2010年は(うちも)電子書籍元年。iPhone電子書籍発行、けっこうおもしろいです(実録)。
2010年が去りつつありますねえ。
長い夏の後の短い秋。いやー、身体に堪えました。
あ、どうも。メディアイランドです。社長の千葉です。大阪は吹田市で、去年立ち上げたばっかりの版元です。事務所は西日本出版社さんに居候しております。
今年はさまざまなことが我が社にもおこりました。
日販との取引が開始したことが版元としてはまずは一番の出来事でしょう。
二番目は、電子書籍の出版を始めたこと。そしてその電子書籍が、ダウンロードの上位に位置していることですかしらん。
小社の事務機器および通信サービス全般をお任せしている大塚商会の営業担当から「法人対象にiPhoneを無料レンタルというキャンペーン中なんですが利用しませんか?」と提案があったのが2月。無料に心引かれて、即契約。早速電子書籍をダウンロードしてみました。最初にダウンロードしたのは小飼弾さんの『弾言』。意外な読みやすさに結構なショックを受けました。(電子書籍侮れずという印象。で、「あ、こんなのつくりたいぞ」って思いました。)
iPhone電子書籍に興味を寄せつつ、マンガや占い本なんかをダウンロードして読んでいたのが4月。「電子書籍の出版にご関心はありませんか?」とiPhoneアプリの開発業者からのセールスの電話がかかってきました。ステークホルダーコムの増井氏。
「ウチも去年の12月に創業したばかりなんです……」という言葉に、新参者同士共感を覚え、ここからステークホルダーコムとの協働を決めたのでした。
そのころの私は、大取次さんとの口座開設がなかなか進捗せず、かなり腐っていました。なにかこう、突破口はないものかと思い悩む日々。これか突破口になるかも!?
電子書籍に関しては,iPadやキンドルの発売等で「黒船来航」などと大騒ぎだった時期でしたねえ。電子書籍の標準フォーマットさえ決まらないのに、紙の本は消えてなくなるかのような狂躁。
とはいえ、冷静な友人たちは私に言ったものです。
「電子書籍なんて商売にならないものなんてやらんとき」
「儲かれへんって」
止められたら、俄然やる気を出してしまうのが私の性ということを知ってかしらずか。
「ふうーん。在庫も抱えなくてすむし、経費も勉強してくれるっていうし。ほんならつくったるわ!!!」
商品として利益を出すのが難しいなら、「宣伝物」としての位置づけです。
著者の了解さえとれれば、そしてPDFさえあれば、ある程度加工するだけですぐに作れそうだというのが、いくつかの電子書籍をダウンロードして読んでみた私の印象。それなのに、旧知の版元さんは取り組もうとしないのが不思議でたまりませんでした。(ま、権利関係がいちばんやっかいだからでしょうね。熟慮というのも大切ですから。)
ともかく何か突破口を求めていた私は、今年の5月に刊行した『ふふふの処方箋』の2割を『ふふふの処方箋Lite』(全40ページ)をiPhone電子書籍(無料版)として、6月18日の深夜にAppStoreにてリリース開始。
『ふふふの処方箋 Lite』
(発行・発売というんではなく、リリースというのがiPhoneらしい)。紙の本に誘導できるよう、Amazonにもリンクを貼りました。
いやー。びっくりしましたね。
即日約500件のダウンロード。1カ月約1400ダウンロード。
しかし、この企画はiPhoneのユーザーとはフィットしなかったようで、それ以後の伸びはありませんでした。
iPhone電子書籍第2弾は『心理の達人 思った通りに生きられる77のヒント』(前田大輔著)。
これは有料版にしました(2010年8月26日リリース)。事情があってこの本は印刷データもテキストデータも手元にありません。ないならないで、横書きの本にしたれ~(紙の本は縦書き)ということで。テキスト入力をいちからやりました。こちらも社内での位置づけは「宣伝物」です。
