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プレイバックシアター入門 宗像 佳代(著) - 明石書店
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プレイバックシアター入門 脚本のない即興劇

発行:明石書店
A5判
208ページ
上製
定価 3,000円+税
ISBN
978-4-7503-2380-0
Cコード
C0074
一般 単行本 演劇・映画
出版社在庫情報
在庫あり
初版年月日
2006年8月
書店発売日
登録日
2015年8月22日
最終更新日
2015年8月22日
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紹介

観客自身が語り手(テラー)となりその体験を役者(アクター)が即興で演じ,時にはテラー自身がアクターとなって,介護や医療,子育て,人権問題など様々な領域で個々人が持つ痛みや喜びの体験を具現化し,心の深い部分で共感・共有していく新しい演劇の形。

目次

刊行に寄せて
はじめに
第1部 プレイバックシアター概論
 第1章 歴 史
  1. 誕生の背景
  2. 誕 生
  3. 確 立
  4. 普 及
  5. 浸 透
 第2章 基 盤
  1. 理 論
  2. 価値観
 第3章 定 義
 1. スリーサークル
 2. 特 質
 3. 倫 理
 4. 契 約
第2部 プレイバックシアター実践
 第4章 手 法
  1. ストーリー
  2. 動く彫刻
  3. ペアズ
  4. タブロー
  5. ナラティブV
  6. スリー・パート・ストーリー
  7. コーラス
  8. ユニオンジャック
  9. パペット
  10. コラージュ
 第5章 立場と役割
  1. コンダクター
  2. アクター
  3. ミュージシャン
 第6章 形式と進め方
  1. パフォーマンス(公演)
  2. ワークショップ
 第7章 ストーリーの深層
  1. 織り成す綾
  2. 共鳴し合う四つの層
第3部 プレイバックシアターの実践例
 第8章 実践領域
 1. 介 護
 2. 医 療
 3. 子育て支援
 4. 人権問題
 5. 家 族
 6. 教 育
 7. 組 織
 8. 環 境
 9. 平 和
補 遺 ハドソンリバー・プレイバックシアターによるパフォーマンス
あとがき
参考文献
索 引

前書きなど

はじめに
 「花を見て美しいと感じる心」をどんなに言葉で伝えようとしても伝えられないように、「人はなぜ歌うのか」という問いに簡単に答えられないように、プレイバックシアターが何なのか、言葉で何万、何億の行を費やしても説明しきれません。
 たしかに理屈をつければ、美しいと感じる心や歌いたくなる気持ちの機能を分化して伝えることはできるでしょう。けれども、それは「やっていること」の結果をただ説明するだけであり、言葉を重ねれば重ねるほど現実の体験である「美しいと感じる心」や「歌いたくなる気持ち」から遠くなります。
 人がなぜプレイバックシアターに魅せられるのか、言葉をはじめ写真、映像など、さまざまな表現手段を駆使しても、理解してもらうのは難しいようです。
(「Let’s Watch」『プレイバッカーズ会報』第11号 1998年5月)

