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NPO/NGOのフロンティアたちの歩み 特定非営利活動法人関西国際交流団体協議会(編著) - 明石書店
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NPO/NGOのフロンティアたちの歩み (エヌピーオーエンジーオーノフロンティアタチノアユミ) 関西の国際交流・国際協力の軌跡

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発行:明石書店
A5判
328ページ
並製
定価 2,700円+税
ISBN
978-4-7503-2340-4   COPY
ISBN 13
9784750323404   COPY
ISBN 10h
4-7503-2340-3   COPY
ISBN 10
4750323403   COPY
出版者記号
7503   COPY
Cコード
C0036  
0:一般 0:単行本 36:社会
出版社在庫情報
品切れ・重版未定
初版年月日
2006年6月
書店発売日
登録日
2010年2月18日
最終更新日
2012年3月23日
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紹介

関西の主要な170のNPO/NGO団体が加盟している関西国際交流団体協議会は創立20周年を迎えた。この20年間で,NPO/NGOが担う役割はあらゆる分野で大きなものとなった。当協議会の軌跡を振り返りつつ,今後のNPO/NGOのあり方を提言する。

目次

はじめに(松井範惇・池本幸生)
第1部 貧困から開発へ
 第1章 「開発」の再検討――概念と計測(松井範惇)
 第2章 可能力(ケイパビリティ)と豊かさ(松井範惇)
 第3章 アジアの「貧困」(池本幸生)
 第4章 バングラデシュの貧困と女性の開発(Pk. Md. モティウル・ラーマン/訳:張 志宇、坪井ひろみ)
第2部 女性のエンパワーメント 
 第5章 韓国における女性非正規雇用の実態と問題点(黄 秀慶/訳:横田伸子)
 第6章 開発と女性――マレーシアの視点から(スロチャナ・ナイール/訳:張 志宇、武井 泉)
 第7章 マイクロクレジットの役割と有効性(松井範惇)
 第8章 物乞いの組織化によるエンパワーメント――グラミン銀行「物乞自立支援プログラム」(松井範惇、坪井ひろみ)
 第9章 貧困世帯の貯蓄と遺産――女性の意識と行動(坪井ひろみ、ノズル・イスラム・チョウドリ)
第3部 QOL(生命活動の質) 
 第10章 インドネシアにおける民主主義・経済回復・人間開発(アニス・チョウドリ、イヤナトゥル・イスラム/訳:堀江新子)
 第11章 バングラデシュ――有効な発展経路を探る(セイジ・ F.ナヤ、フェルナンド・デ・パオリス、ロバート・ K.マクリーリ/訳:堀江新子)
 第12章 タイの地方間格差――労働移動から考える(池本幸生、武井 泉)
 第13章 中国農村地域におけるNGOの開発活動――貧困削減と教育援助(申 荷麗)
 第14章 マレーシアの住民移転政策――不法居住者にかかわって(リーミン・タイ)
事項索引
人名索引
著者紹介

前書きなど

はじめに
 20世紀後半、科学技術、情報通信、交通など多くの分野において、大きくかつ急速な進歩があった。世界における人々の暮らしは格段に良くなったといえるだろう。生化学や電子・電気にかかわる事柄では、ほんの少し前ではまったくの夢でしかなかったようなことが、人々の生活に影響を及ぼしている。
 しかしながら、21世紀になった今日でも、地球上の人口の5分の4を占める開発途上世界のなかで、その3分の2が、いまだに、飢餓と貧困に喘いでいることはどう考えたらよいのだろうか。飢饉などのいわゆる大災害の多くは、単なる自然現象ではない。人工的に作られた被害であり、こういった大規模被害の主要な原因は、慢性的な貧困にかかわる社会システムの脆弱性であり、そのような危機に際して資源へのアクセスを閉ざされる層・人々のグループが出現すること、しかもそれは特定の人々であることが知られている。
 社会・経済・政治システムの脆弱性は、すべての人々に等しく影響をもたらすのではない。開発のプロセスで、世界の経済の変化のなかでさまざまな変化・危機に際して、システムの脆弱性とは別に、性、年齢、職業、地域、社会階層、教育の違いなどでその脆弱性は異なる。これらの要因を注視しなければ、総計や平均値だけを見ていては社会の本当の姿を理解することはできない。
 社会の仕組みのなかの隠された矛盾と葛藤を外在化させることなしに、社会の主体的変革をもたらすことは不可能である。社会を主体的に変革するとは、人々がより良い暮らしができるように、自ら仕組みを変えていくことであるといえよう。今世紀ますます混迷するように思われる世界とアジアにおける人々の生活を見ていると、社会の矛盾と葛藤を十分に外在化していないのではないかとも思われることがある。

