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Q&A モラル・ハラスメント
弁護士とカウンセラーが答える見えないDVとの決別
- 出版社在庫情報
- 品切れ・重版未定
- 初版年月日
- 2007年12月
- 書店発売日
- 2007年12月6日
- 登録日
- 2010年2月18日
- 最終更新日
- 2013年1月7日
紹介
熟年離婚と関連して話題のモラル・ハラスメントとは何か、どうして起こるのか、どうすれば解決できるのかなどについて、心と法のプロがそれぞれの立場からQ&A形式で答える。巻末に1300人対象のアンケート結果と詳細な相談連絡先、養育費算定表付。
目次
もくじ
はじめに 「モラル・ハラスメント」という言葉
第1章 モラハラって、何ですか?
Q1.モラル・ハラスメントって、何ですか?
Q2.モラル・ハラスメントは夫婦・カップル間だけの問題ですか?
Q3.夫婦・カップル間のモラハラは、具体的にどういうものですか?
Q4.誰でも人を傷つけることがあります。どこからどこまでがモラハラですか?
Q5.私はモラハラの被害者でしょうか? だとしても、私にも悪いところがあると思うのです。
Q6.モラハラの加害者って、どんな人ですか?
Q7.モラハラ加害者はなおらないのですか?
Q8.モラハラ家庭にはどんな問題が起こりますか?
Q9.モラハラ被害者はなぜ逃げないのですか?
Q10.身近にモラハラの被害者らしき人がいます。私に何かできることはありますか?
第2章 モラハラかもしれないと気づいたら?
Q11.配偶者にモラハラをやめさせるために、何をしたらいいですか?
Q12.カウンセリングや精神科に行くことで、モラハラ加害者は変わりますか?
●コラム 加害者カウンセリングの難しさ
Q13.子どもが生まれたら、モラハラはおさまりますか?
Q14.私の方がモラハラをしているのでは?と不安です。
Q15.不眠や無気力などの心身症状があります。精神科に行くべきですか?
Q16.モラハラ加害者に浮気や浪費をやめてほしいのです。どうすれば話し合いができますか?
Q17.カウンセリングって、何をするのですか? 活用法は?
Q18.カウンセラーに伺います。モラハラの原因は何ですか?
Q19.モラハラ加害者と同居する秘訣はありますか?
Q20.子どもには本当にいい親なのです。どうにかなりませんか?
Q21.どうしても配偶者を見捨てられません。私がおかしいのでしょうか?
第3章 これからすべきことは?
Q22.自分が被害を受けているとわかったら、具体的に何をすべきですか?
Q23.思い切って人に相談しましたが、わかってもらえません。
●コラム 私がモラハラ被害者同盟を作った理由
Q24.うつ病になってしまい働けない状態です。どうすれば?
Q25.実家もモラハラ家庭です。帰ってくるなと言われ、逃げ場がありません。
Q26.子どもが「離婚しないで」と言います。どうすれば?
Q27.家を出たいと言ったら、私や子どもを殺すだとか、自殺するなどと脅されました。どうすればいいでしょうか?
Q28.家を出るときに、お金や家財道具を持ち出しても大丈夫ですか?
Q29.家を出る日が迫っていますが、罪悪感でいっぱいです。
Q30.離婚を決意して家を出たものの、「やり直したい」「戻ってこい」などと言われて心が揺れています。自立の自信もなくなってきました。
第4章 モラハラを解決するために
Q31.話し合いができない相手と、どうやって離婚の話し合いをしたらいいですか?
Q32.調停とはどういうものですか? 弁護士をつけなくても大丈夫ですか?
Q33.弁護士って、何をする人ですか? どうやって見つけたらいいのですか?
●コラム 家事事件と弁護士
Q34.依頼した弁護士が、なんだか信頼できません。どうしたらいいでしょうか?
Q35.弁護士費用はどれくらいかかるものですか?
Q36.モラハラ被害を裁判所にどうやって説明したらいいですか? わかってもらえないのではないかと不安です。
●コラム 悪名高き「青い鳥」判決(1991年3月20日名古屋地方裁判所岡崎支部判決)
Q37.調停をずるずると引き延ばされていて、先が見えず辛いです。生活費も払ってもらえず、経済的にも苦しいです。
Q38.審判と裁判とはどう違うのですか? 手続きはどのように進んでいくのですか?
Q39.相手が頑として離婚に応じないために調停や裁判が長引き、もう何年も別居しているのですが、今、お互い真剣な気持ちで交際している人がいます。法的に問題はあるのでしょうか?
●コラム いわゆる「300日規定」問題
Q40.夫の方が地位も収入も上です。私は親権者になれないのではないかと不安でたまりません。
Q41.養育費を支払い続けてもらうためにはどうしたらよいですか?
Q42.子どもを連れて別居しています。今後、養育費もなにもいらないから、子どもを(元)夫に会わせたくありません。
Q43.どうしても相手を許せない思いでいっぱいです。慰謝料を取らないと気が済みません。
Q44.離婚するとき、相手名義の自宅や預貯金などの財産はどうなりますか? 私にも応分の権利がありますよね?
