「名言」で女子心を捉えるべくーー
陰りある時代を反映してか、最近は金言集や自己啓発系の書籍が軒並み好調のようです。手前味噌な話ではありますが、昨年9月に小社で刊行した自己啓発本『考えすぎない』(本多時生著)もじれじれとロングヒットを飛ばしています☆自演乙。
この自己啓発特需にあやかり、小社でも次なる一手、例えばエッヂの効いた名言集などを世に放てないものかとあれこれ類書を探り、企画を練っております。
そんな折、ディスカヴァ-・トゥエンティワンさんから今年1月に出版された『超訳 ニーチェの言葉』と出会いました。都内近郊いずれの書店さんを回ってみても、エンド台に平積みないしレジ前でドーンと展開されている上に、シンプルでありながら威風堂々としたあの装丁、さらには「人生を最高に旅せよ!」というポジティブな帯コピー、いやはや抜群の存在感を放っていらっしゃる。
と思いつつ手に取ってみれば、オモテの重厚感とは対照的に中身は超シンプル、含蓄ある言葉が噛み砕いて解説されているので非常に読みやすい。こいつはよくできているなあ、と僭越ながら感服いたしました。一部のニーチェマニアからはその「超」訳っぷりに対する否定的な声も上がっているようですが、ニーチェという偉人の豊かな感性や鋭い人間考察にソフトに触れられるという意味では、哲学オンチな私などにとっては極めて〝沁みやすい〟書籍であります。
こうした類の書籍、中高年層ばかりに受けるのかと思いきや、それに勝るとも劣らぬ勢いで20代~30代の若い女性に売れているから面白い。実際、『超訳 ニーチェの言葉』の動向を調べてみても、その世代の売り上げが30代~40代男性の購入数に肉薄するほどの勢いです。この傾向は小社の『考えすぎない』についても同じことが言えます。
両書籍が果たして同じタイプの女性に売れているかどうかは精査が必要なところではありますが、いずれにせよ、疲弊感、悲壮感漂う昨今にあって、この世代の女性たちがいかに自己と向き合おうとしているか、その奮闘ぶりを物語る一つの指標といえるかもしれません。内向きか外向きか、自己憐憫か自分磨きか、その向き合い方に差こそあれ、わりとアクティブに〝現状打破〟の手立てを見出そうとしている、とでも言いましょうか。手相や占星術、ダイエット関連の本の売れ行きなどを見ても、同世代の男性よりもよほどエネルギッシュな「生」を感じる。
なんて愚考しながら企画を練るものの、アイデアの泉は枯れたまま、春の訪れは遠くって……。
そんなわけで、ひたすらに名言集を熟読する日々を送っております。ニーチェもよいのですが、個人的にはニーチェにも影響を与えたといわれている17世紀のフランス貴族、ラ・ロシュフーコーのネガティブかつ辛辣な名言が好みです。名言辞典を読んでいて「おっ」と思った言葉のほとんどが氏の箴言でした。以下、とくに気に入った言葉を幾つかご紹介しましょう。(出典:『世界格言・名言辞典』東京堂出版/モーリス・マルー編、島津智訳)
――愚か者は、親切な人間になるほどの器を持ち合わせていない。
(愚か者だけど、ちょっとは親切です! とか言いたくなる)
――大部分の人間の感謝の念は、もっと大きな恩恵にありつこうとするひそかな欲念にすぎない。
(「ありつこうとする」と表現した訳者さんの妙技☆)
――我々は、どんなものでも自分自身のためにしか愛することができない。
(それでも愛するんでしょ? とか言いたくなる)
――我々が良識の持ち主だと判断する相手は、ほとんど我々と同意見の人々だけに限られている。
(……まあ、そういう見方もあるかもしれない)
「愛こそすべて」「上を向いて歩こう」的なポジティブワードで己に発破をかけるのもよいですが、人間の浅ましさをえぐり取ったネガティブワードに反感しつつも共感し、諦めつつも不屈を抱きという心理作用もそれはそれでひとつの「癒し」。なるほど、こういう切り口もアリっちゃアリかもしれません。
それにしても、ニーチェにせよラ・ロシュフーコーにせよ、自分の発した言葉が何百年もの時を経て、大海を渡り、ジャパンなる小さな島国に暮らす人々の心の糧となっていると知ったら、一体どんな言葉を発するのでしょうか。是非とも聞いてみたいものです。ついでにどうしたら本が売れるのかも聞いてみたいものです。箴言を。是非とも。