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患者の権利オンブズマン勧告集
苦情から学ぶ医療・福祉を目指して
- 出版社在庫情報
- 品切れ・重版未定
- 初版年月日
- 2007年8月
- 書店発売日
- 2007年8月29日
- 登録日
- 2010年2月18日
- 最終更新日
- 2012年2月27日
紹介
日本の医療現場における権利侵害・医療過誤事例の調査・勧告に取り組む患者の権利オンブズマン全国連絡委員会が、1999年から2007年までに出した患者の苦情事案の全調査報告書を一冊にまとめた。医療関係者、患者、法律家・支援者必携の貴重な資料。
目次
序 文
ケース1 脳外科〈1998年11月手術〉
脳の外科手術後に人体実験されたという訴え
ケース2 内 科〈1999年4月脱毛開始〉
突然始まった脱毛につき薬の副作用ではないかとの訴えを否定し、その後、原因究明を依頼した医療機関からの連絡で患者に知らせないまま処方を変更
ケース3 精神科〈1999年8月退院〉
患者の意思に反し退院時に秘かに変更された薬の処方
ケース4 心療内科〈2000年11月モニター監視〉
患者の同意なく病室のモニター・カメラを作動させ、その後のカルテ開示請求も拒否
ケース5 産婦人科〈2001年3月初診〉
産婦人科の初診で侮辱的診療行為をされたとの訴え
ケース6 外 科〈1997年11月手術、2002年4月苦情発生〉
癌の摘出術後の病理検査の結果を知らされなかったことの不審
ケース7 内 科〈1999年6月死亡、2003年4月遺族がカルテ開示請求〉
入院中に死亡した母親の診療記録につき遺族が行った開示請求を病院の内規の定めを理由に拒否された
ケース8 脳外科〈2003年5月手術〉
脳動脈瘤の手術により障害が発生したが事前説明がなかったとの訴え
ケース9 産婦人科〈2003年7月出産〉
出生後、医院側の観察や病状への対処が不十分だったため子どもに重度の発達運動障害を後遺したとの訴え
ケース10 精神科〈2003年8月医療保護入院〉
母親の付き添いで訪問した精神科病院に強制入院させられ、その後、姉の同意書が作成されたという訴え
ケース11 内 科〈2004年3月死亡〉
夫の死因や治療経過等の不審点について病院側と何度も協議したが解明されないという訴え
ケース12 内 科〈2004年8月死亡〉
保険適用のない癌治療であるLAK療法が、説明も同意もないまま混合診療で実施されたという訴え
ケース13 脳外科〈2004年9月死亡〉
脳腫瘍摘出手術を受け退院後に再発し、再手術・放射線治療を受けたが、再手術後短期間で死亡したため、その事前説明の内容や手術の必要性等に不審があるとの訴え
ケース14 病院内科・院外薬局〈2006年1月凍結製剤返却〉
病院の処方で院外薬局から投薬を受けたインスリン製剤に不具合があり、その後、製造業者の検査で凍結が判明したが、病院医師と院外薬局双方の対応に不信を抱いた
ケース15 内科・泌尿器科〈2006年9月副腎摘出〉
腹腔鏡下副腎摘除術で摘出した副腎に特段の病変が見られず、手術の緊急性や手術に際しての説明に不審を抱いた
歴代オンブズマン会議メンバーの紹介
全国の患者の権利オンブズマン組織紹介
前書きなど
序 文
患者の権利オンブズマンは、「患者の権利宣言案」(1984年10月発表)、「患者の権利法案」(1991年7月発表)等、我が国における患者の権利運動の流れを継承しながら、世界保健機関(WHO)ヨーロッパ会議(1994年3月開催)が採択した「患者の権利促進宣言」において提唱されている医療福祉分野における裁判外苦情手続(Complaints Procedures)を日本に導入するとともに、自ら苦情手続を促進する第三者機関の一つとして活動することを目的に掲げ、特定非営利活動(NPO)法人として誕生した(1999年7月活動開始、事務局は福岡)。
