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帝国化するメジャーリーグ 谷口 輝世子(著) - 明石書店
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帝国化するメジャーリーグ 増加する外国人選手とMLBの市場拡大戦略

発行:明石書店
四六判
240ページ
上製
定価 2,000円+税
ISBN
978-4-7503-1947-6
Cコード
C0075
一般 単行本 体育・スポーツ
出版社在庫情報
品切れ・重版未定
初版年月日
2004年8月
書店発売日
登録日
2010年6月28日
最終更新日
2010年6月28日
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紹介

よりハイレベルの戦いの場を目指す日本人選手,貧困からの脱出を夢見るラテンアメリカの若き選手。メジャーの28%を占める外国人選手の実像と,世界の野球市場を支配しようとするMLBの戦略を,豊富な現地取材を通して明らかにする野球ファン必読の書。

目次

はじめに

第1章  メジャーリーグの今
 外国人選手の増加
 外国人選手はなぜ増えるのか
 外国人はいつからメジャーリーグでプレーできるようになったのか
 働く場所を外国人選手に奪われた米国人選手たち
 ビザ
 ラテンアメリカにおける問題
 メジャーリーグからの二重の脅威:日本における問題
第2章 メジャーリーグ市場の海外への拡大
 メジャーリーグの外国への営業拡大戦略
 外国で試合を開催するメジャーリーグ
 メディアを利用して収入を得て、ファンをつかむ
 メジャーリーグ承認商品の販売戦略
 ヨーロッパへの進出
 野球“布教”という社会貢献と、市場拡大戦略
 外国にメジャーリーグ球団は誕生するか
 ワールドワイドドラフト
 ヤンキースとマイノリティ選手:ヤンキースが松井を獲得した歴史
第3章  諸外国はメジャーリーグとどのようにかかわってきたのか
 メジャーリーグに選手を送り込んできた諸外国はどのように米国野球とかかわってきたのか
 各国の反応
 キューバ
 メキシコ
 ドミニカ共和国
 プエルトリコ
 ベネズエラ
 カナダ
 オーストラリア
 韓国
第4章  ファンは外国人をどのように受け入れているのか
 人種差別の時代
 マグワイアとソーサ
 選手以外の外国人はどのように扱われているのか
 “外国人オーナー”の出現
 マイノリティオーナーの誕生
第5章  メジャーリーグはいかにして国内をまとめてきたか
 メジャーリーグはいかにしてマイナーリーグをまとめたか
 最初の“マイナーリーグ”
 ニグロリーグの衰退
 米国チームvs世界チーム戦の提案

