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ろう文化の歴史と展望 パディ・ラッド(著) - 明石書店
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ろう文化の歴史と展望 ろうコミュニティの脱植民地化
原書: UNDERSTANDING DEAF CULTURE

発行:明石書店
A5判
772ページ
上製
定価 9,800円+税
ISBN
978-4-7503-2608-5
Cコード
C0036
一般 単行本 社会
出版社在庫情報
在庫あり
初版年月日
2007年8月
書店発売日
登録日
2015年8月22日
最終更新日
2015年8月22日
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紹介

言語としての手話を使う文化的・言語的マイノリティであるろう者という概念を、西欧・英国における聴者とろう者の歴史を辿りつつ、ポストコロニアリズムの枠組み、民族誌学の方法論を駆使しながら分析し、未来への提言を行う。ろう文化に関する必読書。

目次

日本語版に寄せて
謝辞/凡例/用語と略語の解説
序章
第1章 ろうコミュニティ
第2章 西欧文明におけるデフネスとデフフッド――新たな概念的枠組みの形成に向けて
第3章 二十世紀のディスコース
第4章 文化――定義と理論
第5章 ろう文化のディスコースと定義
第6章 ろうコミュニティの研究――サバルタン研究者の方法論
第7章 ろう文化のルーツ――寄宿制学校
第8章 ろう文化のルーツ――ろうクラブとろうサバルタン
第9章 サバルタンの反乱者たちとデフフッド――全国的な広がり
第10章 結論と含意
第11章 後記
推薦文献
付録1 慈善の植民地
付録2 ブルー・リボンのセレモニーの原稿
付録3 ろうの情報提供者に提示した最初の質問と論題の一覧
付録4 イギリスろう関係団体連絡会議加盟団体
監訳者あとがき
参考文献
事項索引
人名索引