 本書はプレイバックシアターの入門書である。上記の『プレイバッカーズ会報』に述べたように、「プレイバックシアターとは何か」、また、「プレイバックシアターのもつ価値とは」という本質的な問いに適切に答えることは簡単ではない。以下に、この入門書がどのような背景から、どのような意図をもって、どのような立場に立って書かれているのかを少し明らかにしておきたい。
 1992年の秋、私は、初めてプレイバックシアターとその創始者であるジョナサン・フォックスに出会った。企業研修の講師である私は、対人関係やクレーム処理の研修技法として使っているロールプレイングの延長線上として、即興劇プレイバックシアターに興味をもった。初めてのプレイバックシアターは私を根底から揺さぶる新鮮な体験となった。子どものようにゲームに興じるおもしろさ、心の底に眠っていた記憶が鮮やかに即興劇になる感動、泣いたり、笑ったり、感情がめまぐるしく揺れ動く時間、それらは、白黒の世界がカラーになったような、地球を飛び出しいきなり火星で暮らしたような体験だった。
 翌年、1993年の夏、ニューヨークに開校したばかりのスクール・オブ・プレイバックシアターに入学した。授業は楽しく刺激的で、あっという間の2年間であった。卒業式のスピーチでジョナサン・フォックスは、「これからも続けてください、自分のために。そして、いびつになった社会を修正するために」と述べた。当時の私はおもしろいから、楽しいから、という理由だけでプレイバックシアターに触れていたので、「いびつになった社会を修正する」という彼の言葉にはピントが合わなかった。彼のこのスピーチは、ただ、なんとなく記憶に残っただけであった。
 1994年9月、私は仲間と一緒に、横浜を拠点にした「プレイバッカーズ」を創設した。このグループの活動が私を育ててくれた。ともに苦労した旗揚げ当時の仲間たち、現在に至るまで、ありとあらゆるところで触れ合ったプレイバックシアターの仲間たち、そして多くのテラーとさまざまなストーリーに助けられて今日がある。
 ジョナサン・フォックスは、生徒が理論的な質問をすると、「その件はのちほど(later)」と答えたものだった。生徒が「どうして?」「理由は?」と質問しても彼は多くを教えなかった。彼の「later」を聞くたびに生徒は煙に巻かれたような気分になった。彼の指導方針を理解するようになって、私は彼があえて教えなかったのだと思うようになった。体験を中心とし、右脳と感性と身体を使って体験的に学ぶプレイバックシアター実習中に、難しい理論を教えることは、生徒を左脳の世界に引き戻すことになる。彼はそんな思いから理論を長々と説くことを避けたのだろうと思う。そして、現在に至るまで、彼の深遠な思想体系や価値観は日本語で著されないままとなっていた。
 しかしながら、いかに体験を重視する指導方針とはいえ、日本語での「プレイバックシアター入門書」を書くことが私の懸案事項となっていった。というのも、プレイバックシアターを系統的に学びたいと望む人たちから、参考になるテキストの必要性を訴えられ、ジョナサン・フォックスからも本を書くことを勧められたからである。それでも、プレイバックシアターという手法の複雑さの前で途方に暮れるばかりであった。
 1994年にジョナサン・フォックスは、Acts of Serviceという優れた著作を世に出した。この本は英語で書かれているうえに、かなり難解である。翻訳することも考えたが道のりは遠いと思えた。また、Gathering Voicesはドイツのカッセル大学で行われたプレイバックシアター学会の論文集であり、示唆に富む優れた論文が紹介されている。しかしいずれの論文も英語の文章である。さらに、ニューヨークのスクールで配られた英語の資料も私のファイルに眠ったままであった。
 けれども、ここ数年、多くのプレイバックシアター実践者がジョナサン・フォックスの伝えている深遠な概念体系に出会えていないことが気がかりとなっていた。プレイバックシアターのスクールやさまざまな研修会場で出会う人々の知的好奇心の高さが私を駆り立てた。
 プレイバックシアターは体験がすべてである。体験を文字にするほど無謀な試みはない。そう思いつつも、ジョナサン・フォックスやジョー・サラから得た深い学びや彼らの限りない愛を可能な限り世に伝えたいという気持ちが募った。
 本書の第1部では、どのようにしてプレイバックシアターが生まれ、成熟し、世界に広まっていったのか、また、プレイバックシアターの価値を支えている思想体系について述べている。理論のほとんどはジョナサン・フォックスから受け継いだものであり、彼の著作からもっとも重要と思える部分を紹介することを目的とした。
 第2部ではプレイバックシアターの手法や形式について私が学んだことを記している。ニューヨークと日本のスクールで生徒として学んだこと、劇団プレイバッカーズの活動を通して経験的に学んだこと、そして仲間との交流を通して学んだこと、それらを事例を含めて解説した。
 第3部では、プレイバックシアターを実社会に応用することについて述べる。プレイバックシアターが現在の日本社会でどのように適用され、どのように評価されているかを紹介する。この内容の多くは、私が劇団プレイバッカーズの仲間とともに経験したものである。
 「これがプレイバックシアターである」という一つの正解がないように、ここに記された私の意見や考えがプレイバックシアターのすべてを語るものではない。しかしながら、柔軟性に富んだ手法だけに、実践にあたっては、押さえるべき基本があるという前提で、プレイバックシアターの本質、価値観、上演方法について明らかにした。
 この本のなかで紹介したストーリーは、私がプレイバックシアターに携わっているなかで実際に語られたものである。引用にあたっては、テラーや関係者のプライバシー保護のために内容を変え、個人が特定されないような表現にしている。また、それぞれのテラーのご好意によって公開したものである。

著者プロフィール

宗像 佳代  (ムナカタ カヨ)  (

1948年、徳島県生まれ。東京教育大学(現筑波大学)文学部文学科英語英文学専攻卒業。
Sea-Land Service, Inc.、株式会社リクルート勤務を経て、株式会社アズを設立。官公庁や企業の各種研修で講師を務める。このとき、研修に有効な手法としてプレイバックシアターとめぐり合う。1993年にニューヨークのスクール・オブ・プレイバックシアターに入学。1995年、日本人として最初に同校を卒業。1994年に現在の劇団プレイバッカーズを設立し、日本におけるプレイバックシアターのパイオニアとしてプロフェッショナルな活動を続けている。
現在、スクール・オブ・プレイバックシアター日本校代表、株式会社アズ代表取締役、劇団プレイバッカーズ代表、神戸女学院大学非常勤講師、十文字学園女子大学非常勤講師。

上記内容は本書刊行時のものです。