 開発の究極の目的は、人々の選択肢の拡大、つまり自由の拡大でなければならない、とアマーティア・センはいう。センはまた、自由の拡大の結果は開発につながらなければならない、ともいっている。この考え方によると、貧困とは、開発の進まないことの結果であり、人々の選択肢が狭められている結果起こるものである。すなわち、貧困とは自由の剥奪、開発の剥奪なのである。したがって、単に所得が低いことではなく、人々の自由が奪われていること、選択肢が狭められていること、開発の機会が奪われていることである。これを、センは単なる所得の低さで見る「所得貧困」ではなく、「人間貧困」と呼んでいる。
 さらに、開発・発展を進めることは自由を拡大することにつながらなければならず、自由をさらに深化、拡大することが発展の内容とならなければならないのである。ここでいう「開発」とは、もはや、単に経済開発・経済発展という言葉で表されるものではなく、さらに幅広く人間の発展、社会の仕組みの発展、政治的・制度的な開発・発展をも含む概念として使われていることに注視しなければならない。
 こうして、国連開発計画(UNDP)によって1990年に発行が開始された、『人間開発報告書』(Human Development Report)においては、このセンのアイディアに基づき、人間の開発に対してケイパビリティ概念のさまざまな側面からのアプローチが試みられている。この16年間にわたる『人間開発報告書』の副題を見ると以下の通りである。

  1990年:人間開発の概念と測定
  1991年:人間開発の財政
  1992年:人間開発の地球的側面
  1993年:人々の社会参加
  1994年:「人間の安全保障(Human Security)」という新しい側面
  1995年:ジェンダーと人間開発
  1996年:経済成長と人間開発
  1997年:貧困と人間開発:貧困撲滅のための人間開発
  1998年:消費パターンと人間開発:人間開発に資する消費とは
  1999年: グローバリゼーションと人間開発:人間の顔をしたグローバリゼーション
  2000年:人権と人間開発:自由と連帯をめざして
  2001年:新技術と人間開発:新技術を人間開発に役立てる
  2002年:ガバナンスと人間開発:モザイク模様の世界に民主主義を深める
  2003年:ミレニアム開発目標(MDGs)の達成に向けて
  2004年:この多様な世界で文化の自由を
  2005年:岐路に立つ国際協力:不平等な世界における援助、貿易と保障