前書きなど

監訳者あとがき
 本書は、Paddy Ladd, Understanding Deaf Culture: In Search of Deafhood, Multilingual Matters, 2003の全訳である。本書は、文化的/言語的マイノリティとしてのろう者、ろう文化についての旅行ガイドとも言える本であり、ろう文化について本格的に論じた本としては、すでに訳出されたPadden & HumphriesのDeaf in America(森壮也/森亜美訳『「ろう文化」案内』晶文社 二〇〇三年)と双璧をなす本と言えよう。またこれまで日本で紹介されてきたろう者やろう文化の動きは、主としてアメリカのものが中心であったが、本書が背景としているのは、欧州、中でもイギリスであり、日本のろう社会との比較で言えば、イギリスのろう社会との相似点がよく言われることを考えると、本書の意義は大きい。
 筆者のパディ・ラッド氏は生まれつきのろう者で、一九五二年ウィンザー(Windsor)生まれ、ウィンザーとファリンドン(Faringdon. ロンドンの西にあるスウィンドン近郊の村)で育ったという。一九七三年にイギリスのレディング大学(Reading University)で英文学の学士号、一九七八年ロンドン大学(University of London)でカルチュラル・スタディーズの修士号、また一九八〇年にレディング大学で言語学理論の修士号、さらに一九九八年にブリストル大学(Bristol University)でろう文化の研究で博士号を得ている。しかしラッド氏の経歴はこういったアカデミック分野のもののみに限らず、ろう文化にかかわるさまざまな活動に彩られている。大学卒業後の一九七〇年代には、イギリス・ロンドンのヒリンドン(Hillingdon)区でろうの子どもたちや青年、家族とともに働くソーシャル・ワーカーを経験し、一九八〇年代のはじめの一九八一年から八二年には、本書の中にも登場する「イギリスろう協会」(BDA)の主なメンバーとして、ロンドン事務所で働いた経験も持つ。またその後の八二年から八三年には、イギリスBBC放送のろう者が制作するろう者のための番組『シー・ヒア』(See Hear)で最初のろうの司会者を務めてイギリス手話(BSL)による解説・説明も担当している。この番組には、その後、八五年まで番組担当のリサーチャーおよびディレクターとしても関係していたとのことである。同じ頃にブリストル大学で「社会の中のろう者」「ろう者の歴史と文化」という講座の講師を担当、BDAのイギリス手話の調査も担当、一九八九年から九二年にはオープン大学(Open University. 通信教育中心の大学)で「ろう者学」(Deaf Studies)を担当。これは、学位を授与する世界最初の「ろう者学」の課程となったが、その担当教員中、唯一のろう者であったという。また一九八五年に「ロンドン・ろう・ビデオ・プロジェクト」を設立、ろう者に関する映像芸術と記録の世界にもパイオニアとして乗り出している。またギャローデット大学(Gallaudet University)に一九九二年から九三年まで、アメリカ人以外でただひとりPowrie V. Doctor Chairという一年間の「ろう者学」の講座にも招かれている。現在は、ブリストル大学のろう者学センターの主任講師を務めている。ラッド博士の活動は、二〇〇三年のイギリス政府における手話の認知にも大きな影響を与えたと言われている。そして、現在もなお、世界規模でろう文化に意識的なろう者のリーダーとして積極的な発言を日々発信し続けている。その著書およびろうにかかわる改革活動は国際的に注目を集め、一九九八年には、イギリスおよび世界におけるろうコミュニティの可能性を広げたことに対し、ろう者連合(Federation of Deaf People)より「ろう生涯業績賞」を授与されている。
 監訳者がそうした多才な筆者、パディ・ラッド氏に初めて会ったのは、一九八九年、アメリカのろう者のための四年制大学ギャローデット大学でI・K・ジョーダン・ジュニア(I. K. Jordan, Jr.)が初のろう者の学長となったのを記念しての「デフ・ウェイ」(Deaf Way)という国際的なイベントの場(本書二一ページ)であった。その当時、ラッド氏は圧倒的な拍手をもって迎え入れられ、氏の講演は、このイベントの全体講演の中で最も注目を浴びていたふたつの講演のひとつであった(もうひとつは、“Unlocking the Curriculum”という、ギャローデット大学の言語学や教育学の教員たちによる講演だった。これは、トータル・コミュニケーションと言われる音声言語を併用したろう児のための当時の教育へのアプローチへ疑問を投げかけ、バイリンガル・アプローチと呼ばれる手話を基本とした教育を提言するものであった)。同講演のタイトルは、“Deaf culture: Finding it and nurturing it”(「ろう文化――その発見と育成」)である。このイベントの名称、“Deaf Way”というのがそもそも「ろう文化」という意味であり、この言い方は米国でも古くからされていたが、これに“Deaf culture”と、“culture”の名前を与えたのが、この前年にハーヴァード大学出版会から出版されたDeaf in Americaであり、この時、アメリカのろう社会は、この“culture”=「文化」という言葉が広まる、ちょうどその時期に当たっていたことになる。こうした欧米での動きは日本にも影響を与え、「ろう文化宣言」に代表される文化的―言語的マイノリティとしてのろう者の認知を求めるグループの運動が一九九〇年代に日本各地でも生まれている。
 本書は、こうした文化的集団、また言語的集団としてのろう者の姿をソクラテス以来、西欧文化の五〇〇〇年の歴史の中に位置づけようとした著作であり、同氏の博士論文を基にした作品である。イギリスにおいては、新しいところでは、故ダイアナ妃がイギリス手話をよくし、ろう者の間でも人気が高かったことが知られているが、少しさかのぼるとヴィクトリア女王が聴覚に障害があったと言われ、召使いと手話で会話をしている絵が残されている。そうした手話やろう者にかかわる古今の記録から、埋もれていたろう者の誇るべき歴史を掘り起こし、医療やリハビリテーションの対象となる「劣った」「治療されるべき」存在としての「聴覚障害者」(deaf)から、本書でも太文字で記されているろう者、つまり英語で大文字で始まる“Deaf”、文化的―言語的集団としてのろう者への変遷を描き出している。またその過程で、ラッド博士は、従来耳が聞こえないことを意味する名詞として英語で使われていた“deafness”(耳が聞こえないこと)がこの小文字の“deaf”に対応するものでしかなかったことの意味を深く考察することにより、それに対立する大文字の“Deaf”に対応する概念として、“Deafhood”(ろうであること)という概念を提唱している。これはすなわち、“deafness”にからめとられることで力を奪われ、障害学でいうところの“disablement”(無力化)に追い込まれていたろう者の復活、本書では「ルネッサンス」と訳出された“Resurgence”をろう者にもたらす概念でもある。“Deafhood”は、ろう者のネガティブなイメージからの脱却を目指す、“Deafness”と対をなす言い方として、世界の各地で広まりつつある言葉である。
 本書では、その“Deafhood”への道程もさることながら、筆者一流の筆遣い、また歴史分析からカルチュラル・スタディーズ、ポストコロニアリズムの議論、またサバルタンの議論など、その議論の地平は非常に広いものがある。特にサバルタンの議論に際しては、従来のインドのサバルタン研究グループ、それへの批判の議論等を受けつつ、ろう者という先進諸国社会の中でも抑圧されてきた集団からの発言者の出現の必要性といった、未来に向けての問題提起もしている。そこで筆者は、自らをサバルタン研究者、あるいは、本書で用いられている区別に従えばフランス語でシュバルテルン・エリット(subaltern elite)と称し、ろう者である専門職者を「ろうの草の根の人たち」と区別するもうひとつの発言者として提起することでもあった。ろうクラブというろう者の世界にろう宣教団がどうコロニアルな侵略を巧妙にしてきたのかを第三世界でのコロニアリズム、ポストコロニアリズムの枠組みを借りて分析している。ろう者の世界に起きたことが、世界各地のいわゆる第三世界で起きたことといかに重なり合うものを持っていたのかをここでの議論は明らかにしてくれる。宣教=“mission”がかつて行ったキリスト教宣教という大いなるパターナリズムは、ろう者の世界でもやはり同じようなプロセスを繰り返していたのである。そうしたプロセスを提示し、聴者マジョリティが占める世界の中で見えにくくなっているろう者の世界に再び日の目を見させる存在として、このシュバルテルン・エリットが登場してくる。ラッド博士をはじめとする「ろう知識人」「ろう研究者」をシュバルテルン・エリットとして積極的に位置づけ、従来とは異なるろう者の新しい運動、ろう文化やろう者の歴史に意識的なリーダーによって担われる運動の姿をも予期させてくれる展開がされている。
 なお、本書については、ドイツ語版が現在翻訳中であるほか、イギリス手話ヴァージョンも今、用意されるべく準備が進められていると聞いている。文字言語による外国語への訳としては、本書が最初のものとなったが、ラッド博士の意欲的な試みは、文字言語のみならず、同氏がろう者の言語として最も大事に思っている手話言語にまで広げられていることに改めて敬意を表したい。なお、翻訳は、プロの翻訳家である長尾絵衣子さん、古谷和仁さん、増田恵里子さん、柳沢圭子さんに下訳をして頂き、森が監訳者としてすべての訳文に目を通して修正を入れる形で行った。ラッド博士には、原文を読んだだけでは分からなかった箇所など、数度の問い合わせにも快く解説をして頂いた。これを踏まえて、訳はラッド博士の言わんとするところを分かりやすく伝えるべく、用語の統一、枠組み、議論の理解などにできるだけ注意しながら進めたつもりであるが、監訳者の非力のため、十全とは言い難い。読者諸兄諸姉のご叱責をお願いしたい。

