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マスメディア 再生への戦略
NPO・NGO・市民との協働
- 出版社在庫情報
- 在庫僅少
- 初版年月日
- 2009年8月
- 書店発売日
- 2009年8月31日
- 登録日
- 2010年2月18日
- 最終更新日
- 2012年1月18日
紹介
「客観報道」を標榜しながらも、国家や政府に寄り添いつづける日本のマスメディア――。市民セクターと協働する「公共するジャーナリズム」への転換を求め、市民に開かれた新たなるメディア検証組織の創設を訴える。
目次
はじめに
第I章 マスメディアに必要な「市民の視点」
1 オバマとメディアとNPO
2 一市民であること
3 「市民の視点」と「国民の目線」のちがい
4 マスメディア記者とジャーナリズム
5 新聞記事はどのようにつくられるのか――そのプロセスと責任の所在
第II章 公共するジャーナリズムとは何か
1 「集中過熱取材」と「一極集中報道」のなかで見失われた市民社会の動き――「阪神・淡路大震災」取材を貫いた私的ジャーナリズムの陥穽
2 操作される情報に対する市民側のメディアリテラシー――「オウム真理教事件」取材に見る公的ジャーナリズムの限界
3 マスメディアとNPOの協働の成功事例――「コミュニティ・レストランプロジェクト」
4 マスメディアと市民メディアの協働――コミュニティFMとG8メディアネットワーク
5 マスメディアと国際的な市民活動の協働の可能性――日中韓のNPO/NGO/市民ネットワーキング
第III章 参加協働型市民社会へのパラダイムシフト
1 参加協働型市民社会とは
2 NPO、市民参加、協働――その真の意味
3 東アジア型市民社会を拓く
第IV章 マスメディア改革に必要な「公共(する)哲学」――哲学者・金泰昌氏との対話
おわりに――「日本版アクリメド」創設に向けて
あとがき
参考文献
前書きなど
あとがき
(…前略…)
筆者はこの10年、「NPO研修・情報センター」という人材養成の中間支援NPOを創って市民、NPO、行政、企業の橋渡し役となる協働コーディネーターの養成に取り組んできた。と同時に、食を核にしたコミュニティ再生プロジェクト「コミュニティ・レストラン」や酒蔵を核にしたまちづくりを進める「酒蔵環境研究会」といった実践活動をするNPOを数々展開してきた。
その過程で、新聞、テレビ等多数のマスメディアの取材を受けてきた。しかし、マスメディアの取材を受けるたびに記者やデスクのNPOや市民社会に対する根本的な理解不足や、市民社会構築に向けてのマスメディアの人々の役割認識の薄さを感じてきた。
共著者の土田修さんとは2000年春にコミュニティ・レストランの取材にこられたのが最初の出会いであった。そのころのことを思い出して話をしてみると、私が話していることばのひとつひとつ、NPO、NGO、市民公益、本来の第3セクター、公共哲学等々のことばが宇宙人のことばのようだったといわれる。
それまで事件記者としてバリバリやってきた土田さんにとって取材対象はもっぱらいわゆる「お上」であり、そこを取材対象にしているうちに記者も「上から目線」になって「市民」を見ていたということだったのだろう。私はコミュニティ・レストランの事象だけを記事にするのではなく、その社会的な意味、市民社会の萌芽を記事にしてほしいとかなり議論した。
普通の新聞記者の場合は「はいはい分かりました」といって結局コミュニティ・レストランの料理をつくっている場面や食べている場面をチャカチャカと写真にとって、こんな珍しい、またはおもしろいものができましたよ、という感じの記事にまとめて、おわり。取材も多くて2回、多くの場合は1回だけというのが多い。
テレビの場合はもっと露骨に、絵になる場面を要求される。理念やミッションはともかく、絵になる場面が必要という取材姿勢は各局一律だ。理由をきくと、「自分は世古さんのいうことはわかるが上の指示でどうにもならない」というおきまりのことばが返ってくる。
共著者の土田さんの場合は少しちがった。はじめは宇宙語にしか聞こえなかった私のことばをなんとか理解しようと何冊かNPO関連や私の著書を読んでコミレスの現場取材にも何回か来たうえで、ようやく記事にするというスタイルだった。NPOのことを本気で勉強しようと私が大学でやっていたNPO論の講義も聞きにきてくれた。
私が伝えたい市民社会の本質的な意味、これからの社会は政治家や企業に任せておくのではだめで、自発的な市民がNPO/NGOとして公共を担う必要性と、そのことをマスメディアとしてきちんと伝え、市民社会をわが国でも実現していく必要性について議論した。活動と取材、報道が併走してきたまれな例であろう。
そのことは本書で土田さんが書いているコミレスやNPOをめぐる動きや日中韓のNPO/NGOについての項目からもよく読み取れると思う。
こうした対話と経験を通じて、「一市民としての視点」の意味を身体感覚でわかる記者が書く記事は明らかにちがう。マスメディアの記者にNPOや市民社会についてもっと知ってもらえば記事の質もあがり、市民社会を構築していくことに大きな力になると痛感した。
本書はこうした思いから我々の対話と実践のプロセスを明らかにすることによって、マスメディアを変え、市民との協働を進めることの意義を伝えたいと思って構想した。
構想から出版まで1年半かかったのはどのテーマをどのように取り上げ、どのように書くか、本当の意味での共著者として、とことん対話、取材、協働してきたためだ。また市民メディアやコミレスやメディアをめぐる状況についてもできるだけ最近の動きを書きつつ、5年、10年後に読んでいただいても意味のある書き方にしようと努力したのもその一因である。
また、公共するマスメディアのあり方を公共哲学という新しい分野から理論的にも補強しておこうと公共哲学共働研究所の金泰昌氏との鼎談を入れた。従来のマスメディア論とは異なる新しい視点や気づきがあると思う。
(…後略…)
2009年8月 世古一穂
上記内容は本書刊行時のものです。