 「人間開発」という考え方には、人間そのものを直接対象とするので多様な側面があることと、概念そのものの深化の様子が見てとれよう。
 本書における共通の考え方、視点の基となっているものを抽出するならば、以下の4点に要約されるだろう。第1に、社会の基本的単位はあくまでも個人にあるということであろう。社会的決定や選択の多くは組織や団体、または代表者などによって行われるものの、個人の重要性が忘れられてはならない。逆に、個人は自分の良心に従って発言し行動する権利と義務を持つ。このことは社会や組織の大きさがどれほど大きくなっても決して忘れ去られてはならない。
 第2に、「コミュニティ」としてのまとまりが重要であることを強調しておきたい。個人の重要性は概念としては認識されていても、現代社会の組織のなかでは人々の「個」としての意味づけが過小評価されることが多い。また、いかなる団体、クラブにも属さず生活することも可能であるかもしれない。しかし、思索と省察をする人々の集まりとしての、さらに行動の単位としてのさまざまなコミュニティは、その役割は大きくなることはあっても小さくなることはないだろう。官でもなく個でもなく、上からの「公」でもなく「私」でもなく、つまり二極的に社会をとらえるのではなく、その間にある「コミュニティ」の役割は見直されなくてはならないだろう。国という単位の持つ意味が急激に変化する今日、社会の組織原理としてのコミュニティ概念を大事にすることが重要であろう。
 第3に、社会的決定や行動の根拠には、その説明、理性的な説得、納得のプロセスがますます重要となってきている。社会の大きな紛争が起きる理由の大部分は、この「説得のプロセス」を一挙に飛び越えてしまうことにあると考えられる。「アカウンタビリティ」という言葉が日本でも使われるようになってきているが、これは結局のところ、説得のプロセスと失敗したときの代替案をいかに提示しておくか、人々の納得を得ておくことにつきると考えられる。こういったプロセスに時間をかけることの大事さは決して減少していない。
 第4には、社会的行動はプロ・アクティブなものが望まれ、社会の変革に対して守旧的、反動的になると必ず対立する利害の調整には時間と手間がかかるようになる。結局、大きな変革にはつながらなくなる。後から変革に追随するのでなく、ことの前から主体的な改革を進めると、同じことであっても人々は進んで行うものである。
 もちろん、本書における各著者の個人的、思想的、学術的考え方は必ずしも一致しているわけではない。さまざまな考え方、方法論を持つ研究者が各国から「開発」と「QOL(quality of life)」との関係およびその意義を探究しようと(バーチャルに)集まった。対象とする国、地域、分野も必ずしも網羅的ではない。しかし、その研究成果の一部を紹介し、ケイパビリティ概念の理解と応用を深めることに資するという意味で、ここに1冊の書物として刊行する意義は十分にあると考える。

 本書は、山口大学大学院東アジア研究科が2001年4月に開設されて以来、研究プロジェクト(研究科内では東アジア5年研究プロジェクトと呼んできた)の1つ『東アジアの開発とQOL』として行われてきたものの研究成果の一部を母体としている。研究課題の副題として、各年においてそれぞれ中心となる論点を置いてきた。それらは、1マイクロクレジットの利用、2女性・貧困層のエンパワーメントと家計経済、3貧困削減と女性のエンパワーメント、4貧困理解とエンパワーメント、5開発と環境、日本の国際協力であった。
 山口大学においては、大学院東アジア研究科と経済学部および東亜経済研究所が共同で、2001年11月に「東アジアにおける社会開発と日本」と題する国際シンポジウムを行い、『東亜経済研究』第64巻第1号(2002年7月号)にその成果を発表した。東アジア研究科では2002年11月、「東アジアにおける開発とジェンダー」と題する国際会議を行った。1日半にわたり延べ500人以上の参加者が、特別記念講演と基調講演、さらに2つのセッションで8つの研究論文報告と討論に参加した。また東アジア研究科では、学術研究雑誌『東アジア研究』を2002年12月に創刊した。年1回発行で、これまでのところ第3号まで発行されている。現在、第4号の編集の最終段階にある。本書が刊行される2006年4月までには、印刷、発行、発送が終わっているだろう。本書は、これらの国際会議やジャーナル『東アジア研究』で発表され論議された研究成果や、それらからの発展をも含んでいる。

