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コーカサスを知るための60章 北川 誠一(編著) - 明石書店
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コーカサスを知るための60章 (コーカサスヲシルタメノ60ショウ)

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発行:明石書店
四六判
344ページ
並製
定価 2,000円+税
ISBN
978-4-7503-2301-5   COPY
ISBN 13
9784750323015   COPY
ISBN 10h
4-7503-2301-2   COPY
ISBN 10
4750323012   COPY
出版者記号
7503   COPY
Cコード
C0336  
0:一般 3:全集・双書 36:社会
出版社在庫情報
在庫あり
初版年月日
2006年4月
書店発売日
登録日
2010年2月18日
最終更新日
2015年8月22日
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紹介

神秘に包まれる古代,大国に翻弄された近代,混乱する現代政治。紛争の火種ともなった多様な民族,魅力あふれる文化,そして黒海などスポーツ選手をはじめとする日本とのつながりを紹介する日本で初めてのコーカサス地域の概説入門書。

目次

はじめに
1 コーカサス世界
 第1章 コーカサスは世界を内蔵する――プロメテウスの岩からノアの方舟まで
 第2章 栽培植物起源地としてのコーカサス――自然地理
 第3章 「火の国」の諸相――アゼルバイジャン地理概要
 第4章 「中東のスイス」化計画――アルメニア地理概要
 第5章 ユーラシア最古の人類の里――グルジア地理概要
 第6章 諸民族の山――北コーカサス地理概要
 第7章 言語の万華鏡――コーカサスの諸言語
 第8章 温泉と風とバラ色の街――南コーカサスの三都物語
 第9章 神と権力者と――宗教生活
2 歴 史
 第10章 神話世界の中のコーカサス――豊潤な古代史と彷徨する民族の歴史
 第11章 コーカサスという磁場――大国と世界宗教の狭間で
 第12章 二つの太陽に灼かれて――コーカサス中世王国の興亡
 第13章 コーカサスのパクス・モンゴリカ――13、14世紀交通案内
 第14章 新たな帝国時代――イラン、トルコ、ロシアによるコーカサス分割
 第15章 マイノリティ・エリートの世紀――アルメニア商人とマムルーク軍人
 第16章 草原の民と山岳の民が織りなす歴史――北コーカサスの歴史時代
 第17章 アジアからヨーロッパへ?――ロシアのコーカサス支配
 第18章 蜂起と鎮圧の連鎖か、共生への模索か――ロシアの北コーカサス進出と山岳諸民族
 第19章 コーカサスの1905年――農民運動・ゼネスト・民族紛争
 第20章 つかの間の独立――第一次大戦とコーカサス三国の成立
 第21章 「新しい社会」の誕生――コーカサスとソヴィエト政権
 第22章 故郷剥奪と流浪――スターリン期の民族強制移住
