長年の夢だった建築の本にチャレンジ!
みなさん、こんにちは。音楽を愛する人のための出版社、アルテスパブリッシングの鈴木です。
今月発売した単行本『みんなの家。建築家一年生の初仕事』(光嶋裕介著)は、アルテスパブリッシングにとっても僕自身にとっても、さまざまな意味でチャレンジングな企画でした。さいわい多くの人の応援を得て、順調なスタートを切りつつあります。
昨2011年11月13日の午後、新大阪でJRに乗り換えて神戸の住吉駅に向かいました。この日、めでたく竣工なった内田樹さん(ミシマ社から発売されたばかりの『街場の文体論』も絶好調ですね)の自宅兼道場兼能舞台兼寺子屋「凱風館(がいふうかん)」がお披露目され、内部を見学できるオープンハウスが開催されていたのです。住吉駅からの道を歩きながら、僕は期待に胸躍らせるより、どちらかというとかなり緊張していました。
設計を手がけた建築家・光嶋裕介さんが半年以上「ほぼ日刊イトイ新聞」に連載していた「みんなの家。建築家一年生の初仕事」の担当編集者として、建物のコンセプトも使われる素材もスタッフの顔ぶれも理解していましたし、図面や模型もたくさん見てきましたが、現場に足を運んだのはまだ骨組みだけだった上棟式に参加した時だけで、じっさいに自分の目で見て体験するのは初めてのことでした。
ほぼ日の連載は、もともと僕のもちこんだ企画を乗組員のWさん、Tさんがおもしろがってくれてスタートしました。工事の進捗から2ヵ月ほど遅れて翌年1月いっぱいで完結させ、書籍化の作業を始めることにしていました。すばらしい建築ができあがったはずと信じてはいたものの、完成した凱風館にいざ足を踏み入れてみて、万々が一にもがっかりしたり期待外れだったりしたら? あるいは素人ゆえに建築の良さを理解することができなかったら……という一抹の不安はぬぐいきれなかったのです。
しかし1時間、2時間と凱風館のなかで過ごすうちに、そんな心配はいつの間にか消し飛んでいました。高い屋根を載せて大きく広がる空間、檜や杉、漆喰、瓦といった天然の素材の香りと安心感、1階の道場をぐるりと囲むべんがらの朱色の美しさ、琉球表の畳の柔らかな感触……なんとも心地よいバイブレーションがからだにしみこんできます。いつまでもここにいたい、そう思わせる力のある、快適な空間を、まだこれといった実績のない新米建築家は見事に作り上げていたのです。
建築の単行本を手がけるのはまったく初めて、しかも著者は出版界では無名、頼みの綱は施主・内田樹さんのご高名のみ^^;、ということで、改めて原稿に手を加え、写真を選び直し、と編集作業にもひときわ力が入りました。カヴァーには著者自らの手になる凱風館を描いたドローイングをあしらい(珍しくバーコ印刷を使用)、また、信じがたくも幸せなことに、『バガボンド』の連載再開を控えてご多忙のなか、漫画家の井上雄彦さんがわざわざ凱風館に足を運んでくださり、施主・建築家とのスペシャルな鼎談が実現。夢のようなボーナストラックを単行本に収録しています。
アルテスパブリッシングはこの春におかげさまで創立5周年を迎えることができました。願わくばこの本を大きなジャンプ台として、次の5年の飛躍につなげたいと思っています。