 こうして本書は以上のような考え方に基づき、アジアを対象としてこの地域における開発と貧困を、女性のエンパワーメントとQOLという2つのテーマから整理し、探究したものである。
 まず第1部「貧困から開発へ」では、「開発」という概念について検討する。本書における開発の理解は、「人間開発」である。一国の経済がどうしたら成長するのかを明らかにするのが目的なのではなく、人々の暮らしがどうすれば良くなるのかに関心がある。そこから直ちに出てくる問題は人々の暮らしの良さをどう測るかということである。第1章「『開発』の再検討――概念と計測」(松井範惇)では、シュンペーターの「発展」、世界銀行の「開発」と国連開発計画による「開発」の比較、センの「自由としての開発」を取り上げ、「開発」の意味について論じる。そして、開発指標と1人当たりGDPを超えるものとして、社会開発指標(SDI)が提示される。第2章「可能力(ケイパビリティ)と豊かさ」(松井範惇)ではセンの“ケイパビリティ”、“ファンクショニング”、“エンタイトルメント”という用語を検討し、その日本語訳としてそれぞれ「可能力」、「生命活動」、「基本的請求力」とすることを提唱する。第3章「アジアの『貧困』」(池本幸生)では、1人当たりGDPでアジア諸国を比較すると、アジアにはものすごく大きな所得格差が存在していることが示される。しかし、まず考えなければならないのは、1人当たりGDPで生活水準を比較することにどのような問題があるかということである。単一の指標を用いることによって生じるさまざまな問題点を指摘し、ケイパビリティのような多元的アプローチが望ましいことを主張する。第4章「バングラデシュの貧困と女性の開発」(Pk. Md. M.ラーマン/訳:張、坪井)は、バングラデシュを取り上げ、その貧困プロフィールを統計データの分析を通して明らかにする。その結果、1980年代初頭から所得貧困の削減は徐々にしか進まなかったが、所得以外の側面(乳幼児死亡率、妊産婦死亡率、出生時平均余命、成人識字率、人間開発指標など)では大きな成果が見られ、バングラデシュのHDIは1975年から2002年の約20年間で顕著な改善を示した。また、女性開発のためのプロジェクトが数多く実施され、ジェンダー平等と女性のエンパワーメントの進展も注目に値するものであった。所得のみに依存していたのでは、このような人間開発の進展をとらえることはできない。
 「第2部 女性のエンパワーメント」では、女性のQOLに焦点を合わせる。第5章「韓国における女性非正規雇用の実態と問題点」(黄秀慶/訳:横田)は、日本でいわれているのと同じように、1990年代を通して韓国でも起こった正規雇用の非正規化、特にその多くを女性が占めているという非正規雇用の女性化の問題を取り扱う。非正規雇用は正規雇用と比べると条件の良くない状況に置かれている。それを改善すべきは当然であるが、そのとき配慮しなければならないのは多様性の問題である。女性は、それぞれのライフサイクルのなかで置かれた状況が異なり、それによって求める労働条件も違ってくる。本章で示された女性労働の分析から韓国女性の置かれた立場を垣間見ることができる。それは、さらには文化的な問題にまで踏み込んで考えなければならない問題であろう。日本も同じ問題を抱えていると思われる。第6章「開発と女性――マレーシアの視点から」(S. ナイール/訳:張、武井)は、マレーシアが抱えるジェンダー差別を法律の不備に着目して明らかにしようとするものである。マレーシアは、公式にはジェンダー格差の解消に積極的に取り組み、高等教育においては女子の比率が男子を上回るなどの成果を上げてきた。しかし、社会に埋め込まれたジェンダー格差は根強く残り、女性はさまざまな面で不利な状況に置かれている。法律がジェンダー格差に十分に配慮していないのはその現れである。第7章「マイクロクレジットの役割と有効性」(松井範惇)は、本書の第8章、第9章でも引き続いて取り上げるマイクロクレジットの有効性の評価の仕方にかかわるものである。例えば、マイクロクレジットの代表例であるグラミン銀行を先進国の純粋な金融機関と比較して評価したとしても、それはグラミン銀行やそれにかかわる人々の努力を正当に評価したことにはならない。グラミン銀行がめざすのは人間開発であり、経済開発ではないからである。グラミン銀行は、人々の可能力(ケイパビリティ)にどのような影響を与えているかを見ることによって正しく評価することができる。第8章「物乞いの組織化によるエンパワーメント――グラミン銀行『物乞自立支援プログラム』」(松井範惇、坪井ひろみ)は、グラミン銀行「物乞自立支援プログラム」を取り上げ、このプログラムがどのようにして物乞いを支援し、エンパワーし、自立につなげていくかを2人の女性の事例を通して示している。物乞いが欠くファンクショニングは所得だけで測ることはできない。物乞いが感じている偏見や障害は可能力によってもっともよくとらえることができる。グラミン銀行のユヌス博士は物乞プログラムについての我々の質問に対し、「物乞いが名乗って表に出てくることが大事だ」と語ってくれた。これはまさにアダム・スミスのいう「恥をかかずに人前に出られる」という生命活動であり、センがしばしば例にあげる大事な可能力の一要素である。第9章「貧困世帯の貯蓄と遺産――女性の意識と行動」(坪井ひろみ、N. I.チョウドリ)は、グラミン銀行の主メンバーである貧困女性の貯蓄行動、遺産動機、遺産分配に焦点を当て、その意識と行動を分析する。グラミン銀行での長い活動の結果、貯蓄に関しても大きな意識変化が起こっている。メンバー世帯は現在の生活をより快適に過ごすために多くを費やすのではなく、所得獲得のためと子どものためにより多くを費やそうとし、遺産についても「次世代に配慮した利他的動機」を持って行動していることが明らかにされる。
 「第3部 QOL(生命活動の質)」では、QOLにかかわるさまざまな問題を取り扱う。まず第10章「インドネシアにおける民主主義・経済回復・人間開発」(A.チョウドリ、I.イスラム/訳:堀江)は、1997年のアジア経済危機以降、インドネシアが人間開発重視の開発に転換していく様子を示している。危機以前に高度経済成長を達成した「インドネシアの奇跡」は、一方で多くの負担をインドネシア国民に強いるものであった。危機後、その開発戦略に戻ることは賢明な策ではなく、民主主義や人間開発を重視した開発戦略に転換すべきであると論じる。第11章「バングラデシュ――有効な発展経路を探る」(S. F.ナヤ、F.デ・パオリス、R. K.マクリーリ/訳:堀江)は、地方から首都ダッカに流れ込む労働力をいかにして生産性の向上や所得格差の縮小につなげていくかを論じる。ランク・サイズ・ルールに従えば、バングラデシュの都市はダッカのみが巨大であり、残りは小さすぎる。このことから、いかにしてダッカ以外の都市の発展をはかるか、そしてその鍵は地方分権化であることが示される。第12章「タイの地方間格差――労働移動から考える」(池本幸生、武井泉)は、所得による貧困分析がいかに現実を見えなくしているかを、タイの地域格差を例に論じる。「貧しい東北タイ」というイメージは、統計によって強化され、人々のイメージをさらに固定化していく。しかし、統計を細かく見ていけば、このイメージは現実を正しく反映したものではないことがわかってくる。我々の焦点が、人々の暮らし(あるいは、QOL)に置かれているならば、このような誤りは避けることができる。第13章「中国農村地域におけるNGOの開発活動――貧困削減と教育援助」(申荷麗)は、近年、中国でも盛んになってきているNGO活動を貧困削減と教育援助に焦点を合わせて紹介し、その果たすべき役割について論じている。第14章「マレーシアの住民移転政策――不法居住者にかかわって」(L. M. タイ)は、これまでほとんど行われたことのなかったマレーシアの不法居住者の移転の実情を調査したものである。コモン・プラクティスという概念を用い、3つのケースを取り上げ、それぞれの成功・失敗の原因を探っていく。そして、住民移転を成功させるための提言を行う。

