「知っていますか」に込めた思い
パンダの名前を聞かれて「シンシンとリーリー」と答える人は若者。私などは反射的に「ランランとカンカン」と叫んでしまいます。もちろん、「日中国交正常化」を記念して中国から贈られた2頭、日本人の中国に対するイメージを一変させた、極めて優秀な外交官です。
では、パンダ以前の中国はどうだったかというと、一言で表せば「謎」の国でした。謎ゆえに憧れる人もいましたし、忌み嫌う人もいました。そして、この正反対の評価するいずれもが、本当の中国の姿をほとんど知らなかったのです。
チャーをさすまたで捕まえる物語は何でしょう? はい、魯迅の「故郷」です。あの小説を中学生に学ばせるのが妥当なのかどうかはさておき、私がまず驚いたのは、「竹内好訳」となっていたことでした。漢文というのは「書き下し」で自動的に翻訳できるものじゃなかったのか…というのが恥ずかしながら当時の私の認識でしたから。それほど「現代中国」は日本人には知られていなかったという話。
小社が手がける本の多くは専門書・学術書です。最近出した、『『南山俗語考』翻字と索引』(岩本真理編)
や『江戸時代の呂氏春秋学』(土屋紀義・佐々木研太編著)
にしても、必要としている人にとっては「良い本」だと自負しているのですが、残念ながら必要としている人の絶対数はあまり多くないようです。
また一方で、個人的な繋がりで出版を持ちかけられることもたまにあります。『友好商社を知っていますか?』
がまさにそれでした。原稿を一読、こなれた文章ではないので本にするのは大変だと思いましたが、謎だった1960、70年代の中国の姿がそこにはありました。単なる「自分史」にはしないという方針で、友好商社のことが中心になるよう書き直してもらいました。この時に既に私の中でタイトルは決まっていました。「××××を知っていますか?」というタイトルを今改めて調べてみると、いやあこんなにあるとは思いませんでした。××××にはいろんな言葉が入ります。「虎頭鎮」「米国看護教練生部隊」「昭南島」「ロマ」「PMS」「伊東忠太」…知らん。かと思えば、誰でも知っているようなのもあります。「バルタン星人」「水俣病」「論語」「源氏物語」「イソップ」「コーラン」…あ、そうそう阿刀田高さんの本はよく読みました。知っているようで(本当は)知らない××××をやさしく解説してくれていました。「友好商社」はどちらでしょう? 文字面だけ見れば簡単にわかりそうですが、説明してみろと言われてちゃんと答えらる人は少ないでしょう。しかし、中には「知らいでか!」と思わず机を叩く人もいるはずです。この言葉に懐かしさを覚える人と、新鮮に感じる若い人たち、その両方に読んでいただきたいと思ってタイトルにしました。
というのは建前です。本当は大好きな作家だった北森鴻さんの『香菜里屋を知っていますか』が頭の中にあったのです。48歳で亡くなった作家を偲びつつ、今宵はおいしい料理を肴にビールでも飲みましょうか。