“うみ”のある国から
お疲れ様です。サンライズ出版です。この「お疲れ様」、問題になっていますね。タモリが、子役のこの言葉が気になると言ったのがきっかけだとか。
かんがえてみると、目上の人に向かって「お疲れ」はないと思いますが、このニュアンスが分からない人もいます。使用禁止の企業もあるそうです。
もうし遅れました。私どもサンライズ出版は、滋賀県の本をメーンに作っています。歴史、自然から民俗まで滋賀に関わることなら何でも取り扱います。
ところで、この言葉のギャップ、本を作る立場からは慎重にならねばなりません。冒頭の例は世代差でしたが、地域差もあります。そう、方言です。
たとえば、弊社の『ええほん』は方言を取り上げたもので、以前にこの版元日誌で編集担当が取り上げたこともあります。言葉は、変わりにくいものだ
ろうと思いがちですが、それを使っている当事者には、なかなかその違いが分からないものです。例えば、上記の本にも書いてありますが、
うみといえば、滋賀県では“琵琶湖”を指します。お隣の福井県に行けば、本物のうみ(日本海)がありますが、これは
しおうみと呼びます。具体的な使用例として、琵琶湖で多くの小学生を載せて運航する学習船「うみのこ」は淡水湖なのに“うみ”のこという名前です
が、なぜ“うみ”なのかと疑問をもつ滋賀県民はいないでしょう。さて、問題はここか
らです。世代(時間)や地域(距離)によって言葉は変化するのですから、書籍を編むときには多くの人に内容が伝わる言葉選びをせねばなりません。
きっとこう受け取られるという言葉の感覚が必要なのです。上記の例をひけば、琵琶湖のことを記した『うみの本』を出版しても、滋賀県以外に住む人
へは、その内容が伝わらず「どの海の話だろう」と思われてしまいます。もちろんタイトルの付け方に
絶対はありません。しかし、意図が伝わらなければ本を手にとってくれる可能性もないわけです。
賛否両論あるでしょう。大衆に阿る書籍は作りたくない、分かる人だけ手に取ればよいという人もいると思われます。
はたして結論など出ませんが、私の体験を一つ。昔、編集の先輩から「編集者に必要な資質は好奇心だ」と教わったことがあります。この言葉を
つらつらと考えるに、これは、アンテナを高く持ち、出版企画や時流に加えて言葉に対してもその変化を見逃さぬようとの意味なのではと思い当りました。
売れる本すべてが分かりやすいタイトル、内容ではないでしょうが、伝わる言葉を常に心がけよとのことなのでしょう。出版業界に縮小の兆しが見える
中、少なくとも手に取っていただいた皆様には、滋賀県のことを分かっていただける本を刊行していきたいと考えています。
読みにくい文章最後までありがとうございました。
突然文章と関係ない書影が入って「何事か?」と思われている人もおられるかと思いますが、ブラウザを最大化していただき、上記のそれぞれの行の一文字目を縦に読むと……(スマホなど画面の狭いデバイスですと縦に読めないかもしれませんが)。そう、『岡本太郎、信楽へ』絶賛発売中。弊社新刊です。芸術家岡本太郎の焼き物の作品「太陽の塔の背面にある黒い太陽」「坐ることを拒否する椅子」などがなぜ信楽で作られるようになったのか、その背景をその土地の歴史と信楽の関係者へのインタビューから明らかにしています。ご興味のあるかたは手に取っていただけるとありがたく存じます。こんな弊社ですが、今後ともお見知りおきを。