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21世紀アジア都市の未来像
シンガポール人建築家の挑戦
原書: Asian New Urbanism
- 出版社在庫情報
- 品切れ・重版未定
- 初版年月日
- 2004年8月
- 書店発売日
- 2004年8月25日
- 登録日
- 2010年2月18日
- 最終更新日
- 2011年1月21日
紹介
東西文化の出会い,伝統と現代,人と環境,都市と国家,世界。さまざまな物,人,価値が交錯するアジアの都市にどのような都市計画,建造物を創造するか。経済の発展の行き着く先の混乱ではなく,人びとと文化が出会う都市をどのように残していくか。
目次
はしがき
日本語版まえがき
著者紹介:ウイリアム・S・W・リム
第一章 ル・コルビュジェから多元論へ――ウイリアム・リム:あるシンガポール人建築家の軌跡
アジア経済成長/シンガポールの経験/シンガポールの建築/建築への旅/まとめ
第二章 アジアのニューアーバニズム
アジアのアーバニズムの今日/グローバルな展開/伝統と近代/危機と挑戦/まとめ
第三章 東南アジア都市における建築の将来
はじめに/最先端技術/予測されうるシナリオ/これからの建築の方向性/二○○○年を超えて
第四章 都市開発における土地政策――流動変化する価値をめぐって
最先端技術/流動変化する価値/地域社会の利益 対 個人と公共の利益/まとめ
第五章 人間のための都市と建築における多元性
変化の速度/アーバニズムにおける最新技術/人間のための都市/建築における多元文化主義/まとめ
第六章 デザイン革命
第七章 現代文化+遺産=地域主義
はじめに/一元論への挑戦/現代の多元的文化/バランスとしての遺産/まとめ
第八章 ニューアーバニズムに向かって――経済成長地域の人口密集地域における新しい都市居住のあり方の探求
はじめに/新興工業経済地域から学ぶこと/奇跡あるいは幻想/挑戦と探求/まとめ
第九章 伝統と近代
シンガポールにおける初期の英国の政策と建築/伝統と近代への思考/伝統、近代および現代の価値観/現代社会におけるアイデンティティーへの疑問/現代社会で建築はどうなっていくのか?/現代のシンガポールにおける建築
第十章 都市の歴史的環境の保存――シンガポールを中心に
都市における歴史的環境の保存の理論的根拠/範囲と量/市場の力と補助金/市民の参加と反応/法律と施行/まとめ
第十一章 ニューアーバニズムにおける「ファジー・ヴィジョン」
はじめに/時と私たちの場所―現在、過去、未来/西欧のファジー理論と東洋の囲碁ゲーム/アーバニズムのランダムなゆくえ/まとめ
第十二章 アジア都市における変化への挑戦
はじめに/近代化と遺産/アジア経済の奇跡/価値観の衝突と浮上するシナリオ/まとめ
第十三章 アジア都市の危機的命題
はじめに/アジアの経済的奇跡/現代の世界文化/建築の最先端/今日のアジア都市
危機的命題
人間のための都市/自動車とモビリティー/自己充足性と都市拡大の限界/経済的資源としての土地/建築における多元主義/まとめ
第十四章 現代的ヴァナキュラー――多元的世界における建築の選択肢
はじめに/建築とアーバニズム/アジアの新興経済国/現代的ヴァナキュラー/現代的ヴァナキュラーの限界/まとめ
第十五章 シンガポールの開発と文化を超えて
はじめに/開発志向の国々/伝統,文化、近代/情報資本主義/まとめ
ウイリアム・リム――用語集
訳者あとがき
前書きなど
