私たち古本屋、本も出しています! 『那覇の市場で古本屋』出版記念
ジュンク堂書店那覇店が出来て四年ほどだった。新刊が出ると、ジュンク堂でちょっとした記念イベントをするのは定番となっている。だいたい著者が新刊について語るトークイベントである。内容、著者の知名度(もしくは知り合いの数)によって、集まる人数は様々だ。これまでだと『琉球怪談』(恐い話の朗読と体験談トーク)、『沖縄苗字のヒミツ』(新書だが沖縄人の関心の高いジャンル)、『琉日戦争一六〇九』(琉球史への興味は最近また高まっている)などのトーク・イベントに多くの人が来てくれた。
今年七月下旬に刊行し、すぐにジュンク堂書店那覇店でイベントをしたのが、『那覇の市場で古本屋 ひょっこり始めた〈ウララ〉の日々』宇田智子著である。実は著者が元ジュンク堂書店那覇店の副店長だったのだ。異動によって東京(池袋店で人文担当だった)から沖縄県那覇にやってきた彼女が、なぜだが那覇の牧志第一公設市場向かいで狭小の古本屋を始めてしまった、その顛末をまとめたエッセイ本。
突然辞めてしまった書店でイベントするのはいかがなものか、という躊躇はなく、ジュンク堂那覇店のスタッフもおもしがって、あたたかく迎えてくれた。
ただ著者の宇田さんは「ひとりでは何も喋ることができない」というので、一計案じて同業者の那覇近辺の古書店の方々を読んで、出版記念にかこつけたトーク・セッションという形にした。題して「私たち本もだしてます 〜今、元気な沖縄の古本屋さんたち〜」。
沖縄の古本屋さん、特に那覇近辺の古本屋さんがここのところ注目を集めている。ここ数年で増えたということもあるが、実は、古本屋店主自ら本を出している例が多いのだ(実はうちの会社からですが)。
この記念イベントに来てもらったのは、宇田さん(市場の古本屋ウララ/『那覇の市場で古本屋』)以外に、三木静 (小雨堂/『琉球こどもずかん』ほか、イラストレーター・切り絵)、小原猛 (damdambooks/『琉球怪談』ほか怪談作家)、宮里千里(宮里小書店/『シマ豆腐紀行』ほか、エッセイスト)といった面々。
それぞれ店のカラーも違うけれど、出している本の内容も違う。いわゆる古書店の本ではないのだ。なぜこんなに多彩な面々が沖縄で古本屋さんを始めることになったのか、それだけでも興味をそそるところだろう。イベントは金曜日の夕方というスタートにもかかわらず、多くの人が集まってくれた。
ここ数年、那覇でも街角から新刊書店がどんどん消えていった。ジュンク堂の出店と関係があるのかどうか、いやそれ以上に那覇も郊外化が進み、消費者が大型ショッピングモールに吸い込まれていくことに原因があるようだ。沖縄の古本屋さんは、その消えていく街角の本屋さんの役目も担っていくのかもしれない。そして彼らが見つめる街の様子というのも、これからいろんな形でまとめていけたらおもしろい……。その第一弾が、『那覇の市場で古本屋』となるわけである。
沖縄に旅行の際には、ぜひ那覇の牧志第一公設市場向かいの、市場中央通りの「市場の古本屋ウララ」に立ち寄って、そこで書かれた本を手にとってみてください。
追伸 全国のジュンク堂を始め新刊書店でももちろん買えますが。
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