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批判的ディアスポラ論とマイノリティ 野口 道彦(著) - 明石書店
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世界人権問題叢書70

批判的ディアスポラ論とマイノリティ

発行:明石書店
四六判
416ページ
上製
定価 5,000円+税
ISBN
978-4-7503-2964-2
Cコード
C0336
一般 全集・双書 社会
出版社在庫情報
在庫あり
初版年月日
2009年4月
書店発売日
登録日
2015年8月22日
最終更新日
2015年8月22日
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紹介

大阪市立大学人権問題研究センターが総力をあげて21世紀を人権の世紀とすべく、人権問題をより深く根底から問う双書の第1弾。差別論、ギルロイやホールらの思想、日本文学、米国の現状、在日など、既存の「ディアスポラ」概念を脱構築し、新たな可能性を探る。

目次


 序

第1章 ディアスポラ――拡散する用法と研究概念としての可能性(戴エイカ)
 はじめに
 ディアスポラの定義と研究の発展
 社会形態としてのディアスポラ
 ディアスポラの政治的言説・政治の実践
 「ディアスポラ」という研究概念

第2章 アフリカン・ディアスポラ研究の展開(戴エイカ)
 はじめに
 アフリカ系アメリカ研究
 ディアスポラ研究の設立
 ディアスポラ研究の発展
 アフリカン・ディアスポラの複数性・多様性
 アフリカン・ディアスポラ研究の可能性と内的ヘゲモニー
 日本列島を一つの拠点とするディアスポラ
 追記(2008年12月5日)――黒人大統領の誕生、ナショナリズム、ディアスポラ

第3章 在日コリアン青年の学びあう場――ディアスポラ・スタディーズ(戴エイカ)
 はじめに
 答えはひとつじゃない
 二分化された運動と韓青連の結成
 KEYの目指すこと
 学びあう場
 学びと社会活動
 トランスナショナルな文化批判と自己理解
 日常的相互作用と「日本人」――ディアスポラの空間
 二者択一からディアスポラ・スタディーズ

第4章 ディアスポラと部落、そしてパラダイムの転換(野口道彦)
 「あれか、これか」ではなく
 ディアスポラとしてスチュアート・ホール
 ディアスポラとは
 境界線の流動化
 血縁幻想、地縁幻想からの解放
 三位一体論的幻想からの解放
 複眼的な視点を獲得

第5章 ディアスポラとしての中上健次――虚構の「路地」と現実の被差別部落(野口道彦)
 はじめに
 「路地」の諸類型
 ディアスポラとしての部落民
 ディアスポラとしての中上健次
 おわりに

第6章 ディアスポラと部落問題、そして移民問題(野口道彦)
 はじめに
 部落問題における移民の位置
 移民の前史
 北海道への移民
 満州への移住者
 むすびにかえて

第7章 「下方の」あるいは「下方への」ディアスポラ――ディアスポラはインターナショナリズムの夢を見るか?(島和博
 ディアスポラとしてのアパッチ
 アパッチとは誰か?
 「下方」のディアスポラ
 もうひとつのアパッチの物語
 鳥のように自由に
 民族の外へ、そして階級の底へ

前書きなど

   序

 (…前略…)

