「悪評本」は売れるか?
「戦前なら恐らく『売国奴』扱いを受けかねない内容です」
「日本には言論の自由がありますから、書くなとは言いませんが、こんな本は買う価値がありません」
こんなふうに読者から「レビュー」された本は、はたして売れるのだろうか?
結論から言えば、売れているのである。
書名は、『「尖閣」列島 釣魚諸島の史的解明』(第三書館/2000円+税 )。
40年前のミリオンセラー『日本の歴史』(岩波新書)などで知られる歴史家・井上清が、日中だけでなく、ヨーロッパまで文献を求めて著した労作だが、刊行から15年を経て、いま売り上げを急激に伸ばしているのだ。
その理由は明白で、「中国船長逮捕事件」以降に売れだし、先日はアマゾンから50冊の注文が入り、その後も毎日20冊前後を出荷している(小社では異例の数字)。
しかしアマゾンの「カスタマーレビュー」は、冒頭のような「悪評」がズラリ。他にも、「中身がない本です」「こういう書籍を沢山著していたのが昔の自称進歩派言論人なんだよな」などと続いている。
その本が売れているのだから、「悪評も評なり」とはよく言ったものだ(もちろん中身は「ない」どころか、たっぷり「ある」のだが)。黙殺されるぐらいなら、悪評の方がずっとマシと思えるかどうかは、社によって意見が分かれるかも知れないが……。
マスコミは、民主党政権が日中関係をこじらせたと顔をしかめつつ、朝日新聞から読売新聞までこぞって中国脅威論を書き続けている。
深夜のJR車内では、「なんだよ、中国のバカヤロー」とリアルにツイートしている酔客を見かけたこともある。
近代のあらゆる戦争が「敵国を侵略せよ」との勇ましい号令ではなく、「敵国に侵略されるぞ」との危機感を煽ることから発していることを考えれば、相当にキナ臭い状況が大手新聞によって醸されている。
しかし、声の小さな版元も、手をこまねいているワケにはいかない。
くだんの「レビュー」には、こんなコメントもあるからだ。
「近頃に見られる日本の一方的な主張に飽きた方は一度見てみてはいかがだろうか。相手の主張も聞くことは社会のルールであるわけで…」と。
さて、わたしたちはどれだけ尖閣諸島のことを知っているのか。
少なくとも、わたしはその日本名が、英国海軍が測量した際に名付けた「ピナクル(尖塔の意味)」の翻訳だなんてこと、この本を読むまで知らなかったのだから、まったく世話のない話だ。