 第23章 ソ連邦の地方か独立王国か――第二次大戦後のコーカサス
 第24章 ペレストロイカからカタストロイカへ――民族紛争に揺れるコーカサス
3 政治と経済
 第25章 アリエフ・ダイナスティの道程――アゼルバイジャンの現代政治
 第26章 「外国人」の大統領――アルメニアの現代政治
 第27章 一人勝ちの危さ――グルジアの現代政治
 第28章 民族の坩堝で保たれる不安な安定――北コーカサスの現代政治
 第29章 国際政治の荒波のなかで――9・11事件の衝撃と地域情勢の変化
 第30章 「対テロ戦争」での米ロ均衡と軍事態勢の模索――安全保障
 第31章 紛争解決の枠組み――ナゴルノ・カラバフとアブハジア
 第32章 知られざる紛争の真実――チェチェン紛争に見るナショナリズムとイスラーム主義
 第33章 貿易・投資を軸に進む経済復興――コーカサス経済展望
 第34章 復活する家族経営――経済体制移行の緩衝材としての農業
 第35章 カスピ海石油開発とパイプライン――ロシアルート v.s. 非ロシアルート
4 文 化
 第36章 言語文化の豊かな世界――コーカサスの口承文芸
 第37章 諸民族共通の遺産――コーカサスの伝統文学
 第38章 ビザンティン帝国の東方に咲いた華――アルメニア、グルジアの中世美術
 第39章 山岳民族の知恵と美意識――ダゲスタンの伝統工芸
 第40章 辺境のキリスト教建築――コーカサス南部の建築文化
 第41章 山々にこだまする男声合唱の響き――コーカサスの多声音楽
 第42章 モダニズムと民族文化の覚醒――アゼルバイジャンの国民文学
 第43章 時代を生き抜いた文芸作品――アルメニアの国民文学
 第44章 客人歓待のロマンティシズム――グルジアの国民文学
 第45章 伝統と政治のはざまで――北コーカサスの国民文学
 第46章 政治という舞台の上で――社会主義とグルジア演劇
 第47章 もうひとつの美術史――コーカサスの近現代美術
 第48章 西洋との接触から生まれたコーカサスの国民音楽――帝政ロシアの民族音楽
 第49章 舞台舞踊としての表象――コーカサスの舞踊
 第50章 ソヴィエト映画に刺激を与えた“周縁”の力――コーカサスの映画
5 社会と生活
 第51章 コーカサスの長寿食文化――生活習慣病を予防する日常食
 第52章 人づくりの多様なベクトルが錯綜するアリーナ――グローバル化のもとでの教育改革
 第53章 格闘技王国コーカサス――スポーツ
 第54章 見果てぬ夢――少数民族の独立運動と避難所としての南コーカサス
 第55章 アララトへの道――アルメニア人の在外コミュニティ
 第56章 バクー油田開発物語――石油王達の群像
 第57章 兄弟の歌――コーカサス系トルコ国民の音楽・舞踊活動
 第58章 ロシア南部の火薬庫が拡大――北オセチア・ベスランの悲劇
 第59章 ロシアから見たコーカサス――文学における最も身近な「他者」
 第60章 コーカサスと日本――広がる相互理解
【コラム1】感傷的少数派――シリア地方のチェルケス系移民
【コラム2】南コーカサスの大衆音楽
【コラム3】ジョルジュ・デュメジル――トルコ共和国でのコーカサスとの出会い
【コラム4】ミホおじいさんのこと――コーカサス山岳民の生きる現代史
主要参考文献

