第18回読売出版広告賞特別賞受賞とサンヤツ広告
先日思いがけず、読売出版広告賞という賞を受賞してしまいました。ほんとうに「思いがけず」という表現がぴったりで、棚からぼた餅としかいいようがなく、嬉しいんですが素直に喜べないところもあります。贅沢な悩みです。版元ドットコムの会員社では、語研さんが以前受賞したこともある賞です。
○第11回 社内制作の新聞広告が受賞(高島利行の出版営業の方法)
ここにも書いてある通り、出版広告の活性化と出版界の発展に貢献することを目的として、1996年に創設された賞で、大賞・金賞・銀賞・銅賞と、朝刊一面の「3段8割(サンヤツ)」広告に限定した特別賞が受賞した広告主に贈られるものです。
○読売出版広告賞
http://adv.yomiuri.co.jp/yomiuri/kksyo/kksyo.php
ちなみに受賞した広告というのがこちらになります。2013年1月21日の読売新聞朝刊に打った3段8割広告です。選評にはこうありました。
——-引用——-
伝えたい情報を絞りに絞り簡潔に、紙面は大胆に空白を生かし目立たせ効果を上げる表現が主流の白い紙面、とは全く逆の発想の黒い紙面で目立つ広告に勇気ある挑戦をしたのが笠間書院。隅から隅まで無駄、無理なく整然と情報を満載、蟻の入る隙もない見事な構成。日本の歌の歴史に残る伝統の歌人から前衛の歌人まで大きな足跡を残した名は明朝体、タイトルはゴシックと活字を吟味し、大小強弱をつけて徹底して細部にまでこだわった黒い紙面は、白か黒かの審査では異色の黒の勝利に。全60冊という空前絶後の選集が凝縮された豊潤で密度の高い広告で読者を歌の世界へと誘うことになる。(中森陽三選評)
——-引用終わり——-
確かにこだわって作ったつもりですが、これは宣伝したい本が60冊におよぶ「コレクション日本歌人選」という「シリーズ物」です。限られた紙面に60タイトル全部のせるか、のせないかという判断で、「のせる」という判断をした以上、こうなってしまうのは自然な成り行きです。
読売新聞は、サンヤツ広告について、出版社が作ったデータを入稿することが可能です。今回受賞したものもMac(イラストレーター)で社内で作ったものでした。ですのでこんな無茶ができました。
ちなみにMacで作って入稿できる広告は楽なのですが、新聞社の社組で制作しなければならない場合もあります。代表的なものが、朝日新聞です。このときに参考になるのが以下のサイトです。
○かんたんサンヤツ講座(クラブ白水社バックナンバー)
http://www.hakusuisha.co.jp/club/sanyatsu.php
「サンヤツの極意は「テキトー」にある。」という名言が心に響きます。これを読む以前は、きっちり原稿用紙に指定を書いて入稿していましたが、最近はこのサイトで解説されている文字の大きさをMacで再現して、それをFAXで入稿して適当に組んでもらっています。初校が出てからが勝負といいましょうか。そんなつもりで入稿しています。
朝日新聞の広告料は近ごろは安くなったとは言え、まだまだ他社に比べると高いです。それだけ頻繁には出稿できませませんし、出すときは力を入れて作ります。
今回の受賞の記念に「サンヤツ広告」について日頃弊社なりに気をつけていることをいくつか書いておこうと思います。最近の弊社サンヤツを例にします。こちらです。
http://book.asahi.com/sanyatsu/TOP/intro/ADTLM20131215106.html
デザイン的なことはさておきます。「サンヤツ広告」を出したら、なんとか元を取りたい。少ない予算の中で、投資を最大化したい(とても規模が小さい話ですけど…)と誰しも思うはずです。
1.住所には郵便番号も入れる。
広告を見た人が気になった時に、シンプルに行動が起こせるための配慮です。サンヤツ広告を打つと、それを切り抜いてハガキに貼って送ってくることは、ままあります。宛先を書くところに、下段の会社情報をペタッと貼ってくる人がいるのです。郵便番号が抜けていると、それが出来ません。サンヤツ広告には「神田・神保町」など住所を省略しているものもあり、かっこいいのですが、弊社の場合、実利には結びつきにくいので、なるべく避けるようにしています。
2.内容見本進呈など、読者がアクションを起こせるきっかけを入れる。
本が気になって、買うかどうか迷っている人をひと押しするためのものです。買う前のワンアクションをとれるようにするといいますか。実際「内容見本」を送って購入に至らずとも、一緒に送るPR誌や販促物を見て貰って、別の本を買って頂けることもあります。「内容見本進呈」と広告に書く場合、内容見本が用意できるものは、事前に用意しておきます(面倒な場合は、目次と本文の一部をコピーして送るのでも構わないと思います)。ここに挙げた見本では、広告した本自体に「見本進呈」とした上、さらにPR誌の無料進呈の告知もしました。興味をもってくれた人と接触することを目的とします。
3.電話・FAX・メールアドレスを入れる。
電話はもちろんですが、FAXも必ず入れます。FAXで問い合わせが来ることもあります。また、メールアドレスも効きます。ウェブのURLを入れるスペースがあるのなら、メールアドレスの方が有効かもしれません(なんとも言えないのですが)。新聞に書かれたURLを直に入力する人はまずいないと思います。たいてい検索サイトで版元名を検索しているはずですので、デザイン的に利用する以外の場合は不要と考えています。
4.サンヤツを打つときに同時にやること
大手新聞に広告を打つときには、書店向けにその告知もします。こんな感じです。この場合、直接注文を取ることは目的とせず、書店員の方へ向けた案内に重点を置いています。これですこしでも目立つように並べてもらえたら御の字なのですが、検証したことはありません。また、広告が出た日には自社ウェブサイトに広告を打ったよという案内を載せ、本の内容がわかるページへリンクを張っておきます。それをTwitterでも流したりするようにしています。
5.日頃から「サンヤツ」力を鍛えるために
新聞広告をどのタイミングでどこに出すかなど、試行錯誤しますが、結局経験を積んでいくしかないと思います。広告を打ち続けるなかで、抽象的な概念を扱った本や読者対象がしぼられる本は、いくら広告を打っても反応が鈍いというのはわかってきます。
ちなみに個人的によくやるのが、サンヤツエアチェックです。サンヤツ広告を出したつもりになって、Amazonの売上げを一日チェックし続けます。
○今日のサンヤツ(朝日新聞)
http://book.asahi.com/sanyatsu/index.html
同業他社の広告を中心に、この本どうだろう?という野次馬根性で、Amazonの順位をチェックするのです。自社でサンヤツ広告を出した時の感覚を基準に、売れ行きを見ます。勉強になるのでおすすめです。
そういったことを経て、広告にも編集力が必要で、時に文章を練り上げなければ、届く物も届かないということも分かってきます。なんとなくですが。
それとは別に、「サンヤツ」の個人的な課題は地方紙をどう使っていくのかということです。
地域特性を生かせる本の場合、そこに広告を打つということはありますが、それ以上のことは判断しがたく、判断できるための材料が欲しいなと思っています。地方紙の特性を詳細に把握して、それに応じた広告の展開ということを考えることができたらいいなと。最近はそんなことを考えます。
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