こちらは一旦全ページダウンロードしてもらい、そのうち15%ほど無料で試し読みができるという形式。のこりが読みたい人は600円で購入する仕組み(紙の本は1260円)。
これがまあなんと。
最初の10日間で1万3000ダウンロードを達成しちゃったのです。
仰天しました。
電子書籍無料版というカテゴリでは実質第1位をとり、この状態はかなり長期間続きました。11月末現在、リリースから3カ月で無料版のダウンロードは6万 5000件を超えてしまいました。コンスタントに0.85%の人が有料版を購入されています。紙の本もこの連動し始めました。(11月25日の大阪日々新聞によると、国内のスマートフォンは約440万台。いまのところ大半はiPhoneでしょうね。ソニーから電子書籍リーダーが発売されますが初年度の売上目標は30万台だそうです。)
好調の原因は
1. 自己啓発という内容
2. 著者の多方面にわたる宣伝(ブログ、ツイッター、TV出演、講演)
3. タイトル
4. 初速がよかったこと
の三つ。
とくに、ツイッターの効果は大きいと思います。iPhoneと親和性の高いソーシャルメディアです。著者や版元のツイートから即AppStoreにアクセスしダウンロードという経路がシンプルでいいんでしょうね。私もそのルートで何冊もほかの書籍をダウンロードしましたから。
また、iPhoneユーザーは、多分営業関係のサラリーマンか若い女性が多いんでしょう。自己啓発ものに関心が高いのは納得できます。ちょっと気を引くタイトルも功を奏したんでしょうね。
とはいえ最初に上位につくよう、何らかの策を講じないと埋もれてしまいます。つねに上位のアプリしかプレゼンされないのです。書店の店頭で売れ筋商品は平積みを何面もだしてもらえるのとおんなじ理屈。あるいはそれ以上に厳しいかも……。
こうなると人間、欲は出てくるものですよね。
「これに、115円でも値段をつけていたらねえ……」(AppStoreでは最低価格が115円)
と幾度社内でつぶやいたことか。
自明のことですが、電子書籍は、いくら売れても製造費は不変。流通経費もいっさいかかりません。ダウンロード数は2日後に実数が報告されます。課金の仕組みも単純で、AppStoreの取り分は30%。売上金の振込は二カ月後。
いいことばかりのようにも思えますが問題も。AppStoreには、Apple社の承認がおりたアプリしか販売できません。申請後認可が下りるまで1週間から10日かかります。(最近は、もう少し時間がかかる場合もあるようです。)
当然認可が下りない場合もあります。小社の発行物でもすんなり認可が通ったのは最初の1冊だけ(冊とはいわないか……)
しかし、その認可の基準がはっきりしないんですよ。以前は認可おりていた同様のケースでも今回はダメなんていう場合もあります。もっと大変なのは予告なくリリースが中止されることもあります。グラビアアイドルの写真集がその例だそうですね。
電子書籍の評価は様々あれど、紙の本とは異質の存在として育っていくのではないですかねえ。だって面白いもの、形態自体が。
商品の流通形式としても面白いです。版元を立ち上げたばかりで若干閉塞感を感じていた私には、自由に活動できる領域に思えます。
半年ほど「宣伝物」作成という位置づけで実験を重ねてきましたが、これからは本格的にビジネスとしてみていくつもり。解決すべき問題山積で、ほかの版元さんが躊躇することでも、小さな版元は小回りを効かせていろいろとチャレンジできそうだなあと思っています。
追記:(1)ほぼ同時にリリースした『田中ひろみの勝手に仏像ランキング』
は、無料版がまだ2000ダウンロードを超えない。容量が大きすぎてWiFiに接続していないとダウンロードできないという煩わしさがあるからかな。地図部分がGoogleマップとリンクするという、電子書籍ならではの楽しさと利便性があるのだけれど。
(2)個人的に2010年最高にうれしかったのはボブ・ディランのライブに行けたことですね。