Q45.離婚しても精神的ダメージが大きく、なかなか立ち直れません。どうすれば?
Q46.二度とモラハラ被害に遭わないために、注意すべきことはありますか?
おわりに モラル・ハラスメントからみた離婚法の現状と課題
モラル・ハラスメント被害の実態に関するアンケート調査結果〈概要〉
資料
配偶者暴力相談支援センターおよびその役割を果たす機関一覧
各地の弁護士会が運営する法律相談センター一覧
養育費算定表(例)
前書きなど
はじめに 「モラル・ハラスメント」という言葉(熊谷早智子)
あるところに仕立屋の夫婦が暮らしていました。妻のほうは善良な働き者でしたが、亭主はとても愚痴っぽく、妻がどんなに献身的につとめても、少しも満足しませんでした。いつも妻に嫌味を言ったり怒鳴ったり、時には殴ったりもしていました。
見かねた村の役人は、亭主を改心させるため、牢屋へほうり込んでしまいました。
20日間、水とパンだけで過ごした亭主は、牢屋から出る時、誓いを立てさせられました。「これからは妻を殴ったりせず、当たり前の夫婦がそうするように、共に仲よく喜びと悲しみを分かち合う」と約束させられたのです。
それからしばらく、亭主はおとなしくしていました。しかし再び、妻に文句を言い、八つ当たりを始めました。ですが、今度は妻を殴りません。妻の髪をつかんで引きずり回そうとしました。
恐れた妻が庭へ逃げ出すと、亭主はアイロンやハサミを次々に投げつけました。それらが妻に当たると亭主は大喜びし、はずれると悔しがって大声でわめき立てました。
騒ぎに驚いた村人たちが役人を呼び、亭主は再び捕まりました。
「誓いを忘れたのか?」役人が聞きました。
「いいえ、覚えておりますよ。ですから、妻を殴っておりません。ただ、妻がおかしな髪をしていたから、直してやろうと思っただけです。なのに妻が私から逃げ、わざと当てつけのように窓から飛び降りたものですから、その後を追い、たまたま辺りにあったものを投げたのです。帰ってきて妻のつとめを果たすようにと、戒めただけなのです」亭主は答えました。
「しかし、夫婦で喜びと悲しみを分かち合うと誓ったであろう」役人が言うと、亭主は続けました。
「ええ、分かち合っておりますとも。なぜなら、妻に物が当たると私は喜び、妻は悲しみます。はずれると妻は喜びますが、私は悲しむのですから」これを聞いた役人はあきれ果て、亭主の話を最後まで聞かず、牢屋に戻してしまいましたとさ。
おしまい。―グリム童話「喜びと悲しみを分かちあう(Lieb und Leid teilen)」より
これは「グリム童話」のお話です。200年近く前にドイツで書かれたこの寓話とそっくり同じお話は、21世紀の日本でも日常的に起こっています。
あなたが暴力の被害者ならば、この童話を読み、自分のことを思い出して寒気がするでしょう。あなたが暴力の被害者でなければ、「こんなにひどい人が世の中にいるのかしら」「でも私には関係ない物語の世界だわ」ときっと思うことでしょう。
暴力を知っている人と知らない人の間には、それほどの温度差があります。
モラル・ハラスメント(モラハラ)もまったく同じです。
近頃、テレビや雑誌、新聞で何かと取り上げられている「モラハラ」とは、フランスの精神科医マリー=フランス・イルゴイエンヌによって提唱された概念です。言葉や態度で相手の人格を繰り返し執拗に傷つけ、その恐怖や苦痛によって相手を支配し、思い通りに操る暴力のことをモラハラといいます。
モラハラは「いじめ」「精神的虐待」「言葉の暴力」などと和訳されてきましたが、その実態は暴力による支配にほかなりません。
私はかつて、家庭内でのモラハラ被害者でした。
家庭でのモラハラ加害者は、配偶者(被害者)のやることなすことに文句を言ったり叱ったり、怒鳴ったり不機嫌になったり、全身に怒りをみなぎらせたり、長い間ひどい無視を続けたりします。深夜に何時間も延々と、人格すべてを否定する罵倒を続けます。物にあたることも、壁を殴ることもあります。経済制裁や、性的暴力も振るいます。しかし、殴ったり蹴ったりという身体的暴力は振るいません。
モラハラ加害者はまさに童話の亭主と同じく、「配偶者を殴らない」という誓いだけは守ってくれます。「殴ったら離婚だと決めていたし、相手にも伝えていた」と語るモラハラ被害者は多いものです。モラハラ加害者は、離婚という罰(社会的に知られてしまう制裁)を恐れているのでしょう。そのくせ、言葉や態度で被害者を脅し、威嚇し、怒鳴りつけ、これ以上相手を怒らせるとどんな怖い目にあわされるかわからないという恐怖を被害者に与え続けるのです。
