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アタッチメント
子ども虐待・トラウマ・対象喪失・社会的養護をめぐって
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2008年12月
- 書店発売日
- 2008年12月13日
- 登録日
- 2010年2月18日
- 最終更新日
- 2010年11月8日
紹介
子どもが特定の他者との間に結ぶ情緒的な絆、アタッチメント。児童虐待急増でこの理論への関心が高まっている。本書はアタッチメント研究前史から最新の研究成果までを追うことで、虐待された子どもへの影響を明白にし、社会的養護での支援のあり方を探る。
目次
序文
第1章 アタッチメント研究前史(庄司順一)
はじめに
1 精神分析理論
オイディプス・コンプレックス
2 ホスピタリズム研究
(1)19世紀末~20世紀初頭のドイツ
(2)チャピン(20世紀初頭のアメリカ)
(3)ホスピタリズムの新しい形態(第2次世界大戦前後)
3 ボウルビィ
(1)略歴
(2)アリ・ボウルビィと40人の盗賊
(3)マターナル・デプリベーション
(4)母親に対する子どもの絆の本質
(5)ラターによる「マターナル・デプリベーション」批判
(6)晩年
第2章 アタッチメントの形成と発達――ボウルビィのアタッチメント理論を中心に(久保田まり)
1 ボウルビィのアタッチメント研究の動機
2 アタッチメントという絆の持つ意味
3 アタッチメント行動システム
4 コントロール・システム理論
5 他の行動システムとの相互連関
6 アタッチメント行動の発達段階
7 ボウルビィからエインスワースへ
8 アタッチメントパターンの個人差
第3章 アタッチメント研究の発展――発達臨床心理学的接近(久保田まり)
1 メインの貢献とアタッチメント研究の発達臨床心理学的なひろがり
2 成人アタッチメントインタビューとアタッチメントの内的表象
3 アタッチメントの混乱としての「無秩序・無方向型アタッチメント」
4 アタッチメント行動システムの崩壊のメカニズム
5 養育者自身のアタッチメントの外傷体験の未解決と混乱した養育行動
6 D型アタッチメントの発達臨床的パスウェイ
7 アタッチメントの再構築としてのオルタナティブ・アタッチメント
(1)モノトロピーに関する誤った解釈
(2)アタッチメント人物とは具体的にどのような対象であるか
(3)施設養育におけるオルタナティブ・アタッチメント
(4)不適切な養育を受けた子どもの新たなアタッチメント関係の形成
(5)アタッチメント関係の内的表象の組織化――関係性の統合的組織化モデル
第4章 わが国における社会的養護とアタッチメント理論(庄司順一)
1 社会的養護
(1)社会的養護とは
(2)社会的養護の歴史
(3)児童福祉法成立
(4)最近の動向
2 わが国におけるホスピタリズム研究
(1)小児医学におけるホスピタリズム研究
(2)児童福祉分野におけるホスピタリズム研究
(3)池田由子のホスピタリズム研究
(4)その後のホスピタリズム研究
(5)乳児院を退所した子どもの追跡研究
3 乳児院における養育
4 アタッチメント理論はどのように受け入れられたか
5 アタッチメント理論と社会的養護
第5章 アタッチメント障害の診断と治療(青木豊)
はじめに
1 乳幼児期の「アタッチメントの問題」――2つの研究の流れ:型分類と精神疾患・障害
2 反応性アタッチメント障害とアタッチメント障害
(1)精神疾患としての「アタッチメント障害」の研究の歴史と現況
(2)アタッチメントの型分類とアタッチメント障害の関係
(3)評価と診断
(4)疫学
(5)自然経過
(6)治療
3 わが国における研究と臨床課題
(1)診断・評価について
(2)介入と養育について
(3)発達的精神病理学研究について
おわりに
第6章 アタッチメントとトラウマ(奥山眞紀子)
1 アタッチメントとトラウマ
(1)アタッチメント研究とトラウマ研究
(2)筆者の体験から
(3)トラウマ耐性と遺伝子研究
2 子どものトラウマ
(1)子どものトラウマの臨床と研究の歴史
(2)子どものトラウマ反応に影響する要因
(3)子どもの外傷後ストレス障害の診断
3 アタッチメント問題-トラウマ複合と自己感の発達への影響
(1)虐待を受けた子どものアタッチメント問題-トラウマ複合
(2)ATCによる病理
4 ATCとの鑑別が必要な問題
5 ATCの治療
6 今後に向けて
第7章 アタッチメント対象の喪失(奥山眞紀子)
1 精神分析の流れ
2 子どもの喪失体験
3 子どもの喪の過程に影響する要因
(1)喪失以前の問題
(2)喪失自体の状況
(3)喪失後の問題
4 アタッチメント対象を喪失した子どもへの支援
(1)周囲の大人へのガイダンス
(2)子どもへの直接の支援
(3)家族全体への支援
(4)生活への支援
5 今後に向けて
