南アフリカの子育て事情
南アフリカで行われたワールドカップは、日本代表の思わぬ活躍もあって、盛り上がりのうちに終わりました。もともと関心はあったのですが、今回は南アフリカということもあってさらに関心が倍増。というのも、海鳴社で働くようになって最初に手掛けたのが、4月に刊行した『南アフリカらしい時間』というエッセイだったからです。ワールドカップで南アフリカが注目され、本書に対してもある程度関心が寄せられることを期待していましたが、思っていた以上にメディアから問い合わせが入り、ラジオや書評等でも紹介されました。ただワールドカップが終わり、南アフリカへの関心が薄れると、本書への関心も自ずと……となるのはしかたのないことと思うものの、一過性で終わるのはもったいない内容なので、今後も細く長く売れつづけてほしいと願っています。
著者の植田智加子さんが、本書とは別に、乞われて南アフリカについて書いた記事で、ぜひ紹介したものがあります。それは南アフリカの子育て事情です。本書でも子育てについて多くのページが割かれていますが、下記の話は初めて知りました。
「とても意外だったのは私が息子の面倒をみていると、ときどき黒人の女性に『ありがとう』と言われることでした。ある時わけを聞いてみると『アフリカでは子どもはみんなの子どもだって考えるから、子どもが満足そうにしていれば、ちゃんと面倒をみてくれてありがとう、と言いたくなる』と言われました」
著者は南アフリカで暮らすようになってから子どもを出産、シングルマザーとなります。「虐待の可能性がなかったとも言えない」と本書で述べているように、決して順風満帆だったわけではありませんが、「チカコが自分の国でない南アフリカでひとりで子どもを産んだのに、なんだかすごく楽しそうに子育てをしていたから」と、これからひとりで子どもを産んで育てようとしている南アフリカの友人から言われます。そう周りから見られるくらい「順調」に子育てできたのも、まわりの温かな、ときにはおせっかいすぎる目があったからだと著者は言います。
子どもはみんなの子どもと考え、子どもを見ると無関心ではいられない南アフリカの人たち。たとえ見ず知らずでも、子どもがいやな思いをしていると思ったら「お願いだから私の赤ちゃんを大切にして」と言いたくなるし、子どもが満足そうにしていれば「ありがとう」と言いたくなる南アフリカの人たち。南アフリカに関してはとかく、治安の悪さや政治の腐敗などマイナスイメージで報道されることが多いのですが、南アフリカの人々がこんなにも温かな視線で子どもたちを守り育てていることは、ぜひ多くの方に知ってもらいたいと思います。
南アフリカワールドカップでオープニングシュートを決めたのは、黒人居住区ソウェトで生まれ育ったチャバララでした。彼を育てた人々の喜びはいかばかりだったでしょう。