制における皇民化と戸籍
1 植民地人の皇民化運動と内地転籍問題
2 第二次世界大戦末期における植民地戸籍問題
おわりに
第II部 満洲国における「国民」の画定――戸籍・国籍・民籍
第3章 満洲国草創期における国籍創設問題――複合民族国家における「国民」の選定と帰化制度
はじめに
第1節 満洲国建国と国籍法の要請
1 在満日本人の帰化問題の台頭
2 「満洲国人民」概念の創出
第2節 建国草創における満洲国国籍法案と帰化規定
第3節 白系ロシア人国籍政策における葛藤――満洲国の国籍法制定をめぐる国際環境
1 白系ロシア人国籍問題の複雑性
2 満洲国国籍法案と白系ロシア人の帰化問題
おわりに
第4章 満洲国における「国民」の身分証明――戸籍法と民籍法の帰趨
はじめに
第1節 満洲国における戸籍法の要請
1 治安粛正工作としての戸口調査
2 満洲国保甲制度の実施
3 日本人戸籍行政における治外法権
第2節 満洲国民籍制度の理念と実態
1 複合民族国家における民事法
2 満洲国民籍法制定の要請
3 満洲国の国勢調査――民籍法における「満洲国人民」の射程
4 暫行民籍法の基本内容
5 在満日本人の日満二重本籍
第3節 満洲国における「日本人」の至上性――複合民族国家における民族の純血
1 金澤理康の満洲国国籍法案――民籍制度の国籍法的運用
2 日本人開拓民における民族の純血
第4節 満洲国民籍制度の実施と限界
1 民籍法における就籍の意義
2 民籍法と寄留法
3 無化される満洲国の法域――「日本人」の司法処理をめぐって
おわりに
終章
第1節 政治的道具としての国籍
第2節 戸籍による「日本人」の創出と統制
第3節 満洲国における戸籍と民籍
あとがき
註
引用・参考文献
索引
前書きなど
序章 視角と課題について――問題の出発点
(…前略…)
第3節 分析の枠組と課題
以上の記述をふまえ、筆者は次のような仮説を立てるのである。国家が支配領域における「国民」に付与する国籍の意味や機能は原理的に一定なものではなく、国家の時宜の統治政策に即して操作されるいわば可変的なものである。よって被治者の法的地位は国家利益に即して統御されることでその帰属意識も揺り動かされ、まさにアイデンティティの政治化が現出するものとなる。すなわち近代国家における国籍は対内的・対外的要因に照応した政治的道具として便宜的に利用されるものであったのではないだろうか。これを検証する上で、本書では、日本では国籍政策における政治的な機会主義(opportunism)が戸籍を基軸として実践されてきた、という分析視角に立つ。すなわち戸籍が日本国籍を有する者を血統的に証明し、「日本人」を画定する、いうなれば戸籍主義の原理について、先行研究では分析が十分ではなかったと考えて、本書の眼目に置いている。よって本書では国籍と市民権の関係においてあるべき法理とはなにかといった規範論的なアプローチはとらず、実証的分析に努める。
(…中略…)
筆者も近代日本における植民地人の多元性、ひいては「日本人」という概念の伸縮性を重視するものである。ただし、筆者が力点を置いているのは、「日本人」が画定される政治過程は従来、国籍に分析の照準が定められてきたのであるが、本書では一貫して戸籍の果たした役割を基軸に考察しようとする点にある。さらに筆者は日本の帝国統治という文脈において植民地人以外の被統治民族にまで視野を広げる必要があると考える。そこで本書で取り上げるのが、小熊が分析の対象としていない満洲国なのである。前述したように、満洲国には中国人の季節労働者「苦力」やソビエト連邦からの難民であるいわゆる「白系ロシア人」という、植民地主義という図式のみではとらえきれない特異な存在があった。こうした存在を視野に入れて近代日本の帝国主義的性格を検討することが必要であると考える。要するに、本書では日本による異民族統治という枠組のなかで、その統治構造の形成において国籍法と戸籍法が請負った機能と効用に焦点を絞った分析を行うものである。分析方法としては、国籍および戸籍に関係する、以下の4つの政策過程を解明することを大きな眼目とする。
1.「日本人」を画定する過程――日本国籍の付与
2.「日本人」を統制する過程――日本国籍離脱の防止、戸籍による支配
3.「日本人」という帰属意識を操作する過程――皇民化政策
4.「日本人」と「非日本人」を峻別する過程――植民地人の差別化と分断
それでは、本書の構成について説明しておきたい。本書の〈第 I 部〉では台湾・朝鮮・樺太・南洋群島にいたる日本の帝国統治において、国籍および戸籍に関する政策過程を分析する。
(…略…)
〈第II部〉では、満洲国統治において、満洲国の「国民」とはいかなる存在として構想され、国籍法と戸籍法はいかにして立法化が試みられたのか、そして満洲国における「日本人」はどのように処遇されたのかについて検討する。
(…略…)
以上に述べてきたように、本書は国籍法と戸籍法による「日本人」の画定をめぐる政策の立案と形成、運用と実態を主たる分析対象とするものである。よって、人種・民族・アイデンティティ等に関する学者や思想家の言説については、目配りしつつもこれを深追いすることは避け、同時代の政策論や後世からの回顧など政策過程にとって関連性のある言説を拾うにとどめた。ただし、満洲国の政策過程についてはとりわけ史料的な制約は免れない分、法令や命令といった決裁事項や公示された行政官庁の先例以外に、政府関係者や学識者による試論・私論も政策過程の周辺を把握するための重要資料として使用した。それでは以下、近現代日本における「日本人」画定をめぐる国籍と戸籍の法的構造と政治的運用を分析することで国家による「国民」の創出、統合、排除の過程がはらんでいる政治性を探究するものとする。
上記内容は本書刊行時のものです。