ベストセラー1歩手前
先月(2013年1月)の版元日誌で社会批評社の小西さんが「梓会出版文化賞特別賞」を受賞したという文章を載せていましたが、弊社も、第9回出版梓会新聞社学芸文化賞を受賞いたしました。あの東日本大震災を忘れないという考えのもと、弊社の『3.11 慟哭の記録』(金菱清 編東北学院大学 震災の記録プロジェクト)が評価されたようです。この梓会の賞ですが、じつは8年前にも一度本賞を受賞しており、そのときは小熊英二氏の『〈民主〉と〈愛国〉』が評価されております。
さて新曜社は大きくわけて哲学・思想、社会学、心理学、文学評論といった分野の本を出しております。なかでも心理学書は、その専門性の高さのゆえか、こうした賞の対象となることもなく、また一般紙誌に書評が掲載されることもあまりありません。
しかしなんとか心理学の研究成果を一般の読者にも広げたいという願望が常にあります。
かつて、もう10年以上も前になりますか、弊社ウェブサイトに「営業ニュース」というコーナーがあったのですが、そこで「ベストセラー1歩手前」というテーマでビジネス書や自己啓発を読む方々を想定しつつ、こんな本はいかがですか、とすすめたりしていました。じっさいは「なーんで『脳内革命』とか売れてるのに、ウチの『化学装置としての脳と心』は売れないんだ」とか「あんな自己啓発本を読むぐらいなら、ウチのを読んだほうがためになる」といった、やっかみといいがかりを書きつけていただけなのですが。
そこで取りあげた一冊で、デシ&フラスト著『人を伸ばす力』という本は、一時は常備からも外れて、重版するかしないかの瀬戸際の本でした。が、時機に適ったのでしょうか、その後注目されて、いまや弊社のロングセラーとなっております。人の能力を伸ばすのにアメとかムチはもう古いといった、昨今話題のスポーツ指導者にぜひおすすめしたい一冊であります。
同じく紹介した、愛着のある本、T・ウィルソン著『自分を知り、自分を変える』は人間行動の意識では知ることのできない適応のメカニズム=適応的無意識についてくわしく解説したものです。この考えは、日本でも著名なマルコム・グラッドウェル氏の『blink』(邦題 『第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい』光文社刊)でその科学的基礎として紹介されていることから、これはいけると思ったのですがなかなか難しく、7年かけてようやく初版を売り切りました。
しばらく在庫を切らしていたのですが、さきの『人を伸ばす力』が根拠のない自信となったせいか、重版を決めました。いやあ、昨年末から今年にかけて、書店さんのベストセラーとなっている人生を変えたりできるスタンフォードな本が出たからでは決してありません。重版したのは「スタンフォード」が出る前の昨年10月ですし。しかし、尻馬に乗れるならぜひ乗りたいところです。
いつだってベストセラーの99万歩ぐらい手前の、ささやかな夢ぐらい見たいものです。
ぜひぜひお見知りおきのほどお願い申しあげます。