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クロックスリーの王者 アーサー・コナン・ドイル(著) - 柏艪舎
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シリーズ・世界の文豪

クロックスリーの王者 コナン・ドイル・ストーリーズ1
原書: The Conan Doyle Stories

発行:柏艪舎
四六判
208ページ
並製
定価 1,700円+税
ISBN
978-4-434-17029-4
Cコード
C0097
一般 単行本 外国文学小説
出版社在庫情報
在庫あり
初版年月日
2012年8月
書店発売日
登録日
2012年7月26日
最終更新日
2012年8月24日
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紹介

名探偵シャーロック・ホームズの生みの親、コナン・ドイルが晩年に自ら編みなおした短編集『コナン・ドイル・ストーリーズ』より、彼が愛したボクシングとキツネ狩りを題材にした6短編を収録。時は19世紀、古き良き時代のイギリス紳士たちの姿があざやかに甦る。

目次

クロックスリーの王者 3

ファルコンブリッジ公―リングの伝説 73

バリモア公の失脚 113

准将の蛮行 137

キツネの王 159

ブローカス・コートの暴れん坊 181

訳者あとがき 203

前書きなど

訳者あとがき

本書は、一九二九年に出版された短編集『The Conan Doyle Stories』の第一章『Tales of the Ring』を翻訳したものである。この第一章には、ボクシング、そしてキツネ狩りをモチーフにした珠玉の六篇が傑作選という形で収められている。
アーサー・コナン・ドイルといえば、名探偵シャーロック・ホームズの生みの親としておなじみの作家であるが、ほかにも数多くの作品を発表していることは案外知られていないかもしれない。
ドイルは一八五九年にスコットランドで生まれた。若いころから読書家であったという。エディンバラ大学では医学を専攻し、船医なども経験したのち、ポーツマス郊外に診療所をひらくのだが、医業のかたわら、学生時代に始めた執筆活動にも熱心だった。仕事の合間に短編小説を書いては雑誌社に送るという日々は数年間続いた。やがてイギリスでは評価の低かった『緋色の研究』という作品がアメリカでじわじわと人気を得ていき、この作品に目をつけたアメリカの出版社から続編を依頼されて、ドイルはふたたび個性的な名探偵を主人公とした作品を執筆することになる。こうして一八九〇年に『四つの署名』が出版され、シャーロック・ホームズ・シリーズの人気に火がつくのである。
ドイル自身はこの成功に困惑したという。なぜなら、名探偵の物語は収入を得るために書いたもので、彼が本来書きたかったタイプの作品ではなかったからだ。ホームズものの執筆を重荷に感じたドイルが、シリーズを終了させるべく、探偵を行方不明にしてしまった話は有名である。
ドイルが力を入れていたのは歴史小説や冒険小説であり、『白衣の騎士団』といった長編小説を執筆する一方で、『ストランド・マガジン』誌を中心に数々の短編小説を発表していった。本書に収載された六篇もそうした作品のなかから選ばれたものである。
ドイルは大のスポーツ好きとしても知られており、とくにボクシングへの思い入れは強かった。彼はボクシングを、騎士道精神に則った真に男らしいスポーツであり、また、巧みな技術を必要とする知的なスポーツであると考えていたようである。その思いは、本書に登場するボクサーたちの描写からも窺える。彼らは私人としてはともかく、試合に関しては何よりもフェアプレイを重んじ、たとえ不利であることがわかっていても、持てる力をフルに生かして敢然と立ち向かっていく、誇り高い勇者たちなのである。
