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ケベックを知るための54章 小畑 精和(編著) - 明石書店
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ケベックを知るための54章 エリア・スタディーズ72

発行:明石書店
四六判
392ページ
並製
定価 2,000円+税
ISBN
978-4-7503-2951-2
Cコード
C0336
一般 全集・双書 社会
出版社在庫情報
在庫あり
初版年月日
2009年3月
書店発売日
登録日
2015年8月22日
最終更新日
2015年8月22日
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紹介

北米の英語の海に浮かぶフランス語圏、カナダ・ケベック州。その歴史は民族の生き残りをかけた苦難の物語であった。しかし、この厳寒の地には、目を見張るばかりの多様な文化が花開き、世界に多大な影響を与え続けている。ケベックを丸ごと知りたい人に。

目次


 凡例
 まえがき
 ケベックの位置
 ケベック州の基礎データ・ケベックの州旗と紋章

I  自然環境と都市

第1章 地理は歴史の舞台――ケベック文明を支える環境
第2章 モントリオールとケベック市――二都物語

II 歴 史

第3章 最初の“カナダ人”――ヨーロッパ人との出会い
第4章 「フランス的事実」のルーツ――フランスの植民地時代
第5章 イギリス領以降のケベック――「生き残り」か「独自の社会」の模索か
第6章 新しいケベックの挑戦――自信の回復にむけて
第7章 ケベック史に見る英雄像の“発明”――シャンプラン像をめぐって


III 政治・経済・対外関係

第8章 ケベック州政治のしくみ――“ケベック国家”の営み
第9章 政党政治の展開――三大政党制の行方
第10章 ケベック・ナショナリズム――分離独立・主権から「独自の社会」へ
第11章 産業経済――世界有数の準国家
第12章 産業構造――カナダ経済の牽引車
第13章 対外・対日経済関係――日本を向くケベック
第14章 国際社会のなかのケベック――対外政策と日本・ケベック関係

IV 人口動態・民族・ひと

第15章 人口動態と民族的出自――変わりつつある人口構造
第16章 先住民――ケベックの原住者の歴史と現状
第17章 マイノリティの人たち――イスラム、ユダヤ、シークの宗教的慣行をめぐって
第18章 多様化する家族と人間関係――少子化・核家族化・非婚・同性婚
第19章 社会保障制度――連邦制度との協調と少子・高齢化への独自の対応

V カナダにおける「独自の社会」

第20章 「ネイション」としてのケベック――「エスニック」から「シヴィック」への変貌か
第21章 フランス語憲章――なぜフランス語にこだわるのか
第22章 アングロフォン――ケベックにおける“英語的”事実
第23章 独自のケベック言語――ジュアルからケベック的用法まで
第24章 カトリック教会――教会主導的社会から政教分離へ
第25章 州独自の教育政策――何をめざすのか
第26章 インターカルチュラリズム――多文化主義との対峙
第27章 アロフォンから見た言語環境――少数派の視点

VI 文化的アイデンティティの模索

第28章 生き残りの哲学――「英語の海」のなかで生きのびてきた人たち
第29章 フランス系カナダ人からケベコワへ――「静かな革命」期におけるアイデンティティの変容
第30章 問い直されるケベック・アイデンティティ――ケベックの町を散策しながら
第31章 エクリチュールを通して見るケベックの女性――ケベックの女性運動と文学
第32章 多様化する文化シーン――フランコフォニーとケベック

VII 舞台と映画

第33章 ケベコワに愛され続ける歌――フェリックス・ルクレール、ジル・ヴィニョー、ボードマージュ
第34章 世界に広がるケベックの歌――セリーヌ・ディオン、ガルー、リンダ・ルメイ
第35章 ドキュメンタリー映画――シネマ・ヴェリテの隆盛
第36章 ケベック映画――口語文化の創造の歴史
第37章 活気あふれる演劇――社会を映す言葉
第38章 ロベール・ルパージュとミシェル・トランブレ――ケベックを揺るがし、ケベックを越える劇作家たち
第39章 英語圏におけるケベック演劇の受容――翻訳効果
第40章 新しいサーカス――シルク・ドゥ・ソレイユ
第41章 リスキーに、鮮やかに身体が舞う――自由と革新の気風、ケベックのダンス
第42章 注目を浴びる文化政策――文化投資と国際市場開拓の結合

