デフレ時代は再販制にプラスかマイナスか
いよいよこの三月三十一日に公正取引委員会から本の再販売制度を継続するかどうかの大方針が出ることになっている。「本は全国どこで買っても同じ値段、同じ本は同じ定価のままずっと売られている。」この日本の常識は必ずしも世界の常識ではない。再版制がなくなると、日本でも常識からはずれてしまう。
この問題については、多方面から議論が積み重ねられてきた。それを繰り返すことはしないが、いま新たな問題が持ちあがってきている。いま日本経済が入り込んでしまったデフレとの関係だ。政府や日銀はデフレ下にあると認めたがらないし、認めてしまうとそのアナウンス効果が大きすぎるのを懸念するのもわかる。しかし、間違いなく物価は下がりつづけている。衣料品や食料品の全般的な値下がりは著しい。300円以下のランチ特集が週刊誌を賑わしている。
こういう状況下で再販制の意義を出版社が読者に理解してもらうにはこれまでどおりの説明では難しいのではないか、ことによったら反感を買うだけに終わるのではないか。
これまで数十年にわたって私達は基本的にインフレ下で生きてきた。物価は大なり小なり必ず上がるものであることを前提にしてきた。そのなかで版元は「本は物価の優等生」だと主張してきた。他の商品に比べてこんなに価格上昇率が低いと誇示することさえしてきた。実際、小社が22年前、創業直後に発行した最初の本が980円。もし、いま同じ本を出してもおそらく1300円以上の定価をつけられないと思う。
しかし、読者からしてみれば、それはこれまでの話。現実に他の物価が急速に下がり出したなかで、過去数十年の価格上昇率が低かったという理由だけで「本の価格は絶対下がりません」という説明に納得してくれるかどうか。読者の本離れが進むだけに終わらないだろうか。
出版社サイドからすれば物価が半分になっても最初につけた定価で本が売れてくれるのはうれしい。だがそれだけでは、このデフレ下においては「再版制の上にアグラをかいている」と批判されてもしかたない。たいへんな状況下にあることを版元は理解すべきではないだろうか。
とるべき対処はふたつ。ひとつは本の流通の徹底的改善。もうひとつは再版制を生かしつつ、価格の硬直性を打破すること。前者は版元レベルだけではできない。後者は版元が読者との関係でどのような発想に立つかで実行可能なことである。
三月三十一日の結論を見てからにしようという、この業界特有の様子見が蔓延しているようだが、版元自身が状況打開の議論を起こし実行すべきときではないだろうか.