前書きなど

はじめに
 本書を手にする読者諸氏は、コーカサスといわれて何を思い浮かべるであろうか。格闘技の強い地域、ワインやヨーグルトの名産地、美人が多い場所、スターリンの出身地、少し詳しい人なら、カスピ海の石油、作曲家ハチャトゥリヤンに代表される高い文化性や独特な民族舞踏などを思いつくかもしれない。しかし、こうしたイメージでさえ、ソ連期には日本でほとんど抱かれることはなかった。コーカサスは、わが国ではまさに一部の人のみに知られた秘境中の秘境だったのである。
 コーカサスと日本が接近したのは、ソ連末期のペレストロイカ時代である。ソ連の閉塞的な空気を打ち破る鮮烈なパラジャーノフの映画や、素朴なピロスマニの絵画などが日本に紹介された。日本からは歌舞伎役者を中心とする親善団が現地を訪問し、約二〇年を経た現在でも現地ではこのときの公演を記憶している人は少なくない。本書の編者の一人は、同じ頃、現地に長期滞在する機会を得た。これに対して、当時十代であった残りの編者三名がそれぞれコーカサスと直接出会ったのは、さらに後のことである。しかし、自由を求める現地の人々の熱情が噴出したソヴィエト末期のコーカサスの雰囲気は、多かれ少なかれ、編者の人生の選択に等しく影響を及ぼしている。
 ところが、こうしてソヴィエト体制の変革を先導したコーカサスの人々は、その最大の負の遺産を背負うことにもなった。一九八七年に火がついた民族紛争の燎火は瞬く間にコーカサス全土に広がり、民族和解へ向けた努力は今日まで実を結んでいない。さらに、多くの人命を奪った戦争の後には破局的な経済危機が待ち構えていた。この苦しみは現在まで癒されることなく続いている。
 ただし、ここで指摘しておきたいことは、ソヴィエトという時代も体制も、コーカサスの長い歴史から見ればきわめて短い期間に過ぎなかったということである。もちろん、ソ連時代に刻印された政治・社会・文化的特徴をわれわれはこの地域に等しく観察することが出来る。しかし、古くからの文明の十字路に位置したコーカサスの人々は、独特の多民族社会と、屈強かつ優雅な文化力を長い歴史を通して育んできた。こうしたコーカサスの人々の魅力あふれる姿を、できる限り忠実に伝えること、それが本書の使命である。
 コーカサスの最大の魅力は、その多様性と包容力にこそ存在する。本書の冒頭でも触れるように、コーカサスの人々の活動は、この狭い地域に留まるものではなかった。ひるがえって、この小さな領域の中にも驚くほど多様性をもった文化が共存している。本書では、できる限り多くのトピックを、様々な角度から取り上げるよう最大限の注意を払ったつもりである。
 これまで、コーカサス全般についての概説書が邦文で刊行されたことはなかった。しかし、世界史でも政治学でも、コーカサスについての記述が抜け落ちているのは、日本だけの現象ではない。世界がコーカサスの魅力に気づき始めたのも、ごく最近のことである。したがって、各執筆者は、できうる限り自らの足で現地の情報をすくい上げようとしている。言い換えれば、本書の内容は、どれも現時点での世界最先端のコーカサス情報である。本書によって読者諸氏がコーカサスの魅力に触れ、さらに知的関心を深めるきっかけとなれば望外の喜びである。

編者一同

著者プロフィール

北川 誠一  (キタガワ セイイチ)  (編著

1947年生まれ。東北大学大学院国際文化研究科教授。東洋史専攻。
【主な論文・著書】
『世界の歴史9 大モンゴルの時代』(共著)、中央公論社、1997年。
「カフカースの民族」岡崎正孝編『中東世界──国際政治と民族問題』、世界思想社、1992年。
『ザカフカースの民族問題と歴史記述』弘前大学、1998年。

前田 弘毅  (マエダ ヒロタケ)  (編著

1971年生まれ。北海道大学スラブ研究センター講師。コーカサス研究、イラン・グルジア史専攻。
【主な論文・著書】
“On the Ethno-Social Background of the Four Gholam Families from Georgia in Safavid Iran”, Studia Iranica, Tome 32 (2003)
「グルジア「バラ革命」:元祖民主革命が成就するまで」『国際問題』544号、2005年、55-62頁。

廣瀬 陽子  (ヒロセ ヨウコ)  (編著

1972年生まれ。東京外国語大学大学院地域文化研究科講師。国際政治専攻。
【主な論文・著書】
『旧ソ連地域と紛争──石油・民族・テロをめぐる地政学』慶應義塾大学出版会、2005年。
「未承認国家と地域の安定化の課題:ナゴルノ・カラバフ紛争を事例に」国際法学会『国際法外交雑誌』第104巻第2号、2005年、13-41頁。

吉村 貴之  (ヨシムラ タカユキ)  (編著

1969年生まれ。東京外国語大学非常勤講師、東京大学大学院総合文化研究科産学官連携研究員。アルメニア近現代史専攻。
【主な論文・著書】
「アルメニア民族政党とソヴィエト・アルメニア(1920-1923年)」『日本中東学会年報』21-1号、173-190頁。
「ナルバンディアンの旅──19世紀後半のアルメニア民族運動におけるアルメニア人在外コミュニティの役割」『ロシア史研究』67号、2000年、45-60頁。

上記内容は本書刊行時のものです。