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揺らぐ性・変わる医療 ケアとセクシュアリティを読み直す
健康とジェンダー4
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2007年10月
- 書店発売日
- 2007年10月19日
- 登録日
- 2010年2月18日
- 最終更新日
- 2015年8月22日
紹介
医療におけるケア提供者の自律性の概念、患者の当事者性を確保するためのヴィジョン、現代のジェンダー秩序と不可分な異性愛主義を分析する方法論の模索など、ジェンダーの視点から「ケア」と「セクシュアリティ」を再構築するための示唆に富む論考を収録。
目次
序論 (根村直美)
1 「合意」および「自律性」に関する学問知の再検討
第1章 実践倫理学における「合意」の再検討
──<「現実の合意」の復権に向けて>(根村直美)
第2章 看護師の自律性と意思決定
──<主体と尊厳の観点から、ケア提供に関わる知の再構築に向けて>(朝倉京子)
2 医療における当事者性の現在
第3章 ジェンダーの揺らぎを扱う医療
──<「結果の引き受け」を支援するという視点について>(東優子)
第4章 知らないことは可能か
──<超音波検査における胎児の認知と告知>(菅野摂子)
3 運動とセクシュアリティ/ヘルスをめぐる戦略
第5章 ウーマンリブは性について何を主題化しているか(斉藤正美)
第6章 分野横断的アクティビズムの課題と可能性
──<HIV/エイズを事例に>(兵藤智佳)
4 ヘテロセクシュアリティ(異性愛)研究の深化をめざして
第7章 オタクの従属化と異性愛主義(田中俊之)
第8章 ヘテロセクシュアリティの社会構築論
──〈異性愛者〉の作られ方―(佐藤(佐久間)りか)
あとがき (根村直美)
前書きなど
あとがき
本書は、異なる専門分野・領域の者が集い、ジェンダー・パースペクティブ(ジェンダーの視点)を取り入れつつ、「健康」「セクシュアリティ」「身体」に関わる諸問題を考えることによって生まれたものである。そして、『健康とジェンダー』『ジェンダーで読む健康/セクシュアリティ―健康とジェンダー2』『健康/身体と交差するジェンダー―健康とジェンダー3』に続く、「健康とジェンダー」シリーズの最終巻として編まれたものである。
以下、本書の執筆者の、ジェンダー研究・ジェンダー論以外の専門分野・研究領域を示しておこう(五十音順)。
朝倉京子(看護学)
菅野摂子(社会学)
斉藤正美(社会学)
佐藤(佐久間)りか(社会学)
田中俊之(社会学)
根村直美(哲学・倫理学)
東優子(ソーシャル・ワーク学)
兵藤智佳(健康教育学)
本書では、第三弾までに浮かび上がった論点をより一層深める考察を行った。第一に、「健康」に関わる事柄についての意思決定のあり方を考察するアカデミズムの「知」において重要な役割を果たしている概念や枠組みをジェンダー・パースペクティブにより再検討しようという試みが行われた。その試みにより「ケア」の概念を再構築することの必要性が認識されたのではないかと思う。
また、シリーズ第二弾『ジェンダーで読む健康/セクシュアリティ―健康とジェンダー2』において新たに射程に入れたにもかかわらず、『健康/身体と交差するジェンダー―健康とジェンダー3』においては立ち入って考察することはできなかった「セクシュアリティ」に関わる問題についても考察を試みることができた。本書の考察では、「逸脱」として捉えられない「異性愛」を「語る」ための枠組みが十分に用意されていないという認識から出発し、マクロのレベルとミクロのレベルの両方においてそうした「異性愛」を語り分析するための方法論・枠組みが模索されたのであるが、その試みにより、「性的マジョリティ」のセクシュアリティ研究の糸口が多少なりとも見出せたのではないかと考えている。
さらに、本書では、「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する権利)」を前面に押し出していないにもかかわらず、結果的には「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」の保障に内包されるような状況を生み出している運動のダイナミズムに目を向けた。この試みは、「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」概念と運動が生み出している新たな現実とを結びつけていくものとなったのではないかと思う。
加えて、本書では、医療の領域での新たな動きに注目し、その動きのなかで患者の「当事者性」をより一層確保していく可能性について考察することを試みた。本シリーズでは医療における患者の「自己決定」「自己決定権」についての考察を一つの課題にしてきたが、本書のように、それぞれの領域の患者が置かれた具体的な状況のなかでその「当事者性」をより一層確保するためのヴィジョンや契機を探ることは、今後の「自己決定」「自己決定権」の考察の深化に資することになると考えている。
一方、本書内においては取り上げることができなかった課題、および、新たに直面することになった課題も少なからずある。本書は、異性愛者の「自己」の語りを引き出すという方法論を、性差別的な異性愛主義(ヘテロセクシズム)を解体させる契機を生み出しうるものとして提示したのであるが、その方法論に基づいて「生身の個人の経験」としてのセクシュアリティを取り上げた研究を行うことはできなかった。また、医療における「自己決定」「自己決定権」についても、引き続き考察が進められる必要があるであろう。しかしながら、本書を含め第四弾までの「健康とジェンダー」のシリーズは、上述したような本書での成果を含め、ジェンダー研究の進展、および、「健康」や「セクシュアリティ」をめぐる社会的実践に一定の貢献をすることができたのではないかと思っている。
上記内容は本書刊行時のものです。