就活とペットショップ
先日某大学の学生が著者に連れられて弊社を訪れた。出版社に勤めたいのだという。
例によって、出版という仕事がどんなに厳しいか、出版社の仕事には編集以外に営業もあれば経理もあること、編集も、刊行物のジャンルによって仕事の内容が相当変わること、大手出版社と弊社のような零細出版社では、労働条件も相当違ってくること等々話ながら、つくづく年寄りじみた話をしているなと、自嘲気味になった。
出版界だけが厳しいわけではなく、どこの業界でも似たり寄ったりの問題を抱えているというのがより正しいのかもしれない。出版業界に関しては可能な限り客観的に伝え、就職活動についてもそれなりに参考になるようなことは話したつもりではあっても、どうも積極的に出版界に就職することを進められない状況に自分があるのが嫌になる。
それにつけても思うのは、外から見る出版界の状況と現実の落差だ。著者も、あるいは異業種の人も、最近は出版界が不況であるというのはそれとなく感じてはいるようだが、それでも書店には大量の本が並び、一見活況を呈しているように見える。しかしそれが大量に返品され、大量に断裁されていることにはまったく気づかない。一般には、書店という表面に現れている現象でしか判断できないのは当然と言えるかもしれない。
そこで思い浮かんだのが、コンビニの棚を賑わし、賞味期限が切れとして毎日何十万食と大量に廃棄される食品の世界だ。それともう一つ思い浮かぶのが、ペットショップの子犬や子猫のことだ。売れ残り、買い手がなくなった子犬や子猫たちは、どのようになるのだろうか。
弊社から出している『地球人』という小冊子で「アニマルセラピー」という特集をしたとき、このことが編集委員の方との間で話題になり、そのような記事を載せようという話になったのだが、適切な執筆者が見つからず、掲載できなかったことがある。
最近TVで、深夜営業のペットショップで、客が来たときのために動物を眠らせないようにするのだという放映をしていた。海外では、子犬を売買するのを禁止されている国もあるというのに。
目の前の現象の裏に隠された真実、それが見えなくなっている時代だなと、つくづく思う。ペットをかわいいと思うだけで、用の無くなったペットを捨てる、生を見て死を見ない現代。就職活動をしようとしている学生に、出版界が不況であるという、そんな腰が砕けるようなことを言っても、それは罪作りな話かもしれない。でも、光は影を生むという、当たり前で言い古された現実を認識しつつ、馬力を出して就職活動をして欲しいと、ますます年寄りじみたことを思ってしまった。