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「移民国家日本」と多文化共生論
多文化都市・新宿の深層
- 出版社在庫情報
- 品切れ・重版未定
- 初版年月日
- 2008年5月
- 書店発売日
- 2008年5月22日
- 登録日
- 2010年2月18日
- 最終更新日
- 2015年8月22日
紹介
グローバルな人の移動は、世界の各地に「多文化都市」を誕生させた。本書では、日本社会のマルチカルチュラルな社会的位相を歴史的に捉え、人のライフステージの深層に埋め込まれた多文化共生の実態の明晰化を展開し「多文化共生論」の体系化をはかる。
目次
刊行の主旨(川村千鶴子)
第1部 多文化共生社会の胎動と歴史的展開
第1章 共に生きる街・新宿大久保地区の歴史的変遷(稲葉佳子)
第1節 江戸時代に形成された街の骨格
第2節 明治・大正・昭和初期の大久保
第2章 受け継がれていく新住民の街の遺伝子(稲葉佳子)
第1節 多様な流動層の街へ――戦後~一九七〇年代――
第2節 ニューカマーの出現――一九八〇年代――
第3節 共に生きる街ヘ――一九九〇年代以降――
おわりに
第3章 ディアスポラ接触――地域が日本を超えるとき(川村千鶴子)
はじめに
第1節 多文化都市・新宿の表層
第2節 ディアスポラ接触とは
第3節 多文化意識とトランスカルチュラリズム
おわりに
第4章 韓国人ニューカマーの定住化と課題(李承●:イ スンミン、●=王民)
はじめに
第1節 韓国人ニューカマーの移動と新宿
第2節 新宿大久保地区の変容
第3節 定住化するニューカマー
第4節 ニューカマー韓国人の定住とその課題
おわりに
第2部 ライフサイクルと多文化共生論
第5章 多文化な出産とトランスカルチュラルケア(藤原ゆかり)
はじめに
第1節 外国人の出産
第2節 トランスカルチュラル・ナーシング(Transcultural nursing)における視座
第3節 外国人への出産ケアの問題
第4節 臨床の現状
第5節 外国人へのこれからの出産ケア
おわりに
第6章 多文化子育て空間から創出される協働の世界――養育者の文化変容を中心に(李●◆:イ ホヒョン、●=土乎/◆=金玄)
はじめに
第1節 多文化子育て空間をめぐる諸様相
第2節 子育て空間を通しての多文化共生・協働の創出
おわりに
第7章 新宿区で学びマルティリンガルとなる子どもたち(藤田ラウンド幸世)
はじめに
第1節 新宿区の外国につながる子どもたち
第2節 新宿区から発信する日本語教育
第3節 新宿区の言語サービス
第4節 言語教育からみた多文化共生社会
おわりに
第8章 共に働く街・新宿――トランスカルチュラリズムの形成(渡辺幸倫)
はじめに
第1節 通信、電子機器販売業のOさんの話 韓国出身
第2節 美容業のKさんの話 台湾出身
第3節 薬局業のKさんの話 台湾出身
第4節 眼鏡販売業のCさんの話 韓国出身
第5節 国際通信業のKさんの話 中国出身
おわりに
第9章 共に老後を支えあう――在日外国人高齢者の現状と課題(李錦純:リ クンスン)
はじめに
第1節 在日外国人高齢者の人口動態
第2節 多文化共生関連施策・高齢者政策の現状と課題
第3節 「多文化の街・新宿」で暮らす在日コリアン高齢者
おわりに
第3部 トランスカルチュラリズム――地域が日本を超えるとき
第10章 ホームレス、社会的排除と社会的包摂――新宿区の温かさと冷たさ(麦倉哲)
第1節 Kさんの死
第2節 Kさんの末期の生活環境
第3節 ホームレスと大久保・百人町
第4節 新宿区の自立支援政策
第5節 排除を乗り越える可能性を見出せる新宿と停滞した現状
第6節 新宿の可能性 自立支援システムにおける市民との連携
第11章 無国籍者との共生(陳天璽:チェン ティエンシ)
はじめに
第1節 無国籍者とは
第2節 日本における無国籍者
第3節 無国籍児たちはいま
第4節 無国籍児の暮らし
おわりに
