僕と本が生きる出版流通(2004年版)
僕には折々に読み返す文章がある。自分で書いたものだ。
「いける本いけない本」という冊子に寄稿したそれをつい先日も思いおこした。栗田出版販売が破綻し太洋社が自主廃業を表明したいま、自らの仕事を見直す意味もこめて、ここに転載したい。
そして、版元日誌を担当する次の機会があれば「僕と本が生きる出版流通(2016年版)」を記すつもりだ。 (さらに…)

僕には折々に読み返す文章がある。自分で書いたものだ。
「いける本いけない本」という冊子に寄稿したそれをつい先日も思いおこした。栗田出版販売が破綻し太洋社が自主廃業を表明したいま、自らの仕事を見直す意味もこめて、ここに転載したい。
そして、版元日誌を担当する次の機会があれば「僕と本が生きる出版流通(2016年版)」を記すつもりだ。 (さらに…)
新年度がはじまりはや2ヵ月。新人&転職組の方はヤル気に溢れ、キャリア10年いまだ社内で最若手の同業他社諸氏にとっては、爽やかな陽気が勤労意欲をそぐ季節になりました。
さて、つい先日まで日本で2番目に小さな(常勤2名なので。最近1名増員)版元だったトランスビューも創業から干支がひとまわり。短期で重版がつづく本がある時期は疾走感がありますが、都合よく企画と季節が出会う訳ではありません。そんな時はマンネリ気分がいっそう能率と楽しさを奪ってしまいます。
(さらに…)
さる2010年7月8日から10日までの4日間、東京国際ブックフェアが行われました。会場は東京ビッグサイト、23区内で最も書店密度の低い(東京都書店商業組合青年部HPにて目視確認)有明エリアです。
版元ドットコムは、3年連続での出展。今回のテーマは「本屋さんへいこう!」。
“町の本屋さんへもっと足を運んで欲しい”という趣旨のもとアイディアを出し合った幾つかの企画のうち、私が担当したのが“本屋さんへ行こう!「TIBFで図書カードをGET!」キャンペーン”。通例となっている「読者謝恩」値引販売をとりやめお買上金額に応じた図書カードにより読者へ還元する、東京国際ブックフェア史上で前例のない販売方法でした。 (さらに…)
トランスビューは、版元ドットコムへ四年前の創業当時から参加している。
なぜか。トランスビューが小売店との直接取引をはじめるに当たっては、課題があった。
その解決の糸口を版元ドットコムの活動に求めたのである。 (さらに…)
山手線のある学生街、駅から徒歩7分、黄色い看板が目印の新古書店を訪れた。
思わずこちらがうつむいてしまう、黄色い声で「いらっっしゃいませー」の大合唱を覚悟して、店内へ足を踏みいれると・・・。んぅ?店内を見渡すと、大きなカウンターに学生アルバイトとおぼしき店員が3人。作業の手を止めて軽く会釈しながら、「いらっしゃいませ」。すぐにそれぞれの仕事に戻る。んんぅっ、なんか違うぞ。
近くに弊社の取引先の大型書店もあるが、今日、この駅で降りたのは、このブックオフが目的だ。
「あのブックオフは、すごい!」と、業界通の知人に教えられてやって来たのだ。例のマニュアルで出迎えられなかった私は、少し拍子抜けしつつ店内を見渡した。漂う雰囲気は新古書店というより古書店。神田神保町とか早稲田の専門性の高いそれではなく、古書店というより、カジュアルな古本屋さんと言った方がしっくりするだろうか。200坪ほどの店内を見渡すと、入り口近くにCD、飾り気のない床に置かれたボックスは映画のパンフレットだろうか。奥の方はコミック売り場のようだ。
お目当ての人文書コーナーを横目で見ながら、まずは店内を一周。平日の午前中、当方スーツにネクタイ姿につきアダルトコーナーは遠慮したが、なかなか整理が行き届いている。100円均一の文庫棚に、表紙が見えるように陳列してアクセントを付けてあったり、おすすめ本コーナーもある。反対に、ない!ない。新古書店に付物のゴミが。これには驚いた。じっくり隅々まで確認したわけではないが、少なくとも人文書の棚には、一目でわかるそれは見当たらなかった。
出版関係者には、新古書店を毛嫌いする人も多い。もちろん万引きの問題、著作権料の問題はある。
