新聞に広告を載せてみよう
スタイルノートの池田です。1年半以上ぶりの版元日誌です。
みなさんは新聞に広告を載せていますか? 今回は時々質問されることがあるので、新聞広告のことがイマイチよくわからないという方向けに、弊社の経験や豆知識をつらつらと書き綴りました。
「書籍の新聞広告にはもう効果が無い」としばらく前から言われています。確かに広告を掲載しても反応があったのかなかったのか、版元側にはなかなかわかる術がありません。ところが、ここ一年、新聞広告の効果を実感することがあったので紹介したいと思います。
2016年10月。朝日新聞に『金賞よりも大切なこと』
のサンヤツ広告を掲載しました(※サンヤツとは、新聞の第一面の下部に8つ書籍の広告が掲載されているもの)。この本は、2009年に刊行した本で、刊行当初は広告を出す余裕もあまり無く、当時はまだやっていた新刊委託(その後やめた事情はこちら)もあまり効果がなく返品が多かったのですが、評判が広がり、その後重版を重ねて、今ではスタイルノートの中での総刷り部数1番の本です。10月はちょうど吹奏楽コンクールの季節でもあるので、試しに載せてみたのです。
新聞に掲載された翌日から客注がきました。他の仕事が手に付かない、というと大げさですが、3本ある電話回線がふさがることもありました。また、VAN経由の注文も急増していました。こんなことなら、事前にFAX・DMを流したり、その月の「注文出荷制でた本でる本」の共同DMにこの本を大きく載せておけばよかった、と悔やんだもののあとの祭。
このサンヤツ広告の効果で売れた冊数が何冊なのかはもちろんわかりませんが、毎月100冊程度の出庫数だった本が、この月だけ648冊も出庫されているのですから、確実に効果はあったといえるでしょう。しかし、まだまだ知らない人が大勢いるという証でもあり、これからどうするかを考えているところです。
次に興味深かったのは、2016年6月に各紙にサンヤツを掲載した『津川主一の生涯と業績』。
賛美歌の日本語訳などで著名な人物の伝記で、朝日、読売、毎日の他、地方紙とキリスト教系新聞にもサンヤツを掲載しました。地方紙は、広告代理店の担当者が県別のキリスト教信者数リストを持ってきてくれて、信者数の特に多い長崎県や兵庫県などの新聞に掲載しました。
これもなかなか反応がよかったのですが、特徴的だったのは書店とは別に、広告を見た方からの電話が多かったことです。「私の父が津川主一さんと親しかったので資料がある」といった情報や、「津川先生の指導を受けていた合唱団で、ちょうどこんど○○周年記念の会がある。そこで当時の楽譜を探しているので著者と連絡をとりたい」とか「著者と中学まで仲良しでその後九州へ引っ越してしまって連絡がとれなくなっていた。ぜひ連絡をとりたい」といった、感想だけでなく著者と連絡をとりたいという問い合わせも数多くありました。当然本も買っていただいているわけで、中にはまとめて20冊買いたいという方もいらして「一般の方が20冊!?」と、ちょっとアワアワしてしまいました。しばらくしてからは、「おかげさまで著者の方に協力していただいて……」といったお礼の電話や手紙も頂戴し、この時の広告はもちろん売上にもつながったと思いますが、それだけではない新聞広告の力を感じました。
さらにもう1冊。それは2017年5月の最新刊『先生のための楽典入門』です。
学校の先生に限らず、ピアノの先生や幼稚園の先生などもターゲットにした楽典の入門書です。「先生のための……」と書名をつけたので、売れ行きが鈍いのではないかと若干の心配がありましたが、これも、朝日、読売、毎日にサンヤツを掲載。
ちょっと話はずれますが、この3紙にサンヤツを掲載する時は、できるだけ掲載日を離して掲載するようにしています。どの新聞で効果があったのか知りたいのと、例えば、図書館のスタッフさんや利用者の方、職場で各紙揃った環境で新聞を見てくれる人がいることを想定すると、同じ日に載ってるよりもバラバラに載っていたほうが、何度も目にしてくれるかなという期待によるものです。
ところが、この本の時は、大人の事情があって、読売と毎日が同じ日で朝日が翌日と固まってしまったのです。掲載直後から、パラパラと客注の電話が来ていました。それから5日ほどした日曜日の朝日新聞読書面にも12割(※6つずつ2段に12の広告が出る読書面の広告)で『先生のための楽典入門』を載せました。その翌日の月曜日。これが、最初の『金賞よりも大切なこと』の時ほどとは言わないまでも、朝から客注の電話が続きました。
「サンヤツは効果がないよ」という以上に「12割なんて載せるだけ無駄」という人もいるくらい効果が無いと言われているのですが、今回はそれが当たったのか。はたまた、サンヤツの効果が遅れて出てきたのか。本当に新聞広告は謎が多いです。「ウチはこんなだよ!」「その謎の答、知ってるよ!」という方がおられましたら、ぜひ教えてください。
ここまでは、スタイルノートの新聞広告に対する反応の紹介でした。ここからは、時々尋ねられることがある、新聞広告のミニ知識(弊社だけのかたよった情報かもしれませんが)を紹介します。もう少々お付き合いください。
●新聞広告ってどうやって作るの?