第12章 文化のハイブリッド性と多文化意識(河合優子)
はじめに
第1節 文化の多義性について
第2節 ハイブリッド性の両義性とは
第3節 多文化主義と多文化意識
おわりに
終章 問われる国の理念と多文化共生政策(川村千鶴子)
はじめに〈東京都新宿区区長・中山弘子氏との鼎談から〉
第1節 鼎談「新宿の表層と深層」
第2節 移民政策と多文化共生政策の課題
おわりに〈問われている国の姿勢と日本の移民政策〉
多文化共生年表 地域社会の多文化共生への動きと日本の外国人政策
索引
前書きなど
刊行の主旨(一部抜粋)
(…前略…)
本書の多文化共生論の特徴は、一つには〈具体的な場所〉をもって多文化共生の歴史的変遷を掘り起こし、多文化共生論の根拠を接触領域の歴史的文脈にそって実証的に解明している点、二つ目は、〈人間発達とライフサイクル〉に着目し、人間の生から死に至るまでのライフステージにそって多文化共生論を展開したこと。三つ目には、テーマの〈当事者〉である執筆者が自らの関与を織り込み、共生の内実と相互変容を平易な文章で読者に語りかけている点にある。
本書の射程は「新宿」という多文化・多言語の磁場にある。
新宿は、古くから多様な移住者を受容し「単一民族国家・日本」の幻想から早期に目覚めた街であり、多文化が多文化・多言語・多国籍を吸引する相乗効果を内包する多文化都市である。日本におけるマージナルな存在が新宿ではしばしば中心に位置していたり、新宿で起こる社会現象は、周辺地域に拡散され日本における先進性をもっている。
多文化都市の強みは、グローバリゼーションの正負の直撃をもろに受ける「試練の場」であることだ。移住者の流入は最先端の商品・思想・メディア・技術の流入を伴うが、時として職住一体・混住が引き起こす不協和音の喧騒の中、軋轢と葛藤の辛い経験、文化の多義性、人の多様性・流動性・重層性が織り成す矛盾や困難を先鋭的に引き受ける実験場でもある。特に九〇年代以降の混乱と不安は、多文化共生社会とは決してユートピアとして所与のものではないことを痛感させる。エスノセントリズムとの闘い、その厳しい実践の中で一人ひとりのアイデンティティを尊重しようとする多文化意識の形成プロセスを見出すことができる。
自己実現を目指した移住者は新宿を通過点として他の地域に拡散し、祖国に回路を形成した移住者は「新宿」を「第二の故郷」と述懐する。呼応するネットワーク状のまちづくりが始まり、日本に骨を埋めようとする定住者が増えた。
移民は次世代に何を遺していきたいのだろう。言語なのか、ライフスタイルか、技術や職業なのか、信仰心か、国籍なのか。それとも文化的差異と連続性に溢れる流動的なアイデンティティなのだろうか。何を継承するかは、個人に選択の自由がある。選択の自由は、日本人にとってもトランスナショナルなアイデンティティを保持できる点で居心地がいいものである。あえて付言するならば日本国籍の取得は個人の自由である。
本書の執筆者は、都市工学、人類学、社会学、教育学、言語学、看護学、助産学などの教師であり長期にわたる多文化共生の実践研究者でもある。既存の視座を拡大するとそれまで絶対視していたことが変化する。ナショナルな分析単位を前提とする知の枠組みを替えて新しい研究領域であるエスニシティ論、社会言語学、ディアスポラ学、カルチュラル・スタディーズ、異文化間コミュニケーション論、ケア学、ジェンダー論、ソーシャル・インクルージョン論、オーラル・ヒストリーなどの境界横断的な視座を越境しながら課題解決に向けて多文化共生のダイナミズムに挑んだ。執筆者は新宿の居住者、無国籍、在日三世、ニューカマーの起業家、国際結婚と子育て、助産師、介護士、ホームレス自立支援、NGOの当事者でありマイノリティの法的地位や人権擁護に光を当てながらトランスナショナルな地域の営みを浮き彫りにしている。当事者でなくては見えない深層を可視化し、親密圏におけるアクチュアリティを照らす多文化共生論を編み込んでいる点を読み取っていただければ幸いである。
(…後略…)
上記内容は本書刊行時のものです。