VIII ケベック文学

第43章 ケベック文学の特徴――「生き残り」から動的アイデンティティへ
第44章 『マリア・シャプドレーヌ』と伝統的社会――変わりゆくものと変わらないもの
第45章 ガブリエル・ロワとアンヌ・エベール――ケベック文学を代表する2人の女性作家
第46章 イヴ・テリオーとイヌイット――『アガグック物語』を中心に
第47章 「静かな革命」期の文学――ジャック・ゴドブーとユベール・アカン
第48章 トランスカルチュラリズムと移民作家――マルコ・ミコーネからアキ・シマザキまで

IX 人々の暮らし

第49章 冬のさまざまな顔――今も昔も変わらないもの
第50章 春を告げるメープルシロップ――先住民の知恵から生まれた命の水
第51章 プラトー地区の魅力と庶民性――モントリオールの街角
第52章 四季を彩る祭り――人生を楽しむために
第53章 豊かな食文化――ヌーヴェル・フランスの味を今に伝える
第54章 学生生活――よく遊び、よく学ぶ

 ケベック歴史年表
 ケベックを知るための文献・情報ガイド

前書きなど


 まえがき

 本書は、明石書店のエリア・スタディーズ・シリーズのなかで、初めて一国内の特定州をとりあげたものです。それがケベック州です。この“エリア”が、カナダのなかでとびきりユニークな存在だからです。ケベックは、文化的にも政治的にも半独立国家のような存在なのです。ケベックをカナダ連邦政府に属する単なる一地方……とでもとらえようものなら、これはもうとんでもない誤解です。ケベックは、独自のメンタリティをもち、独自のアイデンティティを形成し、そして独自のライフスタイルを愉しんでいる“エリア”です。そこはカナダのなかに在りながら、明らかに「異質」なのです。その個性がまさにケベックの魅力です。
 では、具体的にこのケベックとはどのような過去をもち、現在どういった社会であり、そこで人々はどのような文化を育んで暮らしているのでしょうか。なぜケベックはその独自性にこだわるのでしょうか。ケベックはいつまでもカナダにとどまるのでしょうか。こうした疑問に対する答え、あるいは問題意識に対するヒントが、すべて本書にあります。
 まず第1に本書のねらいは、フランス色が濃く残っているケベックの姿を、歴史・政治や文学・芸術から日常の暮らしにいたるまで、多面的に扱うことです。豊かな英語文化圏から学ぶべきことはもちろん重要ですが、しかし同時にユニークなフランス語文化圏がこの国には厳然として存在しているのです。しばしば喩えられるように、ケベックはメキシコを除く北米大陸という広大な「英語の海」のなかで、ポツンと浮かんだ「フランス語の孤島」のようです。しかし、「英語の海」に囲まれながら、それに飲み込まれずに生き残ってきた“エリア”がケベックなのです。
 第2に本書の構成についてですが、前半ではケベックを構成する社会的枠組みを対象としています。建物でいえば“骨組み”や“外壁”に相当するでしょう。地理・歴史・政治・経済・社会構造など、ケベックのいわば“舞台設定”を描いています。これは、読者の皆さまにまずケベックのイメージをつくっていただきたい、という意図によるものです。
 後半では、ケベコワ(ケベック人)の表現芸術やライフスタイル、あるいは内面についてふれています。すなわち、文化・文学・映画・演劇・アイデンティティといったテーマが中心です。人間らしさに満ち、創造力豊かで、そして内省的なケベコワの姿を扱うことなく、ケベックを語るのはとうてい不可能だからです。
 第3に本書をお読みいただく前に、ここでどうしてもケベックの過去から現代までの流れについて、触れておかねばなりません。一見、恵まれた社会のように映るケベックにも、耐え忍んできた歴史があるからです。18世紀の英仏植民地戦争にフランスが敗れて以来、新大陸に取り残されたフランス系住民は辛酸をなめてきました。彼らは周囲の「英語の海」にたえず脅威を感じながら、長らく、カトリック教会を中心に自給自足的な農村型社会に閉じこもって生き残ってきたのです。
 しかし、ようやく1960年代の「静かな革命」期に、ケベックは伝統的な社会から脱却し、近代化が急速に進んでいきます。家庭に閉じ込められていた女性が社会進出し、教会の禁じていた離婚が激増します。差別的移民制限の撤廃によって、ヨーロッパ系のみならず、アジア系やアフリカ系の移民が急増します。教育省が設けられ、学校教育が教会の影響力から切り離されます。水力発電会社が州有化され、年金保険制度が整備され、経済改革が行われ、豊かな暮らしが実現されていきます。さらに1980年代に入ると、歌手セリーヌ・ディオン、劇作家ロベール・ルパージュ、サーカスのイメージを一変させたシルク・ドゥ・ソレイユなど、世界的なアーチストや団体がケベックから輩出されます。
 こうして現在、ケベックの人々は「ジョワ・ド・ヴィーヴル(生きる喜び)」を満喫しているようにみえます。ちなみに、レジェ・マーケティング社の世論調査によると、2007年の時点でケベコワの実に88%が「幸せ」(「大変幸せ」26%および「どちらかというと幸せ」62%〈L'annuaire du Quebec 2008, p.105, Fides, 2008〉)と回答しています。これはきわめて興味深い数字です。
 しかし、今でも厳しい冬はケベコワのサヴァイヴァルの象徴です。だからこそ春先にしかとれないメープルシロップを彼らはこよなく愛するのでしょう。それは長くて寒い冬を耐えてきたものにとって格別な味がするはずです。
 そして第4に言葉の表記についてですが、たとえばモントリオールかモンレアルか、セントローレンス河かサンローラン河かなど、編集にあたっては「言語問題」に悩まされました。それについては凡例をご参照ください。また当然ながら、本書がケベックのすべてを語りつくしているわけでもありません。ケベック州内にも多くの地方があり、それぞれの特色があります。残念ながらそれを詳しく伝えることはできませんでした。また、たとえばスポーツや美術などについて、あまりふれるスペースがありませんでした。ケベコワが熱狂するアイスホッケー、『全面拒否』の宣言で知られる画家ポール=エミール・ボルデュアの抽象画、ケント・ナガノが指揮するモントリオール交響楽団など、紹介したいものはまだまだありました。とはいえ、ケベックに関してさらに勉強したい読者の皆さまのために、巻末に基本的な参考資料をあげました。本書およびこれらを利用しながら、ケベックについてますます興味が高めていただくことを、執筆者一同、強く願っております。