でも本当は、商品価値の無いものに値札つけて売っている、その光景が許せない。という感情的理由もあるように思う。誤解の無いように申し添えるが、本の良し悪しは、読んだその人が判断すればよい事だ。でも何年も前の学校案内や、某大先生作、宗教的自伝小説の不揃い巻などは、売る側だって商品としては、ゴミ同然だと判断していないはずがない。ゴミにカネを払ってくれるお客がいれば、儲けもんといったところだろう。
しかし、ここのブックオフ、どうも本を選んで置いている。いわゆる「棚」を作っているのだ。吉本隆明が棚一段あったり、中沢新一の隣に『人間と神話』(せりか書房)なんて本が差してある。本に関する本のコーナーもあった。「本の雑誌」や「レコレコ」のバックナンバーも売っている。よく判らないが、美術書のコーナーなんかも時間をつぶせそうだ。
しかも見てしまった。一人の客に「○○の本はどこにありますか」と尋ねられた店員が、まっすぐに単行本の棚へ進み、次に文庫の棚の前へ行き、「こことここに無ければ、あいにく在庫がございません」と答え、にこやかに元の持ち場へ戻る姿を!
売る商品を選ぶといっても、新古書店ゆえ仕入の制約もあるだろう。しかし、この本屋さんは、明らかに一冊の本に価格の安さだけではない付加価値をつけて顧客へ提供している。
新刊書店への営業の途中だったので、ブックオフの黄色いビニル袋をさげているのは憚られて、小さな本を2冊だけ手にとってレジへ向かった。店員さんへ尋ねると、4、5年前から営業していて、都内に数店の支店があるという。「またお越しください」という言葉とともに本を受け取り、数年ぶりに足を踏み入れた新古書店を後にした。もちろん、「ありがとうーございましたー」の合言葉はない。
ところで、周囲の新刊書店4店には、2000年以前の「吉本」本は一冊しかなかった。「中沢」本も最近の刊行のみ、さっき見かけた氏の出世作「チベットのモーツァルト」はどこにも置いていない。(もっとも講談社学術文庫版の在庫は確かめなかったけれど・・・)
新刊と古書、リメンダー(日本でいう非再販本)を同じ棚に並べて売る、アメリカの伝説的な書店、パウエルズ・ブックスのような売場をつくる書店は、ひょっとしたら新古書店から出てくるのかも知れないと感じてしまった。ブックオフが、私の営業コースに組み込まれる日が、遠くない将来、やって来るのかも知れない。
*先の業界通の知人によると、このブックオフはフランチャイズ店で、かなり特殊な店だそうです。
鈴木さんから電話を戴いた。「トランスビューへは初めて電話するねぇ」。
別所書店修成店、近鉄名古屋駅から急行で約一時間、三重県修成町の書店の方だ。
2002年6月16日、取引のお願いに伺ったときのことを思い出した。通常、地方への書店営業の場合は、事前に連絡をして先方の都合を確認する。目的地に訪問先が一軒だけの場合ならなおさらだ。でもこの日はアポなしで、突然お邪魔した。
なぜなら創業以来、何度かご案内をさし上げて取引開始(注:1)をお願いしたけれど、なかなか良い返事を戴けないでいたからだ。事前に連絡をして都合が悪いと断られたら、二度とお伺いする機会がないような気がしたし、首尾よく約束が出来ても、「これはOKのサインかな」なんて思ってしまいそうで嫌だった。という訳で、もし担当の方に面会できなかったらすぐに次の目的地に向かえるよう早めに名古屋をたった。
開店直後の店内をグルッと一周してから、声を掛けようと思っていたが、それが出来たのは一時間ほど後だった。「時間をつぶせる」というのは良い書店の条件のひとつだと思うが、まさにそういう店だった。当時の出張日誌にはこんなメモを残している。——ここはかなりハイレベル。棚から平台まで全て意図をもって置いているのが一見してわかる。だから隅々まで見たくなる。「部数は多くはないが確実に売る」というタイプの店で、客の限られた郊外店でここまでやるのは大変だろう——。
ともあれこの日は、ムリを言って取引開始の内諾を戴き店をあとにした。帰りはバスの時間が合わず、タクシーもつかまらず、駅までかなりの距離を歩いたが足取りは軽かった。トランスビュー創立以前に勤めていた出版社で、鈴木さんの反応と別所書店修成店での売行きを、勝手に定時観測ポイントにしていた私は、本当に嬉しかったのだ。
冒頭の電話は、今とても反響を呼んでいる(注:2)新刊『14歳からの哲学‐考えるための教科書‐』の注文だ。これまでもFAXなどで補充を戴いてはいたが、今回の電話は、「おめでとう、よかったね」といわれたような気がした。ご本人にそんなつもりは無いかもしれないけれど・・・。