 本書はアジアのすべての地域を含むものでもないし、開発のすべての局面、側面を網羅するものでもないが、ケイパビリティから見た女性のエンパワーメント、ケイパビリティから見た生命活動の質、という観点からまとめられている。
 このようにしてまとめられた本書が、「開発」研究、および「貧困」研究の新しい貢献となり、さらに活発にさまざまな議論が花開くことを願うものである。編集の段階では、坪井ひろみさんと武井泉さんに手伝っていただいた。記して感謝したい。
 本書は山口大学経済学部創立100周年記念事業の1つとして出版助成を受けて刊行される。このような節目の記念事業に助成を受けることを栄誉とするとともに、山口大学経済学部および100周年記念事業実行委員会に対し厚くお礼申し上げたい。

2005年11月
松井範惇
池本幸生

著者プロフィール

特定非営利活動法人関西国際交流団体協議会  (カンサイコクサイコウリュウダンタイキョウギカイ)  (編著

山口大学大学院東アジア研究科副研究科長、教授
東アジアコラボ研究推進体所長、『東アジア研究』編集長、開発経済学
【主要業績】
「マイクロ・クレジットとバングラデシュの貧困削減」『東亜経済研究』第63巻第1号、2004年。
『現代世界経済をとらえる ver.4』(共著)東洋経済新報社、2003年。
『飢饉の理論』(翻訳、S・デブロー著)東洋経済新報社、1999年。

上記内容は本書刊行時のものです。