◎スタイルノートの場合はすべて自社で作っています。朝日新聞以外は、Illustratorでアウトラインをとったデータを広告代理店に渡してそれが掲載されます。朝日新聞は出した広告を元に代理店が専用の原稿用紙に手書きの原稿を作り、新聞社がデータを作ります(昔はどこの新聞もそうだったそうです。また、最近は手書きでなくてもよくなったそうです。でも原稿提出)。サンヤツや12割の広告には割と厳密にルールがあって、使える文字のサイズや線の太さや種類などが決まっています。そこで、はじめてサンヤツを作った時からずっと参考にさせてもらっているのが、白水社の宣伝部の方が以前ホームページで公開されていた「かんたんサンヤツ講座」です。いつの間にか、このページはなくなってしまったようなのですが、最初に見た時に全ページを保管しておいたので、いまだに参考にさせてもらっています。この著者の方に会うことができたら心からお礼を言いたいです。どなたかご存じでしたら、どうぞよろしくお伝えください。
●新聞広告ってお高いんでしょ?
◎新聞広告の値段には定価があります。しかし、実際には値引きがあって、金額は出版社によってまちまちなようです。広告代理店が新聞社との間に入って1枠掲載がいくらになるのか、値段の交渉をしてくれるのです。ちなみに、広告代理店は一度頼むと変えるのが結構面倒です。例えば読売新聞にA広告代理店を通して広告を掲載したとすると、次にB広告代理店に頼んでもすんなりとは行きません。A広告代理店に対して読売新聞の広告掲載を今後はB広告代理店を通す旨を了承してもらわないと読売新聞はB広告代理店経由での広告掲載を受け入れてくれないのです。その手順を踏めば変更してもらうことも可能です。スタイルノートがお願いしている広告代理店は、この版元ドットコムの仲間に教えてもらった代理店。広告代理店によって値段(相場)が違うということがあるようで、値段が高ければ確実に指定した日に広告を載せられたり、広告も作ってくれたりするようです。逆に、ギリギリまで掲載日がわからなかったりするけど値段は少し安いということをやってくれる代理店もあるようです。とにかく、値段はばらばらなのです。スタイルノートが紹介してもらった広告代理店にはYさんという名物営業マンがいて、その人に新聞広告のイロハから教えてもらいました。「○○新聞に出そうかなぁ」と言っても「うーん、やめといたら? もうちょっと安いところ探そうよ」と言ってくれるような営業マンさんでした。営業マンとの相性も大切かもしれないですね。このYさん、版元ドットコムの集会や新年会などにも毎回顔を出してくれてましたが、昨年突然倒れられて帰らぬ人となってしまいました。その時は「Yさん亡くなったって本当?」って、あちこちから電話がかかってきました。亡くなる少し前にも弊社へ来てくれておしゃべりしていたので本当に驚きました。「みんなで偲ぶ会をやろうか」という声がでるくらいに版元から頼りにされている人でした。改めて心からご冥福を祈ります。後任のスタイルノート担当となってくれた方は、Yさんと違ったやり方で、全国の新聞別購読者数一覧を持ってきてくれたりして昨今の事情を色々と教えてくれます。また、Yさん同様に新聞社との交渉をうまくやってくれたりと頼りになるので助かってます。
●ブックサービスとかブックライナーってなに?
◎ちょっと前まで、多くの版元のサンヤツの最下部には「お買い求めは書店かブックサービスへ」と書かれていたものです。これについてはご存じの方も多いと思いますが、ブックサービスは取次の栗田とヤマト運輸が共同ではじめた通販会社です。電話で本の通販ができるので、自社から発送して代金回収するのが面倒な版元は、サンヤツにブックサービスの電話番号を掲載していたわけです(2016年秋にブックサービスが楽天ブックスと統合。電話での通販はブックサービスの名称で継続されています)。ところが、スタイルノートの場合、わざわざ会社まで何度かブックサービスの営業さんも来てくれたのですが、栗田に口座の無いスタイルノートはブックサービスに在庫を置きにくいという状況にありました(日販もトーハンも大阪屋も太洋社も日教販も口座を開いてくれたのに、栗田だけはなぜか口座を開いてくれなかったのです)。在庫を置いてもらわないとお客さんが電話をしてもすぐに送れないわけですから「こちらへ」と案内するわけにはいきません。そんなある日、ブックライナーの人がやってきました。ブックライナーもブックサービスと同じようなサービスをやっています。ブックライナーはトーハンがやっているので、トーハンの口座ならあるスタイルノートはブックライナーにお願いしています。なので、サンヤツの最下部は「お求めは書店またはブックライナーへ」となっており、掲載する本は数十冊、多いと100冊以上ストックしてくれることもあります。それでも時には注文が相次いで品切れてしまうこともあり、そんな時は宅配便で直送することもあります。ちなみに、ブックライナーは、書店からの客注品を宅急便で書店へ送るサービスや、オムニ7(旧セブンネットショッピング)、ブックファン(旧boox)等通販の発送も手がけていて、ブックライナーのストックはそれらの在庫としても活用されています。
ここまでながながとお付き合いくださりありがとうございました。
我流でやっているところも多いので、一般的でない事例もあったかもしれませんが、こういう版元もあるのだなぁと思って読んでいただければ幸いです。また、もっとよい方法、情報があったらぜひ教えてください。