あの日、店内の感想を言った私に対して、鈴木さんは「地域読者の期待とプレッシャーを感じる」と仰った。我々も、同種のプレッシャーを受けとめたいものだと思う。
(注:1)トランスビューの書籍は、全国どの書店でも取次経由で入手可能。ただし買切返品不可。委託での販売は個々の書店との直接取引としている。
(注:2)発売3ヶ月目の今も、多くの書店で人文書の上位にランクインしている。
『チョムスキー、世界を語る』が売れている。同じ著者の『金儲けがすべてでいいのか−グローバリズムの正体−』(文藝春秋、9月刊)も、『ノーム・チョムスキー』(』(リトル・モア、9月刊)も好調だ。ひと月に新刊3点。記録映画『チョムスキー 9.11』も立ち見が出るほど盛況らしい。 まさに、“ブームを起こす、チョムスキー”なのである。
“ブームを起こす、チョムスキー”このフレーズ、実は共同通通信社の配信により各地方紙に掲載された特集記事の見出しを借用した。そして、この“ブーム”に一抹の不安を感じている。
チョムスキーの世界の語り方が、文化として定着することが出来るのだろうか。と。
これだけ邦訳が続き、認知度が高まりつつある日本でも、アメリカ本国と同じように、まっとうな(よく吟味するという意味で)批判が存在しない。今、チョムスキーへ向けられるのは、賛辞か無視。
熱狂的支持—(メディア)→“ブーム”—(メディア)→批判→定着 というルートで、受け入れられたら良いなと思う。
同時多発テロ後に脚光を集めた印象がつよいチョムスキーだが、一貫した信念の政治思想関連著作は数多く、その数点が1970〜80年頃にかけて邦訳された。しかし、なぜか、その殆どが姿を消し、日本では、「変形生成文法理論を提唱し、20世紀の言語学だけでなく、哲学・精神科学・情報科学などにも大きなインパクトを与えた言語学者」の顔だけが残ったのだった。
数十年にわたり、異なる分野の第一線で活躍をつづけるチョムスキー、あまりに刺激的でカッコイイ。読んで、観て、存分に批判をしてみようではないですか。
(書籍)
『チョムスキー、世界を語る』(トランスビュー)
⇒書店様の仕入方法はこちらをご覧ください。
『ノーム・チョムスキー』(リトル・モア)
『金儲けがすべてでいいのか』(文藝春秋)
『新世代は一線を画す』(こぶし書房)
『アメリカが本当に望んでいること』(現代企画室)
『アメリカの「人道的」軍事主義—コソボの教訓』(現代企画室)
『ノーム・チョムスキー—学問と政治—』(産業図書)
(映画)
『チョムスキー 9.11』(配給:シグロ)
(サイト)
異分子(仮) -dissident-:チョムスキー・アーカイヴ日本語版
他多数。
読者のみなさん、「事故伝」って、知っていますか?「いやー若い頃、峠を攻めすぎて、ガケから転落しちゃってさぁ」とか、「彼女と携帯で話しながら運転していたら、前の車へ追突して鞭打ちで大変だったよ」という思い出話じゃないですよ。
書店から出した書籍の注文を調達できないと、注文票が送り返されてくるのですが、この送り返されてきた伝票を「事故伝」というのです。
ところで、私の勤務する出版社トランスビューは、取次(本の問屋)ルートを通さずに、“低正味・スピード納品”をキャッチフレーズに書店への直接卸しを中心とした営業を試みている(が、特殊な出版内容という訳ではない。
書籍の一覧はこちら→http://www.hanmoto.com/bd/idx_transview.html)。
理由のひとつは、書店のマージンを最大限に確保したいということ。プロのサービスには元手が要るものだ。仕入れルートの差が利益の差になった時、書店でのショッピングがもっと楽しくなるに違いない。
とはいうものの我社が売上的に十分貢献するには、まだまだ出版点数が少ないのですが・・・。
と、いうことで大手取次と取引のない小社の大きな悩みが、冒頭の「事故伝」。
出来たばかりの極小出版社であるトランスビューの試みを知る書店員は少なく、お客さんから注文のあった書籍を取寄せようと、つい取次へ注文票を廻してしまう・・・。すると憐れ、この注文票、<不扱い>とハンコを押され「事故伝」となって戻ってくるのです。しかも運が悪ければ、3〜4ヶ月も後に!