十九世紀のイギリスでは、ボクシングは庶民の娯楽であると同時に、紳士のスポーツでもあり、人々にとって身近なものだった。古代ギリシャ時代から行なわれていたボクシングは、イギリスで近代的なスポーツへと発展した。イギリスでは棒術や剣術とともに素手での拳闘が人気で、十八世紀初めには懸賞試合用の劇場や拳闘を教える学校ができるほどだった。当時のボクシングはつかみ合いや噛みつきもある、現在とはかなり趣の異なるものだったらしい。その後、ピューリタニズムの影響もあって、ボクシングは低俗な娯楽とみなされるようになるが、十八世紀の後半になって復興し、ルールが整えられ、黄金期を迎えるのである。
一八三八年にロンドン・プライズ・ルールズで噛みつきや蹴りが禁止され、一八七一年には近代ボクシングの基礎となるクイーンズベリー・ルールズが制定された。クイーンズベリー・ルールズでは、体重別の細かいクラス分けやラウンド制が導入され、投げ技が禁止された。本書の中でも、ボクサーがルールの違いに戸惑う場面がある。クイーンズベリー・ルールズでもっとも注目すべきなのは、グローブの着用が義務づけられた点である。着用のない試合は違法とみなされ取り締まりの対象となったが、素手での試合への愛着は強く、グローブ使用の習慣はなかなか浸透しなかったようである。二オンスという申し訳程度のグローブを使用するという逃げ道もあった。著者のドイル自身も、素手での試合こそ本来の拳闘の姿であると考えていたようである。
一方、軍人や富裕層の娯楽として盛んにおこなわれていたのがキツネ狩りである。キツネ狩りはもともと家畜を襲う害獣を駆除する目的で始まったものの、本書に描かれている時代にはすでにスポーツとして楽しまれていた。ナポレオン戦争時代には軍営地に狩猟犬を持ち込んで狩りをしていたというくらいなので、その熱の入れようは並々ではない。
本書には、成り行きでキツネ狩りに参加することになるナポレオン軍の准将、エティエンヌ・ジェラールの物語が収められている。いささか自信過剰なところもあるが、勇敢で茶目っ気のあるこの准将を主人公にした作品は本作を含めて十六篇あるが、ドイル自身が一番気に入っていたのが本作だと言われている。准将の冒険譚は、『勇将ジェラールの回想(The Exploits of Brigadier Gerard)』、『勇将ジェラールの冒険(The Adventures of Gerard)』(ともに創元推理文庫)にまとめられている。
「ホームズもの」にも共通して言えることだが、本書の各篇にもジェラール准将をはじめ、個性的で魅力的な人物が数多く登場する。年齢も、生活水準も、また舞台となる環境もさまざまであるにもかかわらず、それを短編という制限されたスペース内で生き生きと表現し、読者を引き込む筆の巧みさにはあらためて感服するばかりである。このような作品を翻訳する機会をいただいたことに深く感謝するとともに、本書を翻訳するにあたってご助言、ご協力をいただいた多くの方々に、この場を借りて心からお礼申し上げたい。
本書に収められている作品の原題は次のとおりである。
The Croxley Master
The Lord of Falconbridge
The Fall of Lord Barrymore
The Crime of the Brigadier
The King of the Foxes
The Bully of Brocas Court
                        二〇一二年盛夏  岩佐 薫子

著者プロフィール

アーサー・コナン・ドイル  (Arthur Conan Doyle)  (

1859年~1930年。イギリス・スコットランド、エディンバラ出身。外科医師の助手、北氷洋行きの捕鯨船の船医を経験し、22歳で大学を卒業したあと、眼科を専門とする診療所を開いたがふるわず、患者を待つ間に小説を書きはじめる。1879年、処女作『ササッサ谷の怪』を発表。1887年、シャーロック・ホームズシリーズ『緋色の研究』を発表。シャーロック・ホームズ・シリーズが人気を博したが、歴史小説、SF小説にも力を注いでいた。現代推理小説の生みの親とされている。

岩佐 薫子  (いわさ かおるこ)  (

北海道出身、札幌市在住。訳書にナイオ・マーシュ『アレン警部登場』『ヴィンテージ・マーダー』、A・フィールディング『停まった足音』(論創社)など。

上記内容は本書刊行時のものです。