訳者あとがき 宇高雄志 訳者のシンガポール国立大学での滞在も、終わりにさしかかった頃、ウイリアム・リム氏との面談はふとした拍子に実現した。私の友人は、氏を評して「彼は挑戦し続けている。もちろん、あなたは彼の冒険につきあう必要はない。しかしそれでは人生楽しくない。楽しんでらっしゃい」。この意味深なメッセージに背を押され、おっかなびっくり彼のオフィスに向かった。常夏シンガポール。緑滴る町並み。目眩させられる高層ビル群。氏のオフィスの入るビルは、その一角にたたずんでいる。 ウイリアム・リム氏は、たえず先端を走り続ける建築家である。豊かな白髪と深い声色は、どちらかというと、どこか哲人を思わせる。氏は建築家であると同時に、アジアのアーバニズムを牽引するイデオローグである。 氏の都市へのコミットメントは永い欧米での生活を終えた一九六○年代から始まる。一貫した、アジア都市へのまなざし、洋の西と東、伝統と現代、人と環境、都市と国家、そして世界。その明快な語りと取り組みは、氏とそのグループが発した「Spur」以降、なんら変わることがない。彼の、そして私たちの「アジア」が、どれほど変わろうとも。 永い永い英国による植民地支配。日本軍の侵略と、その後のマレーシア連邦からの分離独立。リー・クァンユーら政府首脳による高度なリーダーシップと、世界都市としてのシンガポールの建設。そして、東洋の楽園、シンガポールの、どこまでも美しく清潔な都市空間の実現。陽気な市井のシンガポリアンはこの国家のありさまをこう笑い飛ばす。「政府は何でも知っているんだよ!」。皮肉にも西洋の都市計画家が夢想した究極の都市像は、このアジアの島国に現れている。 ウイリアム・リム氏は、その「実験」国家の変化を見続けてきた。また、たえず「ベスト」な政府の一歩先を走り続けてきた。一方、政府は、その美しい都市空間が、きたなくなるのと同様、その世界での、想いや語りの暴走を巧みに避けてきた。 これはシンガポールだけではない。旅人がしばしば囚われがちな素朴で牧歌的なアジアも、その意味でスリル感はすごい。西欧と東洋の結節点として、シンガポールには容赦なく多様な人々が往来する。思想や物質も流れ込む。そうやってこの国はできてきた。氏はそんな政治的な緊張の時を走り抜けてきた。氏の巧みな挑戦は、本書のその行間に、また言葉の選びによく表れている。 氏のアジア都市に向けた視線は、未来に向けられている。例えば「都市遺産の保存」は、それそのものが目的化されて語られることはない。アジアのアイデンティティー、そしてモダニティ。東洋と西洋、そしてポリティクス。シンガポール遺産協会は氏が中心となって立ち上げた。地域主義に根ざした地道な取り組みの向こうに、壮大なパースペクティブが浮かび上がる。 氏のアジア都市に向けた言説だけではなく、氏の作品には学ぶところが多い。氏の初期作。ピープルス・コートは歴史的な町並みの保存地区のチャイナタウンに隣接して屹立する。正直、巨大な商業施設といえばそれまでだ。しかし、そこには皮肉なことに、美しく「保存」されたチャイナタウンにはもうない、ほんものの雑踏がある。そして「アジア」がある。市井のシンガポリアンの、生き生きとしたふつうの暮らしがある。氏の作品は、そんな人々の暮らしを支えてきた。 氏の活動は、もちろん過去にとどまらない。若手への教育にも向かう。広くアジアの次世代の芸術家を育てる、ラサール・SIAの理事をつとめ、講演で世界各地を駆けめぐる。アジアを世界に相対化させる作業。それがウイリアム・リムの仕事であり続けている。 今年で七二歳になる氏の思惟は、ますますその勢いをましている。それは、ダイナミックなアジア都市の風をはらみながら、カタチや国境を越え、世紀を超えようとしている。 シンガポールの変化に向けた挑戦はとまらない。アジアは今日も変わり続けている。新しい世紀。さて、私たちのアジアはいったい何処に向かっているのだろうか? 壮大な実験。都市国家シンガポールのアーバニズムとともに、ウイリアム・リム氏の動きには、今後も目が離せない。
上記内容は本書刊行時のものです。