その後、活動は全国化し現在は九州(NPO法人患者の権利オンブズマン、相談拠点は福岡と大分)、関東(患者の権利オンブズマン東京、相談拠点は東京と横浜)、関西(患者の権利オンブズマン関西、相談拠点は神戸、大阪、京都)に独立した組織を結成するとともに、全国規模の患者団体、医療団体、医療労働組合、医療問題研究機関などの代表も参加している「患者の権利オンブズマン全国連絡委員会」として全国的なネットワークを形成して活動を交流している。
本書は、1999年7月から2007年6月までの8年間に全国のオンブズマン組織が調査・点検・勧告事業として実施した15件(NPO法人12件、東京2件、関西1件)の調査にもとづき公表された全ての調査報告書を収録したものである。
患者の権利オンブズマンにおける苦情調査は患者・家族の申立にもとづいて実施されるが、調査に当たるオンブズマン会議(メンバー数はNPO法人が15名、東京と関西は各10名程度)は日常的に相談支援活動を担当している相談員とは別のボランティアにより構成されており、第三者的立場にたって、申立人からだけでなく相手方病院からも事情聴取をした上で、その苦情の当否や権利侵害の有無等を検討し、患者の権利に関する内外の規範等にもとづいて全員一致で調査報告書をまとめ公表しているところに最大の特徴がある。
調査の結果、権利侵害が認定される場合には、それを是正し改善するための具体的な勧告を行うことを原則としているのも、苦情から学んで医療福祉サービスの質を向上させるという裁判外苦情手続の趣旨にもとづくものである。
調査の対象になったケースの診療科別件数は、内科(6件)、脳外科(3件)、産婦人科(2件)、精神科(2件)、心療内科(1件)、外科(1件)、泌尿器科(1件)、院外薬局(1件)と多岐にわたっている。患者の権利との関わりではインフォームド・コンセント原則に関わるケースが最も多いが、患者のプライバシーや尊厳に関わるもの、術後や分娩後の結果説明における情報提供のあり方を問うもの、カルテ開示に関するもの、医薬品の副作用や安全性など患者の安全に関わるもの、苦情対応システムに関するものなど、いずれも患者の基本的な権利に関わるものであり、かつ、当該医療機関のみならず、多くの医療現場における実情と当面する課題を如実に反映したケースばかりである。
重要なことは15件の調査の結果、ほとんどのケースで患者の権利侵害の事実が認定されていることである。調査の対象となった医療機関が特に問題を抱えているところであったというわけではない。調査報告書を一読されればおわかりいただけるように、むしろ調査対象となった医療機関は大学病院を始め地域において基幹的役割を果たしている医療機関がほとんどであり、患者・家族から高い医療水準を期待されているところばかりである。
しかも苦情の相手方となった医療従事者においては、従前同様の行為をしているだけで特段悪気があってやったことではなく、もとより患者の権利を侵害しているという意識も存在していない場合がほとんどであるから、事態は一層深刻だと言わねばなるまい。
「患者中心の医療」が唱えられ始めてから相当の期間が経過したが、これをスローガンだけにすることなく、呼称をすわりの悪い「患者様」という丁寧語を使うことでお茶を濁すのでもなく、本質的な意味で患者の人格と尊厳を尊重し、患者を治療上の意思決定を行う主体とする医療の構築に向けて、今こそ大きく舵を切ることが求められているように思われる。だからこそ、この勧告集を患者や市民、医療機関の苦情対応担当者だけでなく、全ての医療従事者、医療福祉サービスの専門家の道を志す人々の必読書にしていただきたいと思う。
本書を刊行するにあたり、オンブズマン会議のメンバーとして調査を担当されたボランティアの皆さんのご苦労に感謝するとともに、調査を申し立て「苦情から学ぶ」機会を与えていただいた患者・家族の方々、誠実に調査に対応していただいた医療機関・医療従事者の方々に、心からお礼を申し上げたい。私は、本書が必ずや日本医療の変革と前進の糧となることを確信している。
2007(平成19)年8月
患者の権利オンブズマン全国連絡委員会代表
NPO法人 患者の権利オンブズマン理事長
弁護士 池永 満
上記内容は本書刊行時のものです。