亜紀書房、創業50周年です
亜紀書房は1967年創業。今年で50周年を迎えました。
それを記念して、盛大なパーティを、ということはしませんが、全国の書店さんで「亜紀書房50周年記念フェア」を展開してもらっています。また、「50周年記念誌」を作って、このフェアでも無料配布してもらっています。 (さらに…)

亜紀書房は1967年創業。今年で50周年を迎えました。
それを記念して、盛大なパーティを、ということはしませんが、全国の書店さんで「亜紀書房50周年記念フェア」を展開してもらっています。また、「50周年記念誌」を作って、このフェアでも無料配布してもらっています。 (さらに…)
小さな版元に営業マンを一人置くことは版元にとってなかなか難しいものです。
編集者が営業マン的役割を兼任している版元もずいぶんありますが、私のバヤイは根っからの営業なので、編集部には営業の仕事はほとんど任せていません。
ということは、私は出版営業と名の付くあらゆる事を今までやってのけてきたことになります。
営業、といっても、ただ単に外回りをして注文を取りに行き利益を上げる、そればかりでは決してないのです。
ちょうどいい機会ですので、版元ドットコムのメールマガジンをお読みの書店さんに、小さな小さな版元の営業マンの日常を見ていただきましょう。 (さらに…)
亜紀書房では今までに、アジアを中心とした国際関連の人文書や教育関連の書籍などを出版し、おかげ様で読者の皆さんに評価を頂いています。新世紀を迎えてはや一年を過ぎようとしている今、小社の書籍群に新たな路線が加わり、パワーアップをいたします。
●節約本の流れ
当社には従来から女性書の蓄積があります。代表的なものとしては、小幡玻矢子さんの節約シリーズがあります。『超節約クッキング』『超節約生活』の2書が新刊で、地道ながら確実なファンを掴んでいます。小幡さんにはほかに『楽しい10万円生活』という一書もあります。
その流れを受けて最新刊として『シングルママの極楽貧乏生活』を発刊したばかりです。おかげ様ですぐに重版がかかり、この種の分野にはまだまだ類書が可能だなと実感しています。
著者である天竺浪女さんは、小さい子供を抱えて離婚、あまた就職試験を受けるも採用なし。その一部始終と財布の中身を彼女のサイト「はっぴい晩餐」(http://vt.sakura.ne.jp/~bansan/)で公開したところ、2年で40万アクセスを数えるほどの人気サイトになりました。ホームページ上と著書で彼女は、新しい貧乏の在り方をユーモラスに描き、脱力系の生き方こそ今に相応しいと説いています。そして、本書の影響で連載が2本決まるなど、新たな展開が始まっています。
当社ではこの節約・貧乏ラインをこれからも追いかけていきます。
●熱い生き方の女性の本
少子高齢化で女性の職場進出はもっと加速されると思われます。政府も男女共同参画社会の実現をうたっています。とすれば、働く女性のための本が必要になってきます。政治も経済も女性の関心領域に入ってくるはずです。
当社では働く女性が、いかに考え、いかに動き、いかに生きるかをテーマの中心に据えて、続々と女性書を刊行していきます。既刊としては『日航スチュワーデス 魅力の礼儀作法』『ポジティブになれる人ほど幸福に近づける』があります。
そこに『33歳、子供2人、それでもコピーライターになりたかった』が新刊として加わりました。著者は、専業主婦歴10年からプロのコピーライターを目指し、新人賞も受賞、いまは働く女性のための教室を運営し、しかも自然食レストランも開店した長井和子さん。彼女に勇気づけられて専業主婦から脱出して新たなことを始める女性が増えています。
新年にはフードコーディネーターの草分け藤原勝子さんの『私は食の演出家』、料理研究家岸朝子さんの『老いのひとり暮らし歴8年』が新刊として加わります(いずれも仮題)。
これからも女性陣の強力新刊が続きますので、よろしくご注目下さい。
毛須具呈念(もうすぐ・ていねん)(57)は休日の午後をぶらぶらと書店で時間を過ごしていた。郊外にある大型書店、レンタルビデオとCDの店も併設されていたその書店で、呈念はいつの頃からか車でわざわざここまで来て、書物の林の中を彷徨するのが休みの日の過ごし方となっていた。本を買う事もあり、買わずに帰る事もあった呈念を店員は読書好きなおじさんとして見ていた。
仕事に明け暮れ、何の趣味も持たずにこの年になってしまった事を、呈念は後悔しなかったと言えば嘘になる。周りからは無感動のオヤジとしか見られてはいない事を呈念は知っている。しかし、その中に情熱の種火がほのかにともっている事を未だ呈念は知らない。それでも、どうにかしなければならないとは感じていた。なにかはしたいのだ。なにかが。そのなにかを求めて、呈念は林の中をさまよっていたのかもしれない。今日はそのなにかと出会えるかもしれない、そんな希望を求めて…。
いつの間にか呈念は趣味.実用の棚に来ていた。
