書店員向け情報 HELP
出版者情報
在庫ステータス
取引情報
世界の幼児教育・保育改革と学力
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2008年5月
- 書店発売日
- 2008年5月8日
- 登録日
- 2010年2月18日
- 最終更新日
- 2015年8月22日
紹介
EU各国・東アジア諸国では幼児教育改革は国家を挙げた課題となっているが、日本でも就学前教育の義務化論議や、学力低下論議を背景とした人材育成政策、少子化対策などの要請から改革の模索が始まっている。その特徴を明らかにし政策的提言も模索する。
目次
はじめに(汐見稔幸)
第1章 世界の幼児教育・保育改革最前線――問われる保育の質・動き出す公共政策(泉千勢)
第2章 欧米の幼児教育・保育改革――欧米の幼児教育・保育改革の構図(泉千勢)
フィンランド 保育・幼児教育・学校の連携――子どもの健康と幸福のために(橋睦子)
ドイツ PISAショックによる保育の学校化――「境界線」を越える試み(小玉亮子)
フランス 3歳以上すべての子どもの学校――幼小一貫のカリキュラム(赤星まゆみ)
イギリス 人的資源のクオリィティ・コントロール――実用主義と思考の最先端(埋橋玲子)
アメリカ 学力の底上げをめざすユニバーサルな政策へ(深堀聰子)
ニュージーランド 「テ・ファリキ」に基づきすすむ改革(鈴木佐喜子)
第3章 アジアの保育・幼児教育改革――アジアの保育・幼児教育改革の構図(一見真理子)
韓国 出発点の不平等と少子化のはざまで――子育ての社会化をめぐるジレンマ(相馬直子)
中国 全人民の資質を高める基礎「早期の教育」――競争力と公平性の確保(一見真理子)
台湾 過度な早期教育熱は改まるか?――教育偏重から「教育とケア」へ(翁麗芳)
シンガポール 「考える学校、学ぶ国家」――遊びをとおして学ぶ体験学習へ(大和洋子)
タイ 自国の文化をたいせつにし社会体験を重視する(高橋順子)
インド 「万人のための教育」を支え階級社会を変える(宮地敏子)
第4章 日本の幼児教育・保育改革のゆくえ――保育の質・専門性を問う知的教育(汐見稔幸)
あとがき(泉千勢)
前書きなど
はじめに世界に学び――日本の改革のゆくえを問う
子化と知的教育をめぐる各国の急速な動き
教育の世界――子どもを育てるということがテーマになっている世界――では、今、各国どこでも大きな改革が始まっている。
たとえば韓国。この国では、1980年代のはじめまでは出生率2以上をキープしていたが、20世紀の最後の10年くらいの時期から、急速な変化が生じている。周知のように出生率は1.1を割り込み(2005年 1.08)、台湾(2007年 1.08)と少子化「世界一」を争っている。反面、大学進学率はうなぎ上りで、同世代の80%が進学していて、国民総大学進学時代を迎えようとしている。国民の教育熱にはすさまじいものがあり、子どもを幼稚園に入れる親が急増しているだけでなく、幼児のための英語教室のような「早期教育」の広がりも尋常ではない。以前にはあまりなかった保育所も発達し、国は幼稚園の5歳児の保育料を無料にした。経済協力開発機構(OECD)の国際学力調査PISAでも、フィンランドなどとともに上位の成績を残している。
韓国に限らず、アジアで後発型の先進国入りをめざしている国々の中には、深刻な少子化に見舞われ、その対策として保育に力を入れ始めているところが多いが、親のほうには優秀児願望が強くて、知的教育面での幼稚園への期待が高く、早期教育の流行も著しい。中国は1つにくくれない複雑さをもっているが、北京や上海などの大都市の幼児教育・保育の世界で起こっていることは、こうした国々で起こっていることと基本的に変わらない。
他方で、ヨーロッパ諸国は、女性の労働力に期待をかけ、男女共同参画型社会を標榜しているところが多く、そのために生じる出産・育児の困難を社会政策で乗り切ろうとする動きが広がっている。そして、アジアを含んだ文字どおりグローバルな経済競争の渦のなかで21世紀の生き残りをかけて、人材育成のために国家政策として幼児教育に力を入れ、家庭だけに任せないで、子どもが幼いころから幼稚園等の施設の中で育てていく方向にシステムを切り換えようとしている。アメリカを含め、こうした国々が幼児教育・保育・家庭教育支援等にかけるお金は、今、急速に伸びていて、なお進行中である。たとえば、子どもの養育責任を家庭に求めてきた伝統の強いイギリスでも、サッチャー政権後の労働党政権以降は、保育所・幼稚園・学童保育への支援や貧困地帯への教育援助等の予算をうなぎ上りに増やしてきている。イギリスでも4歳以降の幼稚園(ナースリー・スクール)の保育料を無料にしたが(今後3歳から無料化する予定)、ヨーロッパではイタリアでもオランダでもベルギーでもポルトガルでもデンマークでも、幼児教育の保育料は全部か一部が無料になっている。
読者のみなさんには、本書の各章を、その国はいったい幼児教育や保育をどう充実させ、どのようにレベルアップさせようとしているのか、それはどう説明されているのか、ぜひ興味をもって読んでいただきたい。そこには国を超えた共通性とともに国ごとの発想の違いも浮かび出ていて、それ自体が比較文化論的な興味を満たすものになっている。
幼稚園教育要領と保育所保育指針の改訂(改定)を目前に、あえて、相対するかのように外国の動きに焦点をあてた本を出版するのは、今、世界的規模で起こっている幼児教育・保育の拡充と改革の内容と方向をぜひ知っていただき、日本の改革が向かうべき方向を考えるたいせつな準拠枠をともにつくることを願うからである。本書のタイトルに「学力」と付しているのは、世界の改革が、現実に広い意味での知的能力を育てることに強い関心をもってすすめられているという事情を反映させる意図による。
(…後略…)
上記内容は本書刊行時のものです。