以前と比べれば、発注のオンライン化が進み、こうしたケースは少なくなってはいる。だが、中小書店のほとんど、大型店やネット書店の一部は、取次の作成した書誌データ(その取次と取引がある出版社のデータ)を使用している。あまり知られていないが、新聞書評などに載った本を、有名ネット書店で買おうとしても検索すら出来ないケースは、ままあることだ。結局、その本は存在するのか、どうすれば入手できるのかを調べる事は非常に労力のいる作業になる。
読者・小売店の利便性を第一に考えた出版業界共有の、データベースの整備が待望される。運営しようと活動している方々もいる。近い将来実現し、ずっと本を探しやすくなることだろう。
読者の皆さん。それまでは、小社の出版物を書店でお取寄せの際は、「“低正味・スピード納品”のトランスビューへ直接発注して下さい。」とお申し添え下さい!
トランスビュー、2001年7月に出版活動開始。
島田裕巳著『オウム−なぜ宗教はテロリズムを生んだのか』/山中和子著・養老孟司解説『昭和二十一年八月の絵日記』/老松克博著『サトル・ボディのユング心理学』の3点を刊行しました。いわゆる人文書の出版社です。
旅行関係やオンデマンド本は出していません、念のため。
事務所は間借り(約四畳半)、家具は中古&貰い物でスタートした我社の運命は?
出版社を創業したら、まずは本の問屋である「取次店」へご挨拶。業界の方へは言わずもがな、出版社と書店に対して非常(非情?)に影響力があります。全国の書店で本を売るには、この「取次店」が欠かせません。ブツとカネの流れを一手に担っています。
ということで、我社も取引口座開設のお願いに。この交渉、なかなか厳しいという噂だけれど結果は・・・。
最初の交渉から五ヶ月、取次店とは今のところ利害が一致せず交渉継続中。取引開始にいたっていません。取次店に依存する書誌データベースでは検索が出来ないなど色々と不利な条件はあります。しかし現在、トランスビューの出版物は、全国の“トランスビューは、オモシロイ”と言って頂ける書店さんの店頭で、読者の皆様をお待ちしています。
トランスビューへ参加する以前に在籍した老舗出版社で営業をしていた時、ある書店の方に言われたことがある「おたくの本は良い本だけど、あまり売れないよ。」実際、部数は捌けなかった。それでも、毎回注文を出してくれた。そして、お客さんの顔を思い浮かべながら棚を作り、注文分は大抵売り切ってくれたように思う。
小社から書店が直接仕入れた場合、取次店経由よりも入荷が早く、正味が低い(と推測される)。その分、手間のかかることも多いけれども粗利は大きい。少なくとも、客注を受けたら出版社への電話代で赤字なんて事はないだろう。手間暇を掛けて棚を作ってくださる書店の方の役にも立てるかもしれない。
「本」は個人が書いて、個人が売って、個人が読む。その個人個人にたいして、
出版社トランスビューは価値ある本を届けたい。
*読者・書店の方が、装丁・目次・本文の一部を確認してからご注文できるようホームページをOPENしています。http://www.transview.co.jp/