息子が、父の本を・・・
こんにちは。東京シューレ出版の須永祐慈です。
新宿区の曙橋にある小さな版元で、部屋の両隣は「チャイルドライン支援センター」と「原子力資料情報室」、そして下の階には「ビックイシュー東京事務所」が入居する、ちょっと不思議な建物の中にいます。
この「版元ドットコム」でつながる版元のみなさんのなかには、私どもの会社のように、5人以下でやっている会社も結構おられるかと思いますが(先輩方、尊敬します!)、「出版社にいます」というと、いまだに多くの人は、大手の出版社のイメージが浮かぶようで、私たちのような数人でやっているところを想像するのはなかなか難しいようですね。
さて、そんな小さいながらも先日までの暑さに負けずに活動している私の会社では、この夏4冊の新刊を出しました。小さくやっているだけに「4冊」というのは実はかなり大変で、相当なエネルギーをつかって出しています。
著者とのやり取り、本文デザイン・レイアウト関係、営業の準備、何より細かい原稿の編集、確認、校正などなど……を4冊同時に!。6月中旬から8月中旬にいたるまで、2ヶ月間ほぼ一日も休むことなく、またほぼ終電の毎日。
私の知る編集者の方々は、会社に泊まることもよくあることとか。でも私は、泊まることだけは避けようと、いつもがんばって帰宅・・・。
9月に入り、ようやく4冊全ての本の配本(取次といわれる仲介業者に、出来た本を出荷する)を終え、後は地道な営業をしているところです(それだけでなく、次の企画や運営面も考えなくてはいけないのが大変なところですね)。
そのなかの1冊に『生きられる孤独』があります。
教育や社会、家族の問題など、鋭い視点で発言を続けてこられた評論家の芹沢俊介氏と、同じく子どもや家族の問題について家庭裁判所調査官として長らく現場にいた、現大学教授の須永和宏氏の往復書簡をまとめたものです。
お二人のやり取りは、ちょうど「アキハバラ事件」が起こった時期をまたいだこともあって、事件そのものの話から親子について、不登校、発達障害、自閉症などの問題、最近流行の(!?)「便所飯」にいたるまで、いろんなテーマを取り上げました。
今の子ども・若者の心情を掘り下げ、彼らの立場・視点に立ちながら根底にある問題を引き出しています(と担当者は思っています)。
「生きられない孤独」としてではなく「生きるために孤独になる」と周りが持つ視点が変わってくれば、閉塞感のある子どもや若者の問題に、少しずつ道がひらけてくるのではないか。そんな思いがあります。
その本について担当した私は、実は著者の一人である須永和宏の息子でありました(そしてこの日誌も書いている)。
世の中には「親と子」で書かれた本は数多くあるかとは思うのですが、親の本を息子が担当して出版することは希少な機会ではと思いますが、どうなのでしょうか。
私の気持ちとしては、少々コッパズカシさがありますが、それよりもこの貴重な機会が得られたことに、しずかなうれしさを感じています(おそらく立場が逆転して、私が著者で父が編集者だったら、きっとかなり書き換え修正されていたかもしれず、うれしさは半減以下になっていたかも)。
制作の最中は、途中までは大きな混乱もなく進めることは出来ましたが、やはり親子ということもあり、特に装丁デザインで2日間にわたってかなりぶつかってしまう場面もありました。私もつい「カッ」となり数日腹を立ててしまったことも。いくら仕事上とはいえ、親子は親子なのだと実感したところです。
話は変わりますが、6月からiPadをはじめとする「電子書籍」に関する話題が、すでに長らく出版業界の話題をさらっています。
私も、年頭からツイッターをはじめたり(@mediashure 個人としては @yujisunaga)、iPad(16G,Wi-Fi)を予約購入し、iPadがだいぶ日常化しているところです。
これらの「端末」によって本を取り巻く世界だけでなく、私たちの文章の読み方や情報の取り方も、徐々に、まちがいなく変わるだろうと私は思っています。そこでやはりそこに重要となってくるのは「何を、誰に、どうやって伝えたいのか(つながりたいか)」ではないかという思いを強めています。
私どもの少人数の版元も、この変化で今後もなにかと大変さが増すことが予想されますが、伝えたいことを伝えたい人に届ける手段が増える分、逆に可能性が秘められているのではないでしょうか(すでにツイッターを使う人の中のように表に出始めているところもありますね)。
というわけで、今後も本は私たちのメディアとして大事にしつつ、伝えたいことを伝えていく「中くらいのメディア」として、私自身も気持ちを込めながら、この新しい「ツール」を積極的に利用していこうと思っています。この変化のときをチャンスとして取り込み使ってやろう、というわけです。
私たちとつながる皆さんとともに発信を続けて、つながりの輪を広げていきたい、そんな意気込みです。
おっと。最後に『生きられる孤独』の新刊のほかにも『 子どもをいちばん大切にする学校』(奥地圭子著)と、『ゲイでええやん。——カミングアウトは息子からの生きるメッセージ』(伊藤真美子著)もどうぞご注目ください!
ご覧いただいておりますみなさん、今後ともごひいきに。