英国出版社との提携
毎年9月に入ると欧米出版社からの出張訪日が相次ぎます。何故残暑のこの時期にとも思いますが、一つは半ば儀礼化してしまったフランクフルトでの商談の前に、日本の取引先との主要な案件を詰めておきたいということ、そしてもう一つは9月初めの北京ブックフェアと合わせてのアジア出張という事情もあるようです。「北京BFのついでに日本か…」と少々寂しくもなりますが、「東京ブックフェアの後で中国に出張しないの?」と尋ねてみても、「東京でブックフェアってやってるの?」なんて返されるのがオチでしょう。とは言っても、英語圏の学術出版社にとって、大学図書館や研究機関を中心とした日本の洋書市場は大きく、国別では米英に次ぐ規模を今でも維持しているようです。特にこの数年は円高の恩恵もあり、日本国内の洋書店との友好関係を維持しておけば、出版社側がさらに努力をしなくても円高分に応じた為替差高に応じた売上アップは期待できる、安定した市場になっています。
弊社が業務提携する英国Routledge(ラウトレッジ)からも、先日海外担当の営業トップと日本で特に重要な学術史資料出版部門の編集者の2名が来日し、数日間行動を共にしました。Routledge(http://en.wikipedia.org/wiki/Routledge)は19世紀から続く英国の老舗でしたが、この四半世紀は出版社売買収の渦に飲みこまれ、多くの中規模出版社の吸収合併を繰り返しながら、結局はSTM出版社大手Taylor & Francisに買収され、そのグループの人文・社会分野の学術出版部門として名前が残っています。T&Fグループはその後も拡大を続けており、この1~2年の間にも環境学のEarthscan社、建築学のArchitectural Press、写真工学のFocal Pressといった専門出版社を買収し、Routledgeの部門に吸収合併させています。その結果、グループ全体で年間4000点の新刊書と1600点の学術誌を刊行する英国最大手の一つに成長していますが、このグループも今では更に大きな情報業界のコングロマリットInforma (http://www.informa.com/) の傘下になって、Informaの学術出版子会社となっています。これら売買収の背景には勿論英文学術情報の電子産業化による、巨大な投資マネーの出版界への流入がありますが、それにより多くの個性的な独立出版社が消えてゆく一方で、急速な学術出版の電子産業化を可能にしたことも事実です。T&FグループでもSTMジャーナルや図書館向けレファレンスだけでなく人文・社会系の学術研究書にいたるまで、ほぼ全ての雑誌・書籍がグループの一つのサイトから電子媒体で提供され (http://www.tandfonline.com/) (http://www.tandfebooks.com/) 、世界中でで同時に公開・購買できるようになっています。
弊社では設立以来ラウトレッジと協力関係にあり、主に人文・社会関連のレファレンスや英文史資料出版の企画アイデアを日本から提供したり、日本の研究者の方との窓口業務を担当すると同時に、弊社の英文出版物の国外での販売をT&Fグループの物流網に乗せてもらっています。先日弊社編集者のインタヴュー記事が、同グループの図書館向け広報誌 Library Lanternに掲載されました。提携に至る経緯やT&Fの電子情報プラットフォームから弊社書籍を提供しない理由など、ご興味のある方は同誌第3号(http://www.tandf.co.uk/libsite/news/newsletter/LL-issue3-2012.pdf) をご覧ください。