第8章 発達障害とアタッチメント障害(杉山登志郎、海野千畝子)
1 発達障害とアタッチメント障害の複雑な関係
2 子ども虐待の高リスク要因としての発達障害
3 高機能広汎性発達障害と反応性アタッチメント障害
(1)高機能広汎性発達障害と反応性アタッチメント障害の鑑別
(2)広汎性発達障害の母子例に認められる虐待
4 ADHDと虐待による多動性行動障害の鑑別
(1)ADHDと虐待系の多動との鑑別
(2)多動と非行と虐待
(3)虐待に伴う多動性行動障害の神経生理学的研究
5 発達障害としての子ども虐待
(1)被虐待児の臨床像
(2)被虐待児の脳画像所見
6 発達障害としてのアタッチメント障害への治療
(1)安全の確保と衝動コントロール
(2)アタッチメント障害を修復するための精神療法
索引
前書きなど
序文(一部抜粋:庄司順一)
最近、アタッチメントへの関心が急速に高まりつつある。
アタッチメント(attachment)とは、ある人物が特定の他者との間に結ぶ情緒的な絆をいう。子どもが母親(あるいは母親に代わる人物)との間に結ぶ絆として論じられることが多い。子どもにとって母親との関係は最初に経験する人間関係であり、後年のさまざまな人間関係の基盤となると考えられる。アタッチメントは、子どもが母親に接近し、接近した状態を維持しようとする行動(アタッチメント行動)として現れる。アタッチメントは「愛着」と訳されることもあるが、最近はカタカナで「アタッチメント」と表されることが多い。それは、「愛着」ということばには「愛情」と混同されやすい面があり、これを避けるためと、アタッチメントは本来危機的な事態で、母親に接近したり、接近した状態を維持することで安全を確保することを意味しているからである。たとえば、近所に大の仲良しがいて、手をつないだり、そばにいることを楽しんでいても、転んだりしたときには「ママー」と言って、母親に駆け寄るだろう。アタッチメントの対象は、仲良しの友だちではなく、母親なのである。本書では、「アタッチメント」という表現を用いることにした。
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(…中略…)
本書の特徴は、アタッチメントと子ども虐待、社会的養護に焦点をあてたことと、「喪失」の問題を取り上げたことにある。
本書では、まず、アタッチメント理論が成立するまでの背景を庄司が詳しく論じた(第1章)。ここでは、これまで知られていないいくつかの文献も紹介し、フロイト(Freud, S.)のオイディプス・コンプレックスの理論、19世紀末から20世紀半ばにかけてのホスピタリズム研究とマターナル・デプリベーション理論、ボウルビィの経歴と1969年の『Attachment and Loss(アタッチメントと喪失)』第1巻の出版までを跡付けている。
第2章では、久保田がボウルビィのアタッチメント理論を、アタッチメントという絆のもつ意味、アタッチメントとアタッチメント行動、アタッチメント行動の発達について詳しく紹介した。そして、ボウルビィの共同研究者であったエインスワース(Ainsworth, M.D.S.)のストレンジ・シチュエーション法によるアタッチメントの型の評価法とアタッチメントの型の個人差について述べている。
第2章につづいて第3章では、久保田が、ボウルビィ、エインスワースの次の世代の研究者であるメイン(Main, M.)らによるアタッチメント理論のその後の発展を詳しく論じている。すなわち、成人アタッチメントインタビューとそれによる成人(母親)のアタッチメント表象の類型、臨床事例(虐待を受けた子ども)から明らかになったアタッチメントの型としての「無秩序・無方向型」、母親の外傷体験と混乱した養育行動、アタッチメントの再構築の場としての養育のあり方などについて、である。
第4章では、庄司が、わが国の社会的養護におけるホスピタリズム研究の動向と、社会的養護の分野においてアタッチメント理論がどのように受けとめられてきたかを論じている。
第5章では、アタッチメント障害の診断と治療について青木が詳しく論じている。アタッチメント障害についての関心は高いが、実は実証的研究はまだ少なく、わが国では青木が中心的な存在となっている。
第6章はアタッチメントとトラウマの関係を中心に奥山が詳しく検討をおこなっている。本章を読めば虐待を受けた子どもの心理の理解が深まるだろう。
第7章は、奥山がアタッチメント対象の喪失について論じている。わが国でも、また欧米でも、アタッチメント形成に関する研究は多いが、ボウルビィのアタッチメントに関する3巻本は、第2巻が「分離」、第3巻が「喪失」を扱っていたのに、分離や喪失に関する研究は少ない。最近の研究を踏まえた奥山の論考は意義深いものと考える。
第8章は、杉山と海野が発達障害とアタッチメント障害との関係について論じている。ここでは虐待を受けた子どもの心理行動上の特徴と発達障害の観点から検討されている。
(…後略…)
上記内容は本書刊行時のものです。