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「食育」批判序説 森本 芳生(著) - 明石書店
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「食育」批判序説 「朝ごはん」運動の虚妄をこえて、科学的食・生活教育へ

発行:明石書店
A5判
292ページ
並製
定価 2,800円+税
ISBN
978-4-7503-3052-5
Cコード
C0037
一般 単行本 教育
出版社在庫情報
在庫あり
初版年月日
2009年8月
書店発売日
登録日
2011年3月18日
最終更新日
2011年3月18日
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紹介

食育基本法は「食」を介した国家総動員法である。現代栄養学の教育領域への安易な援用を戒め、朝ごはん推進運動に科学的根拠がないことを指摘。問題視される「孤食」がむしろ日本の伝統であることを説き、官・民・学の連携による食育推進運動を鋭く批判する。

目次

 まえがき

第1章 「朝ごはん」運動の虚妄――飢餓の世紀、ケトン体の復権のために
 はじめに
 一.朝食推進論批判
  1.科学的食本質論への垂鉛
  2.恣意的糖質代謝論/脂質代謝の無視
  3.脂質代謝――ケトン体に言及する朝食推進論
  4.実践的朝食必要論の陥穽
 二.空腹時脂質代謝――ケトン体研究の潮流
  1.ケーヒルグループのケトン体研究
  2.ケトン体研究が示唆すること

第2章 階層原理に見る近代食養運動の科学性――生活次元の食理論構築のために
 はじめに
 一.自然界と食行動の階層性
  1.何故ナイチンゲールか?
  2.大瀧丈二の階層理論
 二.生活科学としての栄養学へ
  1.現代栄養学における階層問題
 三.食事指針の意義と限界
  1.栄養素から食事指針へ
  2.高橋久仁子のフードファディズム論批判
 四.科学的食事理論としての近代食養理論
  1.近代食養運動
  2.桜沢如一――正食理論の科学性と限界
  3.村井弦斎――天然食論・根本食論の科学性

第3章〈火の神信仰への叛逆〉顛末記――神なき時代「食卓の戦後体制」崩壊の先に
 はじめに
 一.〈火の神信仰〉の時代
  1.近世的封建小農家族の成立と食事
  2.近代的家族論の登場
 二.生きられた近代食卓の諸層
  1.戦前の食卓風景
  2.食卓の戦後体制
  3.労働――家族形態と食卓
 三.「食育」に見る食卓論の政治
  1.教育主義的・心理主義的食卓論の横行

 あとがき
 引用文献

前書きなど

 まえがき

 二〇〇五年「食育基本法」成立以降、旗振り役の中央・地方行政とその影響下にある学校教育現場はもちろん、食品・農業関連の業界団体および企業、教育産業(「食育」関連資格創設とその養成)、学会も含む関連諸団体設立等々、多くの領域を巻き込み新たな市場を創出しつつ「食育」が展開されている。そして食にかかわるユニークな教育実践(なかでも食農教育、環境教育領域におけるそれ)もまた、「食育」なる範疇に回収されてその土俵で語られる現実がある。かつて老山勝氏が述べたように、「食育基本法」は食を介した「国家総動員法」であったことが明白になってきたといえる。
 対してかかる動きを冷静に分析・評価し、問題点を明らかにすべき研究分野においても、むしろその動きに安易に乗った研究が量産されている。河合知子氏のいう研究者自身の問題意識が鮮明になっていない「食育研究」や、池上甲一氏らのいう「俄食育」論が溢れて、総動員法の威力は学問研究領域をも覆い尽くそうとしている。危機にある食を改善するという「錦の御旗」の魔力と、そこに楔を打ち込めない問題意識の弛緩状況があるわけだ。
 本書はこうした社会動向を踏まえ、「食育」の一環として取り組まれている「早寝早起き朝ごはん」運動――とりわけそこでの「朝ごはん」問題とそれにかかわる研究方法論、および家庭の食卓が人格形成の場であることを殊更強調する教育主義的・心理主義的食卓論に対して、原理論的な関心から批判・対話を試みたものである。
 第1章では、「朝ごはん」運動の根拠とされる生体エネルギー論(脳=ブドウ糖単独燃料説)の信憑性を問い、ケトン体を視野に収めた議論の必要性を論じた。科学的根拠を持たない生活介入は許されないと考えるからである。第2章は、分析「科学」主義の典型たる現代栄養学の知見の教育領域への安易な援用を戒めるため、日常生活次元で食を議論するさいに必要な学問方法論上の問題を俎上に載せた。そのさい、〈食育〉の伝統を継承すべく、近代食養運動の科学性と限界・課題を明らかにせんとする問題意識のもとに、それを論じた。第3章では、歴史文化史的視点から朝食抜きとコ食問題を概観し、教育主義的・心理主義的食卓重視論が抱える政治的問題を解読することを試みた。ある種のコ食は日本の伝統であり、饗宴や野外での食事は別としてイエでの日常的食事は社会規範に統制された儀礼的場面であった。むしろ社会の周縁(下級武士層)で生きられていた〈団欒的な食卓〉や、明治期の没落士族家庭に見られた食卓の「質的崩壊」、すなわち正当化された社会規範からみると〈乱れた食卓〉経験者こそが、近代において未来を切り拓く家族論を産みだし生きたことも示した。

(…中略…)

 こんにちの多数派の「常識的」価値観からすれば「食の乱れ」と映る現象のなかに、私たちの未来を拓く可能性は如何なる相貌を持って胚胎しているのであろうか。そこを開示・展開するには分析「科学」主義からの脱却にくわえ、「食卓の近現代史」の解明をもとにした生活論の構築という難問が立ちはだかっている。けれども一方でそれは、私たちの心身に長い進化過程を経て刻み込まれた〈力〉で生きるとき、難なく越えうるハードルに過ぎない。
 そうした問題の所在を示そうとしたのが本書である。

著者プロフィール

森本 芳生  (モリモト ヨシオ)  (

1957年兵庫県生まれ。
岡山大学理学部物理学科卒業。神戸大学大学院教育学研究科(修士課程)修了。専攻・教育学。日本綜合医学会会員。
著書:『近代公教育と民衆生活文化』1996年、『学校教育と学びの意味』1999年、『病いとかかわる思想』2003年、同【第2版】2006年(いずれも明石書店刊)

上記内容は本書刊行時のものです。