 戴エイカは、「第1章 ディアスポラ――拡散する用法と研究概念としての可能性」で、ディアスポラ概念がディアスポラ化している現状を整理し、実在するコミュニティないしは社会的な形態として使い方、ディアスポラ意識という使い方、あるいは文化の構築様式としてのディアスポラの三つに分けて論じている。なかでも「ディアスポラの政治的言説・政治的実践」の節が重要である。
 「第2章 アフリカン・ディアスポラ研究の展開」では、従来の黒人問題研究が国民国家の枠を越えて、アフリカに在住する人々と世界に散在するアフリカ系の人々の間で共有しうる歴史的経験の絆を再発見するものとしてアフリカン・ディアスポラ研究の活性化をもたらした背景や問題意識を論じている。そのなかでも欧米の覇権的権力によって「植民地化」された学会への批判、「白人性」や西洋」の批判的分析、アフリカ中心主義への批判、本質主義的な志向性の傾向など、研究者・アクティビスムをめぐる議論などは重要である。
 「第3章 在日コリアン青年の学びあう場――ディアスポラ・スタディーズ」では、「在日コリアン青年連合」に集う若者たちが、どのような活動をし、どのように自己認識のあり方を模索しているのかを記述し、その営みを戴エイカは、ディアスポラ・スタディーズという概念でとらえ、これを「研究アクティビスム」の可能性を示すものとしている。
 野口道彦は、部落問題をディアスポラとしての視点から分析している。ディアスポラ概念は通常、国境を越えた移動としているが、野口はそれをさらに一般化し、祖国(母国)を、故郷=部落として、ホスト国を、支配的な社会、マジョリティ社会、無徴化された市民社会として読み替えるように提唱している。このようにディアスポラ概念を部落問題に適用することが可能なのは、被差別部落とマジョリティ社会との間に目に見えない障壁が存在しているからである。
 「第4章 ディアスポラと部落、そしてパラダイムの転換」では、部落と部落外とを分ける境界線は、(1)部落外への転出者の増大、(2)部落内への転入者の増大、(3)部落と部落外との通婚の増大、(4)部落産業の崩壊などによって急速に流動化している現状を踏まえて、身分差別、地域差別、職業差別が不可分に絡み合っているとする三位一体論的部落観が成立しなくなっていることを指摘し、部落問題の分析にディアスポラという視点を持ち込むことによってどのようなことを明らかにできるのかを論じている。「第5章 ディアスポラとしての中上健次――虚構の「路地」と現実の被差別部落」では、中上健次は、「路地から逃れた人間」なのか、「路地」への帰還を切望したのか、どのようなディアスポラ的状況を生きたのかを、彼の作品をとおして分析している。「第6章 ディアスポラと部落問題、そして移民問題」では、部落問題ではあまり語られてこなかった移民問題をとりあげている。一つは北海道移民であり、もう一つは満州移民である。どちらの移民も失敗に終わっているが、それらをディアスポラという角度から分析をしている。五族協和という今日でいう「多民族共生」の大義名分のもとに植民地支配に動員されていったプロセスは、歴史的な教訓として受けとめられなければならないだろう。
 島和博の「第7章 「下方の」あるいは「下方への」ディアスポラ――ディアスポラはインターナショナリズムの夢を見るか?」は、戦後旧陸軍砲兵工廠跡地に出現した「アパッチ族」を、開高健の『日本三文オペラ』、梁石日の『夜を賭けて』を軸に比較検討している。開高がアパッチを「朝鮮、日本、沖縄、国境なしや」「南鮮も北鮮もないのや」と描き出したのに対して、梁はそれを在日朝鮮人の「生きる闘い」としてとらえ、在日朝鮮人の物語として取り戻し、提示した。この梁石日の試みを、島は「ディアスポラのナショナリズム」としてとらえ、「アパッチ族」とは誰なのかをめぐって、本質主義的解釈と反本質主義的な解釈をめぐって議論を展開している。
 このように三人の執筆者は、それぞれの角度からディアスポラを論じている。そのディアスポラのとらえ方は、三人の間で微妙に違うが、その違いについては読者の判断に委ねたい。しかし、ディアスポラを本質主義的にとらえることに批判的であり、ナショナリズムをいかに乗り越えるのかという問題意識については三人は共有している。それぞれの論文は、ナショナリズムに批判的な視点を獲得するためディアスポラ論として展開されている。
 マイノリティ問題について、反本質主義的な視点でとらえることは重要であるが、しかしそうすることが、同時にマイノリティ集団内部の連帯を弱め、個人の問題としてバラバラに切り離し、ネオリベラリズムに回収される危険性は十分に自覚的でなければならない。塩原良和はオーストラリアの多文化主義の分析を通して、反本質主義的理解がネオリベラリズムによって歪曲されていく現状を鋭く指摘している。マイノリティ問題の反本質主義的アプローチが、予期せぬ結果として、マイノリティ集団に一方的に武装解除を要求することになりかねない。そうではなくて、逆にマイノリティ集団間の連帯の豊饒化に役立つものにするには、どのような理論やアプローチを準備すればよいのか。この課題の達成は容易なことではない。ここでは、それを具体的に展開するにはいたっていないが、問題の重要性を指摘しておきたい。

 (…後略…)

著者プロフィール

野口 道彦  (ノグチ ミチヒコ)  (

大阪市立大学大学院創造都市研究科教授。大阪市立大学人権問題研究センター所長。著書に『部落問題のパラダイム転換』、『新版・反差別の学級集団づくり』(共著)、『共生社会の創造とNPO』など。

戴 エイカ  (タイ エイカ)  (

ノースカロライナ州立大学教授。旧浦和市生まれ、川崎市育ち。父は旧植民地台湾出身。母は旧大日本帝国内地出身。米国カリフォルニア大学バークレー校で文化人類学を学ぶ。サンフランシスコ州立大学を経て現職。著書に『多文化主義とディアスポラ』。

島 和博  (シマ カズヒロ)  (

大阪市立大学大学院創造都市研究科教授。大阪市立大学大学院文学研究科博士課程(社会学)修了・博士(文学)。大阪市立大学人権問題研究センター研究員。著書に『現代日本の野宿生活者』。

大阪市立大学人権問題研究センター  (オオサカシリツダイガクジンケンモンダイケンキュウセンター)  (企画

人権問題の解決に研究・教育を通じて貢献することを目的として大阪市立大学内に設置された研究機関(専任研究員2名、兼担研究員15名/2008年4月1日現在)。1973年に活動を開始した同和問題研究室を発展的に継承した。主な研究領域は、「部落問題論」「ジェンダー論」「エスニック・スタディー」「障害者問題論」「障害者教育論」「法制史における差別」「医療倫理」「医療と人権」「ホームレス問題」「基地問題と人権」など。研究成果は紀要『人権問題研究』として発表。人権問題委員会と協力し、『人権問題研究ハンドブック』1~6を編集・発行。

上記内容は本書刊行時のものです。