おわりに
参考文献
略年表・資料

前書きなど

 新しい世界を目指して飛び出していく選手たち。現在の地位も、築いてきた実績も惜しまずに、自らの力の限界に挑もうとして、より険しい場所に行こうとする。人並みより桁外れの身体能力を持ってプレーする選手たちが、自分の肉体が衰えていくその前に、自分を思い切りぶつけることのできる舞台を求める。日本球界を飛び出してメジャーリーグへと移る際に、醜いゴタゴタ劇になったケースもあったが、私には、彼らの志に惹かれるものがあった。 私は、メジャーリーグでプレーする日本人選手を取材するために、米国に出張してきていた。取材場所や取材時間はあらかじめ定められており、球団からは毎試合ごとに豊富なデータが配布された。私も選手と同じように、メジャーリーグでの仕事のやり易さを感じていた。 米国での取材活動に味をしめた私は、勤めていた新聞社の米国駐在員となった。短い出張期間では感じることのできなかったものに、視線が向くようになった。メジャーリーグで活躍する外国人選手たちだ。米国人を夫としたことで、日本人である自分を何度か意識しなければいけない局面に立たされたせいもあるのかもしれない。外国から野球をするためにやってきた選手たちのことが気にかかるようになった。 世界を震え上がらせた二〇〇一年九月一一日のテロ事件の後、全選手はユニホームに星条旗を縫い付けていた。米国人以外の選手たちに縫い付けられた星条旗に違和感を覚えた。万が一、自分の母国が米国と戦う事になったら、選手たちはユニホームに星条旗を付けてプレーすることができるだろうか。しかし、星条旗を付けたユニホームを拒否すれば、選手たちは米国ファンに受け入れられない。激しい非難の的にもなり、グラウンドに出て野球をすることさえできないかもしれない。 どのチームでもロッカールームに入ればかなりの数の外国人選手がいた。ラテンアメリカ系の選手は賑やかで、それだけで存在感がある。日本人選手も、もちろん外国人選手の一部であった。なかには日本球界帰りの選手もいて「こんにちは」などと私に声をかけてくる選手もいた。 いったい、いつから外国人はメジャーリーグで活躍するようになったのだろうか。母国日本からは「このままではメジャーリーグのマイナー組織となってしまう」という声も聞こえてくる。そのような中で、メジャーリーグが、現在に至るまでどのようにしてマイナーリーグを形成したのかを見れば、何か日本球界の参考になるのではないかと思うようになった。また、日本以外の外国がメジャーリーグとどのような関係を築いているのかを知れば、日米球界の今後を占う上での材料になるかもしれないと考えた。 米国ではつらつと活躍する選手たちを見ながら、その一方では母国、日本の野球は衰退していくのだろうかと気にかかる。ラテンアメリカからの選手たちは「自分がメジャーリーグで活躍することが、母国の野球発展に役立つのだ」と異口同音に胸を張った。そうとは言い切れない、日本人の私が身勝手ながらも、答えの糸口をつかもうとして調べはじめたものである。 二〇〇三年現在、メジャーリーグでプレーする選手の二八%は米国外で生まれた外国人選手である。メジャーリーグ傘下のマイナーリーグでは約半数が外国人選手だ。 選手の出身国はラテンアメリカの国々(ここではメキシコ、カリビアン、中米、南米を指す)を中心に二〇ヵ国にのぼる。アルーバ、オーストラリア、カナダ、コロンビア、キューバ、カラカオ、ドミニカ共和国、イギリス、ジャマイカ、日本、韓国、メキシコ、ニカラグア、パナマ、プエルトリコ、ベネズエラ、バージン諸島などだ。 カナダ・モントリオールに本拠地を置くエクスポズのロッカールームをのぞくと、メジャーリーグに、外国人選手が増加していることを肌で感じることができる。いつも数ヵ国語が飛び交っている。スペイン語でにぎやかに談笑し、メレンゲやラテンミュージックを聞く選手たち。フランス語で立ち話するモントリオールの地元記者。日本出身の投手、大家友和もいる。英語を話すマイケル・バレット(現カブス)のような米国出身の有望選手もいる。 万国博にちなんでエクスポズというチーム名になったのだが、今やメジャーリーガーの万国博覧会となっている。チームの主砲で攻走守の三拍子揃ったゲレーロ(現エンゼルス)はドミニカ共和国出身。アーマスはベネズエラ出身、遊撃手のカブレラ(現レッドソックス)はコロンビアから。二塁手のビドロはプエルトリコ出身。二〇〇二年まで在籍していた中継ぎのロイドはオーストラリアの生まれである。これに加えて二〇〇一年シーズンの途中までは、メジャーリーグ初のドミニカ共和国出身監督、フェリペ・アルー(現ジャイアンツ監督)が采配を振るっていた。 国境を超えて移動しているのは選手だけではない。資本主義経済の下で、メジャーリーグベースボールという組織そのものも、米国内から飛び出して行こうとしている。 メジャーリーグは、日本やメキシコ、プエルトリコなどの外国でメジャーリーグの公式戦を行い、多くの観客を動員している。ヨーロッパでも子どもたちを対象にしたイベントを開催。そして、メジャーリーグ承認の商品を世界各国で売りさばいている。これらはメジャーリーグの市場を米国だけでなく、他国にも拡大するための戦略である。今、スポーツの国際化という言葉がよく使われる。メジャーリーグもその例外ではない。現在、メジャーリーグは二通りの方法で国際化を進めている。 1 世界各国の優秀な選手を引き抜いて、メジャーリーグでプレーさせること 2 メジャーリーグのファンを世界各国に広げて、市場を拡大して利益をあげること 二〇〇一年七月、イチローが初出場したオールスターゲームのセレモニーではインターナショナルがキーワードであった。日本人のイチローをはじめ、実力のある外国出身選手たちがファン投票で選出されていた。シアトル・セーフコフィールドのバックスクリーンに「Baseball was born in America, but now it belongs to the world(野球はアメリカで生まれたが、今は世界中のものである)」とセリグコミッショナーからのメッセージが掲げられた。世界中で野球は繁栄していてすばらしい、と主張した。しかし、その実態はメジャーリーグが世界中の野球界をコントロールしはじめているようにも見える。 一九世紀には、米国によって野球というスポーツが世界に広められていった。今、ベクトルは、世界の野球リーグや世界の野球ファンからメジャーリーグに人材や利益が流れる方向を向いている。メジャーリーグが世界中の優秀な選手をスカウトし、トッププレーヤーたちは米国に一極集中している。メジャーリーグは資本主義のもとに運営されているから、財力のある場所に選手たちが集まるのは当然の成り行きだ。一方、選手たちを引き抜かれてばかりの諸外国はこれといった対抗策がない。メジャーリーグは野球の盛んな世界各国を従えて帝国化しているのではないだろうか。“メジャーリーグ帝国”と、植民地化する他国の野球という図式が浮かび上がってくる。 メジャーリーグに選手を送り出しているドミニカ共和国、ベネズエラの自国の野球リーグは、すでにメジャーリーグ傘下のマイナーリーグになっているし、メキシコのメキシカンリーグも、メジャーリーグから独立はしているが、公式にマイナーリーグ3Aと同格扱いとなっている。 社会学者のジョージ・セージによれば(『アメリカスポーツと社会』不昧堂出版、一九九七年)初期の商業資本主義は植民地主義に道をゆずり、二〇世紀に脱植民地主義に道をゆずり、現代の世界資本主義経済に通じている。直接的な植民地支配に従属する地域はすべて独立を勝ちとっており、新しい国家となった。直接的植民地支配の消滅は、国際資本主義的性格の著しい発展(多国籍企業の発展)に伴って起こった。このような資本主義の組織形態は、世界の経済に主要な影響を与えるようになってきた。何人かの社会科学者は、多国籍企業を「現代植民地権力」と呼んでいる。 今、メジャーリーグは米国人をオーナーとする多国籍企業となり、他国に良質で低コストの選手という名の労働力を求める。また、その一方で購買能力のある他国には、公式戦という商品や、テレビの放映権などを販売し、市場を拡大している。メジャーリーグは「現代植民地権力」として他国のプロ野球リーグに大きな影響を与えているのではないだろうか。

著者プロフィール

谷口 輝世子  (タニグチ キヨコ)  (

1994年京都教育大学教育学部体育学科を卒業し、デイリースポーツ社に入社。ロッテ、巨人担当を経て、98年より同社の契約社員として米国に在住し、主にメジャーリーグを取材。01年よりフリーランスとして活動。
共著に『スポーツファンの社会学』(世界思想社、1997年)

上記内容は本書刊行時のものです。