『わしの研究』出版余話
こんにちは。愛媛県松山市で家内制手工業的出版をしている創風社出版と申します。
この度、版元日誌に出稿の機会を頂いたので、小社がこの春出版した本、『わしの研究』のことを話したいと思います。
著者の神山恭昭さんは、私が出版社を始める前、仕事にしていた喫茶店時代からの客、かつ友人で、33年前、小社が初めて出版した本が、彼の『絵日記 丸山住宅物語』でした。『わしの研究』は彼の著になる6冊目の本。思えば長いつきあいで、人生のほぼ半分の時間を、創風社出版の歩みの傍らにいてくれた人物です。
彼の本の特徴は、なんと言っても、オール手描きであること。いわゆる「ヘタウマ」の漫画タッチの絵に、とつとつとした松山弁で飄々とした文を、(これもはっきり言いますが)下手な字で添えています。これが何とも言えない味があって、当地では一部に熱狂的なフアンを持つ絵日記作家なのです。
地元紙・誌に長年の連載コラムをもち、その一方で、年に一度はやってるかな、結構なペースでユニークな絵やオブジェの作品展を開催し、かつアート的イベントには腰軽く参加して朗読したり喋ったり・・・作品もですが、本人も、「飄々」を絵にしたような御仁です。
さて、『わしの研究』。初版は何冊にするべきか? 前著『わしの新聞』出版のときは、若気の至りか頑張ってつくりました。出版当初はなかなか動かず、著者としては落胆したらしいのですが、いつのまにか在庫の山が小さくなっています。「よし! 前回と同じでいこう」。すると神山氏、本の置き場が・・・と、在庫の本で埋まっている我が倉庫を眺めます。そうして自分のアトリエを在庫の置き場として提供してくれるという、有難い提案。大助かりです。かくて、本が出来上がり、大量の本が神山氏のアトリエに運び込まれました。
・・・うなされたそうです。「この本の山がなくなっていく自信がない」などと。
「大丈夫。『わしの新聞』も、いつのまにか残り少なくなってるんだから。『わしの新聞』、来年にはなくなるかもなあ」
神山氏、しばらく考え、呟きました。「これから20年…。そんなに長く頑張れるだろうか…」
え? 20年?・・・・なんと、彼の新作『わしの研究』の出版、前作『わしの新聞』から19年経っていたのでした。
なるほど、『わしの研究』発行ののち、各地から「神山さん、まだやってたんですね」の声が届いてきました。地元では連載、展覧会、イベントなどのリアルタイムの活動で「やってる」ことは知られていましたが、地元を離れて彼の活動を伝えるモノは、やはり本。その本が、なんと19年ぶりだったのです。つい、申し訳ない・・・と思ってしまいました。というのも、この間、何度か出版の計画を立てながらも頓挫してしまっていたのです。いえ、頓挫の原因は、彼が展覧会やイベントの期日に追われて出版の企画を詰め切れなかったからなんですけどね、叱咤激励の足りなかったこちらにも、少し、責任があるようで。
そんなこんなのこの度の出版。小社にとっても第一作目の『絵日記 丸山住宅物語』からの33年を振り返ると同時に、20年という時間を考えることにもなりました。確かに、これから20年・・・「今」みたいじゃないのは、確かだなあ・・・