その後の「JPO近刊情報センターと近刊検索β」
2012年2月にこの版元日誌で「JPO近刊情報センターと近刊検索β」と題して、立ち上げてからほぼ一年が過ぎたJPO近刊情報センターと、公開後半年が経った近刊検索βの話を書きました。今回はその後のJPO近刊情報センターと近刊検索βについてご報告させていただきます。しばらくお付き合いください。
と、その前に、前回の記事等、関連のURLをまとめておきます。
●「JPO近刊情報センターと近刊検索β」版元日誌
ざっとおさらいしておきます。JPO近刊情報センターは日本の出版社がこれから出す本(近刊)のデータを集めて有効に活用しようという仕組みで、一般社団法人日本出版インフラセンター(JPO)により運営されています。私はこのJPO近刊情報センターの推進委員であり、普及促進ワーキンググループのリーダーでもあります。それもあって普及促進に努めています。ちなみにボランティアです。開始までのいきさつとセンターの意義・目的については以下のURLの記事もご参照ください。2011年6月にマガジン航に公開したものです。
2011年4月の立ち上げ時には、131社が参加、4月刊行予定の837点の近刊情報が登録されました。2012年2月21日時点で、参加出版社数は230社、一ヶ月の近刊登録点数は1,900点近くになっていました。そして、2014年3月26日現在、参加出版社数は474社、一ヶ月の近刊登録点数は3,100点を超える数に達しています。
2012年2月の版元日誌では「2012年4月までに参加出版社数500社を目標」と書いています。2014年3月の時点でも残念ながらそこまでは到達していません。が、少しずつではありますが、着実に増えてはいます。参加出版社数が増えた理由の中でも、「書店と取次が(部分的にであっても)利用を始めた」ことによる影響は非常に大きなものがあります。書店や取次によっては「事前の情報はできればJPO近刊情報センター経由に一元化して欲しい」というところもあり、そういう呼び掛けによって、特に事前の情報を棚で埋もれてしまう前にしっかりと告知したいと考えている中小零細出版社が続々と参加し始めています。近刊情報を提供したからといってすぐに売行がよくなるということはありませんが、これだけ沢山の本が世に問われる中でなんとかその存在を知らしめたい、そういう気持ちは出版に携わる人間なら必ず持つものだろうと思われます。その意味では近刊情報の提供とその一元化は出版社にとって大きな意味があるはずです。
では、逆に書店にとってはどうでしょうか。実は、センターの普及促進を図るためにあちこちで出版社や書店の方々と話す中で、「近刊情報を一元化したところで得をするのはそれを上手く使えるごく一部だけなんじゃないのか」と、問われることがあります。当初はなんと答えたものかと迷っていましたが、最近は自信を持って「集めて得をするところが独占しようとしていた情報を、誰でも使える形にすることによって独占を防ぐことが目的だ」と答えられるようになりました。こう言い切れるのには根拠があります。その根拠とは、JPO近刊情報センターが採用しているONIXという国際標準規格です。ONIXはイギリスに本部を置くEDItEURが中心となってまとめているEDI(電子商取引)のための情報を整備した規格ですが、JPO近刊情報センターではその中でも書籍のEDIのために作られたONIX for BOOKSを採用し、日本国内だけでなく国際的なところまで見据えた標準化を進めています。このONIXを採用したことによって「近刊情報」は独占を免れました。ISBNコードのように低い障壁で広く使ってもらえるものになることができたのです。とはいえ、ONIXはXMLなので、XMLそのものの利用が大きなハードルであることは事実です。
そこで、JPO近刊情報センターのONIXをどうやって使うかを自ら試してみるために、試行錯誤の場としての「近刊検索β」を作りました。近刊検索βを作って半年ぐらいの感想は2012年2月の版元日誌に書いたとおりです。わざわざ勉強して作ってみて本当によかった。技術的に足らないところが多くてもどかしいところもありますが、ほぼPHP(というフリーのプログラム言語)だけで色々できることを知ったのは、自分にとって大きなプラスでした。
さて、順調にアクセスを伸ばしていた近刊検索βですが、2012年暮れのあたりからTwitterでリンクすると「危険なサイト」として警告が表示されるようになります。原因不明のまま3月からはRSS配信をスタート、利用者が急速に増えていきます。ところが3月の半ばから突然に動作が不安定になり、間借りしている版元ドットコムのサーバーが何度も落ちてしまうという事態に陥ってしまいました。こうなってしまうとお手上げです。版元ドットコムに迷惑をかけるわけにもいかないので、断腸の思いではありましたが、近刊検索βの公開を一時中断しました。
そこからしばらくは、何が原因でサーバーが落ちてしまったのか、Twitterでのリンクで「危険なサイト」と表示されてしまう理由は何か、それらを調べるとともに根本的な対策を模索しました。理由はなかなか分かりませんでしたが、サーバーに極端な負荷がかかっていたということだけは明確です。なので、プログラムをサーバーに負荷のかからない仕組みに全面的に書き直すことに決めました。4月末からの連休中に作業を行い、5月9日に部分的に再開。ホッとしました。その過程でTwitter警告の根本的な原因も判明したので解決。8月にはRSS配信も復活。以前よりもアクセスは増え、9月には月間10万ページビューを突破。以前は無かった機能を付け加えたりしつつサイトの改善は常に続けています。2013年の年末と2014年の年始には転送量を大幅に減らすためのプログラム書き換えに着手。またまた不安定になりつつあった状態を大きく改善することに成功しました。1月には異体字検索にも対応しました。
つい先日、近刊検索βに今までのサイトの機能とはちょっと発想の違う新たな機能を追加しました。「書店店頭用予約カードの生成」という仕組みです。これは、CDショップの店頭での新譜事前予約のように書店店頭でも「予約カード」というものを並べて予約を取ってみるのはどうでしょうか、という提案を具体化したものです。意図や詳細については以下をご参照ください。
これからも近刊検索βを使って様々なことに挑戦してみたいと考えています。すぐにでもやりたいのは海外向けの情報発信です。せっかく国際標準規格を使っているわけですから、そこはすぐにでも実現したいところです。あともうひとつは、分類の国際標準をめざして動き出している Thema Project に準拠した分類を行うこと。日本のC分類は内容以外に判型も含んだ分類なので整合性を保つのが難しい気もしますが、なんとかすりあわせたいと考えています。あと、これは近刊情報とは別ですが、前々からやりたいやりたいと言い続けてそのままの「増刷情報を集めたサイト」についても、そろそろ本気でなんとかしたいです。
ということで、自分としてはこれからもJPO近刊情報センターにも近刊検索βにも積極的に関わっていくつもりです。今後ともJPO近刊情報センターと近刊検索βをよろしくお願いいたします。