森 壮也

著者プロフィール

パディ・ラッド  (ラッド,パディ)  (

ブリストル大学ろう者学センターの主任講師および科学修士コーディネーター。(監訳者あとがきにて詳細)

森 壮也  (モリ ソウヤ)  (監訳

1962年生まれ。早稲田大学政治経済学部経済学科、同大学院経済学研究科修了。日本貿易振興機構アジア経済研究所新領域研究センター貧困削減・社会開発研究グループ・グループ長代理兼開発スクール教授・主任研究員。横浜国立大学、横浜市立大学非常勤講師、東京大学先端科学技術研究センター特任研究員を歴任。日本手話学会会長。障害学会理事。著書に『障害学への招待』(明石書店・共著)、『ろう文化』(青土社・共著)、訳書に『「ろう文化」案内』(晶文社・共訳)など。

長尾 絵衣子  (ナガオ エイコ)  (

1969年生まれ。上智大学外国語学部英語学科卒業。翻訳業、ノンフィクション・映像などの分野。訳書に『アフガニスタンの歴史』『テロの帝国アメリカ』『アメリカ女性のシングルライフ』(明石書店・共訳)など。

古谷 和仁  (フルヤ カズヒト)  (

1965年生まれ。東京大学工学部建築学科卒業、同大学院工学系研究科建築学専攻博士課程単位取得退学。主に時事英語関連の雑誌翻訳に携わる。訳書に『現代朝鮮の歴史』(明石書店・翻訳協力)、『北朝鮮とアメリカ 確執の半世紀』『アメリカの対日占領政策とその影響』(明石書店・共訳)、『TIME 21世紀大予測』(アルク・翻訳協力)。

増田 恵里子  (マスダ エリコ)  (

1961年生まれ。静岡大学人文学部およびオレゴン大学経営学部卒業。ビジネス文書、雑誌記事などの翻訳に携わる。訳書に『21世紀もアメリカの世紀か?』(明石書店)、『表現の自由と検閲を知るための事典』(明石書店・共訳)など。

柳沢 圭子  (ヤナギサワ ケイコ)  (

1970年生まれ。上智大学外国語学部英語学科卒業。翻訳業、ノンフィクション。訳書に『アフガニスタンの歴史』『テロの帝国アメリカ』『アメリカ女性のシングルライフ』(明石書店・共訳)、『きこえの障がいってなあに?』『自殺で遺された人たちのサポートガイド』(明石書店)、『図説ウィリアム・シェイクスピア』(大英博物館・ミュージアム図書共同出版・共訳)など。

上記内容は本書刊行時のものです。