「なにか…なにか…なにか…」呈念はそう思いながら、なにかを探していた。
「こ…これかなあ…いや、違うな…」「イヤ、待てよ…」独り言を言う老人を好もしく思ってはいなかった呈念だったが、いつの間にかそんな年代になっていた事に気づいたのはつい最近のことであった。それ以来、「なにか」を見つけたい欲求がひときわ大きくなってきたのだった。
ふと、平台にあった本に目をやった呈念は、その本を手に取った。
『定年後は夫婦で「こだわり」の海外旅行をしよう』
その表紙には風景の中、並んで睦まじそうな、熟年カップルがいた。
「しばらく、カミさんと旅行にも行ってないなあ…」呈念はため息をついた。
妻との老後の関係は、『今はもう 飯食うだけの 夫婦なり』そんな戯れ川柳の境地なのかなあ、呈念はそう思ってはいたが、週刊誌やテレビなどで『熟年離婚』などと言うコトバが踊っているのを見て、そういう甘い老後像を考えていた自分を恥じ、焦り始めていた。何とかしなければならない、と。
口幅ったいし、何より気恥ずかしいので呈念は口には出さないが、一生妻と暮らしたい、妻と何かを作り上げて行きたい、そんな気持があった。あったけれども、…仕事にかまけて、妻との関係作りなど、ほとんどしていなかったのだった。
平台には、『海外旅行』の本の他に5点、『シニアブックシリーズ』と銘打たれた本が並んでいた。
『定年後は心なごむ「レストラン」を始めよう』
『定年後は「ゴルフ」でシングルの腕前をめざそう』
『定年後は「写真」に凝って仲間を作ろう』
『定年後は「庭師」になって自然相手の仕事をしよう』
『定年後は「般若心経」で悔いなく生きよう』
その中の一冊に呈念は手を伸ばした。
『定年後は心なごむ「レストラン」を始めよう』と題されたその本は、表紙にそのレストランの店長と従業員がその店のご自慢のメニューであろう、弁当を手に笑った写真があった。
「レストラン、か…昔、二人で言ってたなあ、オレが会社を辞めたら、…二人でお店を持ちましょう、とか…もう、何十年も前だったが…今から料理の勉強をしてみようか…?」
呈念はそんな事を考えながら本をめくる。
「この人の息子さんは障がい者だったのか…若くして亡くなって、…障がい者でも入れるレストランを作ろうって、約束してたのか…ははあ、レストランえりかの人気レシピ、か…作れるかなあ、このオレでも…」
「『定年後は「ゴルフ」でシングルの腕前をめざそう』かあ…オレもこの人と同じ、ブービー常連、もっと上手くなりたいと思いはしたけれど、…今からでも、上手くなれるのかなあ…?うーむ、USGAのハンデが7か…うーむ」
「『定年後は「写真」に凝って仲間を作ろう』そういえば前に買ったミノルタがあったっけ…ちょっと使ってそれっきりの…折角のオートフォーカス、高かったのにってカミさんに怒られて…うーん、仲間、かあ…」
「こっちは…『定年後は「庭師」になって自然相手の仕事をしよう』この年になっても、手に職を付ける事ができるんだ…」
「『定年後は「般若心経」で悔いなく生きよう』ああ、『執らわれない心』か…志すのに遅すぎると言う事はない…そうか…」
「こんな本が、あったんだ…」
呈念は目からウロコが落ちた思いだった。
ふと、どこから出ているのか確かめて見ると、『亜紀書房』とあった。
ああ、亜紀書房…若い時読んだ記憶がある…昔、学生運動をしていた頃、先輩に本を貰って…なんだったっけ…ああ、そうだ、『砦の上にわれらの世界を』だった。…あの頃はまだ情熱があったなあ…そうそう、公害問題とかでも本があったっけ…『公害原論』とか…まだそういう本を出してるんだろうか…。
呈念は人文書の並んでいる棚に来た。
「ああ、あるある…『公害原論』だ…『泣くものか』…ああ、『凍土の共和国』…最近の本は、…へえ、『韓国両班騒動記』こっちは…『アメリカ大統領の中東.アジア政策』『挑戦するアメリカ高齢者パワー』ははあ、こんなのも出してるのか…うーん、亜紀書房も今でもこういう本を出して頑張ってるんだなあ。」
いつの間にか呈念は、先ほどとは打って変わった目の輝きを有していた。
「オレは若い頃の力はないけれど、もっと定年後の人生をポジティブに過ごしたい!妻と、残りの人生を楽しく、心豊かに生きて行きたい!」呈念は心からそう思っていた。
夢物語と言われるかもしれないけど、レストランを作ってみたい!
今度こそ、ゴルフが上手くなりたい!
押し入れのカメラで腕を上げて、そうしたらカミさんと二人、海外旅行をしよう!
庭師になる、ってのもいいな。手に職をつけたいな!
呈念はしっかりとした足取りで趣味.実用の棚に行き、シニアブックシリーズ6冊すべてを買って行った。
それからしばらくして、呈念宅の近所の人たちは、家を改造した『ビストロもうすぐ』の店のカウンターで、呈念の妻からヨーロッパ旅行の土産を貰い、旅行の写真を見て、ころころと笑っていた。
カウンターの中には、すっかり血色が良くなり、口髭をたくわえた呈念の姿があった。
(つづく・…かもしれない)