私自身も、いつ、何がきっかけで夫の怒りを買うかわからず、いつも緊張し、おびえていました。その場の状況を素早く読みとり、相手が何を望んでいるかを察知し、速やかに望み通りのことを実行するようになりました。自分を恐怖のどん底に陥れるモラハラをされないよう、すべて夫のスケジュールや好みを優先させ、どんなことでもしてしまうようになっていたのです。
19年間、私は悩み続けました。
どんなに叱られないように注意しても、夫は次々と欠点をあげつらってきます。そのたびごとに自己嫌悪にさいなまれました。誰かに相談すれば、「男の人は外の仕事でストレスがたまっているから家で発散するのよ。あなたがちゃんと受け止めなさい」「夫に注意されないようもっと気をつけなさい」と言われ、私が夫の怒りのサンドバッグになることで夫の気が済むのならばとじっと耐え、注意されないよういつも気を遣っていました。DV(ドメスティック・バイオレンス=家庭内暴力)という言葉も、精神的DVという言葉も知っていましたが、自分に関係のある言葉だとはまったく気がつきませんでした。私にとってDVというのは別世界の出来事でしかなかったのです。この程度のことはどこの家でもあることだと、相談するすべての相手が口を揃えて言うので、私の家は普通の家庭だと信じ込んでいました。
ある時、些細な出来事をきっかけに、夫は私を1年間無視し続けました。もうどうしたらいいのかわからず悩み続けていたある日、私は「モラル・ハラスメント」という言葉に出会いました。私の頭の中にあった疑問のかけらが竜巻のように巻き上がり、パズルの所定の位置にピタリと納まりました。
私はモラハラをまったく知らない人に説明するときによく「ヤクザと一緒に暮らしていると思ってください」と言います。ヤクザは最初から入れ墨を見せて近づいたりはしません。まずは優しい友達を装って近づき、仲間になるとがらっと顔つきを変え、「金を持ってこい」「全部俺の言う通りにしろ」などと命じます。相手の落ち度を探し出し、落ち度がなければ捏造し、ターゲットを恐怖感でがんじがらめに縛りあげます。ヤクザと違う点は、モラハラ加害者には被害者をいじめているという意識がないことです。まるで童話の亭主のように「戒めている」「教育している」と思っていますので、自分のしていることは当然だと思っています。
実際に身体的暴力と精神的暴力の両方を受けていた被害者は、口を揃えて「精神的暴力の方が辛かった」と証言しています。しかし、身体に傷がないというだけで、モラハラの辛さはなかなか人にわかってもらえません。
モラハラ加害者は表の顔と裏の顔の二面性を持つことが多くあります。被害者がいくら説明しても「あんないい人がそこまで怒るなんて、あなた何か気にさわるようなことを言ったんじゃないの?」とか、「手のひらの上で転がすようにうまくおだててやればいいのよ。1歩も2歩も下がって相手の言うことに逆らわないようにしなきゃ」などと、むしろ上手にコミュニケーションがとれない被害者が悪いのだと言われたりします。外では穏和で紳士淑女の顔をしている人物が、家に入ったとたん仮面を脱ぎ、悪魔の本性で配偶者や子どもにモラハラをしているとは、外からは絶対にわかりません。
家庭という密室で日々行われる精神的虐待によって、配偶者や子どもの心は次第に病んでいきます。児童相談所へ不登校の子どもの相談に行ったら、「不登校の原因は(モラハラをする)親ですよ」「すぐに子どもを連れて離れなさい。二度と戻ってはいけません」と相談員から言われた人もいます。
離れるしかないと被害者が意を決しても、今度は世間から「わがままだ」「我慢が足りない」と言われたりします。世間の無理解に苦しみながらも、被害者が裁判所へ離婚調停を申し立てると、口のうまいモラハラ加害者は、この仕立屋のようにさももっともらしい嘘を並べ、非はむしろ被害者にあるかのように調停委員を丸め込みます。
高い社会的地位につき、あるいは魅力的な才能を持ち、他人には親切で優しく快活な人物が、家庭では一変して配偶者をいじめて喜んでいるような人物だと、どうしたらわかってもらえるのでしょうか。
その答えは「モラル・ハラスメント」という言葉にありました。
出口の見えないトンネルを彷徨っていた人たちに、「モラル・ハラスメント」という言葉は大きな光を与えました。
「あなたは悪くない」
「おかしいのは相手だよ」
「モラル・ハラスメント」はとても単純な答えを私たち被害者に運んできました。まるでノアの箱船に乗り合わせた人たちへ、鳩がそのくちばしにオリーブをくわえ、陸地はあるぞと救いのしるしを運んできたように。
あと10年20年早くこの言葉があったなら、なくならずに済んだ命もあったことでしょう。家庭という密室で配偶者から精神的暴力を振るわれ、周りの誰からも理解されず追い込まれ、自分が受けているのは「モラル・ハラスメント」というDVであることも知らずに自らの命を絶っていった多くの被害者たちに、この本を捧げます。
上記内容は本書刊行時のものです。