(…後略…)

著者プロフィール

小畑 精和  (オバタ ヨシカズ)  (編著

明治大学政治経済学部教授。同大学国際交流センター所長。日本ケベック学会会長、日本カナダ文学会副会長、日本カナダ学会理事。国際ケベック研究誌Globe編集委員。『現代の理論』編集委員。元『新日本文学』編集委員。主な著訳書に、『ケベック文学研究』(御茶の水書房、2003年、カナダ首相出版賞審査員特別賞受賞)、『「ヌーヴォー・ロマン」とレアリストの幻想』(明石書店、2005年)、『アメリカの光と闇』(編著、御茶の水書房、2005年)、『越境する想像力』(共著、人文書院、2004年)、『精神の痛みと文学の根源』(編著、千年紀文学叢書5、皓星社、2005年)、『やぁ、ガラルノー』(ジャック・ゴドブー原作、彩流社、1998年、北米フランス語普及功労章受章)、『急流』(アンヌ・エベール原作、『とい』14号、1994年)など。

竹中 豊  (タケナカ ユタカ)  (編著

カリタス女子短期大学言語文化学科教授。明治大学で「現代のケベック」講座担当、青山学院女子短期大学などで非常勤講師。日本ケベック学会副会長、日本カナダ学会理事、『カナダ研究年報』編集委員。元在カナダ・日本国大使館専門調査員。主な著訳書に、『カナダ 大いなる孤高の地──カナダ的想像力の展開』(彩流社、2000年、カナダ首相出版賞受賞)、『大地と人間の物語』(共著、朝倉書店、2006年)、『ケベックの生成と「新世界」』(ジェラール・ブシャール著、監修、彩流社、2007年、カナダ首相出版賞審査員特別賞受賞)、『新版史料が語るカナダ』(編著、有斐閣、2008年)など。

上記内容は本書刊行時のものです。